13-28【投獄されし者】

俺は魔王城の地下迷宮をひたすら彷徨った。


ただたた先を進む。


今度は縦格子の扉だ。


一枚目の鉄扉を開けてから縦格子の扉が三回続いている。


人が一人やっと通れそうな通路に、鉄扉に続いて縦格子の扉が三回も続いた。


そのどれにも鍵が付いていた。


今俺の前に在る三枚目の縦格子の扉には、錠前が三つも並んで付いている。


厳重だ──。


螺旋階段の最下層で、鉄扉に続いて三枚の鉄格子──。


厳重過ぎる。


この熱風が吹き出す通路の奥に、何が投獄されているのだろうか?


熱風に混じって霊気も飛んで来ることから、奥に居るのはアンデッドだろう。


だが、差程強い霊気ではない。


上の謁見室で出合ったマミーレイス婦人に比べれば小者だ。


なのにここまで厳重に投獄するのだろうか?


俺は覚えたてのロックピッキングで三つの錠前を上から順々に外して行った。


あっ、トラップもあるぞ。


危ないなー。


扉を開ける寸前でトラップ感知スキルが発動したぜ。


でも、どんな仕掛けのトラップかは分からない。


んー、ここに仕掛けのフックがあるぞ。


扉が引かれたらフックが外れて発動するのかな?


ならば……。


俺は鉄格子の扉にロープを括ると3メートルほど離れた。


「このぐらい離れればいいか?」


そこでロープを引いてみた。


ガタンっと扉が開くと同時に壁から矢が飛び出して来る。


左右の壁から複数のボルトが飛び出したのだ。


なるほど、壁の中にクロスボウでも埋まっていたのだろう。


よし、まあこれでトラップは無くなった。


安心して先に進もう。


そんなこんなあって俺が通路の先に進んで行くと、薄暗い広い部屋に出る。


その部屋の半分から先には鉄格子の壁が列び、その奥には鍛冶屋の作業場が広がっていた。


轟々と燃える釜。


石の台座に並ぶ金床。


大小様々なハンマー。


そして、鉄格子のこちら側の壁には複数の武器が立て掛けられていた。


その鉄格子には強い魔力を感じる。


この鉄格子自体がマジックアイテムだ。


「誰か居るな?」


鉄格子内の鍛冶屋スペースを見れば、木の椅子にスケルトンが一体だけ座っていた。


熱風の正体は釜戸の熱で、霊気の正体は、このスケルトンだろう。


『おや、人間か?』


しゃべった。


このスケルトンは知能を有しているぞ。


まだ自我が残っているアンデッドだ。


俺は友好的な口調で訊いてみた。


するとスケルトンも友好的に答えてくれる。


「あんたは誰だい?」


『その昔、魔王に仕えた罪で囚われた、哀れな魔族だよ』


「魔族のスケルトン?」


するとスケルトンの背後から骨の翼が広がった。


羽の有る悪魔か──。


俺はネーム判定を試みたが反応しない。


おそらく俺たちの間に在る魔法の鉄格子が妨害しているのだろう。


スキルを阻む鉄格子か……。


厄介な檻だぞ。


『昔はレッサーデーモンだったが、死しても探究心が収まらなかったせいで、今ではこの姿だ』


「何を探究したんだ?」


『この住まいを見て分からんか?』


「鍛冶屋仕事か?」


『正解』


「何故、囚われ続けてる?」


『それより戦後何年が過ぎた。俺も三百年までは数えていたんだがな……』


「五百年ぐらいって聞いてるぞ」


『そうか、五百年か……。思ったより時間が過ぎてないな。忘れられるには早すぎだろう』


おっ、出た。


悪魔ジョークだよ。


「それで、忘れられたって?」


『昔、ここに投獄されるさいに言われたんだ。覚えてたら出してやるってな』


「でぇ、忘れられたと?」


『人間との約束だ。約束した人間も、もう死んでいるんだろうさ』


「なるほどね」


『それで、お前さんは誰だい。新しい魔王か?』


「ただのソロ冒険者だ。名前はアスラン」


『そうか、アスランか。これでもデーモンの端くれに、本名を名乗るなんて愚行だぞ』


「あっ……」


まずったかな?


悪魔契約に関して名前は絶対的な束縛条件だ。


悪魔に本名を知られるのは不味いのだろう。


気を付けんとな。


『まあ、アンデッドに落ちた俺に、もうそんな悪魔らしい力はないがな』


よし、なら安心!


「でぇ、あんたの名前は?」


『プロフェッサー・クイジナート。鍛冶仕事にはまった悪魔の教授だ』


あー、カシナートの元ネタね。


本当はミキサーか何かたっけ?


まあ、それは置いといて──。


『それで、お前は俺の救いか?』


「救いとは?」


『私を解放してくれる存在なのかね?』


「場合によるな。何が出来て何が出来ないかだ?」


『鍛冶仕事以外、何も出来ない。ここから一人で出ることも出来ないし、スケルトンだから弱いぞ』


「確かに強い霊気は感じられないな」


『炊事洗濯掃除も苦手だ』


「本当に何も出来ない駄目亭主みたいだな……」


『それで、俺を出してくれるのか?』


「出たいか?」


『もう外の世界に興味が無い。だが、ここには鉱物が無いんだ?』


「鉱物?」


『鍛冶仕事をするのに鉱物は必須だが、もう武具を溶かし直しても作る鉄が無い。溶かし直して作り直すと少しずつ蒸発して減っていき、いずれ無くなるんだ』


蒸発して鉱物が無くなるほど、何度も作り直しているのかよ。


俺は周りを見て言う。


「まだこっちには武具がたくさん在るぞ?」


『手が届かん……』


「なるほど……」


俺は黙って数本の剣を檻の中に放り込んだ。


『おお、優しいな、お前は!?』


「しばらくそれで我慢しろ。この檻は魔法の鍵で閉じられているから、俺じゃあ開けられない。だから、しばらくしたらどうにかしてやるよ」


『いや、鉄さえあれば、それで結構だ。これで百年ぶりに仕事が出来るぞ!』


スケルトンレッサーデーモンのプロフェッサー・カイジナートは釜戸の火を煽る。


室内が更に熱くなった。


あの釜戸はマジックアイテムだな。


だって燃料が何百年も尽きないわけがない。


でも、こいつには他にも秘密があるはずだ。


でなければ、こんなに厳重に投獄する分けがない。


こんな地下に鍛冶屋の仕事場を作ってまでの投獄だぜ。


絶対に何かあるぞ。


こいつ、以外に重要人物なのか?


まあ、いいさ。


いずれ分かるだろう。


こうして俺は引き返した。


螺旋階段を上って今度は魔王軍のエリアを目指す。


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