13-5【エルフの勇者宣言】

若様エルフが血走った目を剥きながら唖然としていた。


無惨にも逆さまで地面に突き刺さるアンドレアの醜態を見詰めている。


「ア、アンドレアが、素手で負けた……。し、信じられねぇ~ぞ……」


「お、おにーちゃん……?」


「なんだ、凶子……」


「もしかして、あの人間ってイケてるの?」


兄エルフに問う妹エルフの頬は少し赤くなっていた。


それを察した兄エルフが否定する。


「いや、外観はかなりダサイぞ……」


「だよね……」


なに、この兄妹!?


超失礼だぞ!!


喧嘩売ってますか!?


「強いから、もう少し格好良ければアタックしたのにさ……。あたいは愛の結晶がハーフエルフでも可愛がれる広い心のエルフなのに」


そんなエルフは好ましいぞ!


俺的にはタイプだぜ!


兄エルフが言う。


「いや、凶子。だからお前の伝説の木刀でやっつけてくれよ……」


風林火山だもんな……。


「だから何度言わせるのよ。あいつのほうが、あたいより強いってばさ。おにーちゃんバカなの!?」


「な、ならば……」


若様エルフが片手を高く上げて背筋を伸ばした。


「全員、出やがれ!!」


そう叫ぶと、今まで隠れて見ていたエルフたちが一斉に姿を表した。


木の陰、家の中、様々なところから姿を現すエルフたち。


人数は百人は居そうだ。


その手には全員弓矢を構えていた。


しかも矢先には何やら魔法の光が輝いていやがる。


しかし、その姿は全員が普通のエルフだ。


やんちゃな格好はしていない。


「なんだよ、俺を村の中まで案内してくれたエルフと一緒で、普通のヤツラばかりじゃんか?」


俺のぼやきを聞いて若様エルフが特攻服をヒラつかせながら答える。


「この格好は特別な衣装だからな。代々の特攻隊しか着れねーんだよ!」


まさにヤンキールールだな。


そんなものをエルフの伝統にするなってばよ。


「人間で言うところの騎士の正装みたいなもんなんだぜ!!」


違うと思います。


それに、やっすい騎士の正装だわ……。


てか、なんで特効服なんだよ。


ここは埼玉か千葉かよ?


「でぇ~、そのお偉い特攻隊が負けたからって数で勝負に変更ですか~。ダサ、超ダサ!!」


「な、なにぃぃいいい!!!」


「だってそうじゃんか、こっちは一人だよ、一人なんだよ。それが腕力に自信があるヤツラがタイマンでコテンパにやられたからってさ、今度は数の力に頼るのかよ。マジでダサイわ~」


「な、舐めやがって!!!!!」


よし、煽りが成功しているぞ。


正直なところ、この数の狙撃は不味いよね。


たぶん村の外でハイエナコボルトを全滅させたのは、この一般ピーポーなエルフたちだろう。


あの自在に曲がる弾道や、頭を木っ端微塵にするマグナム弾を撃ったのは、こいつら普通のエルフたちだ。


だとするならば──。


そんなヤツラの弓矢を百発同時に撃たれたら、流石に俺でも死んじゃうよ。


蜂の巣どころか、刺さった矢で新デザインの生け花状態だわ。


「ぬぬぬぬぬっ、ぷぷぷっん!!!!」


若様エルフは額に複数の青筋を浮かべながら歯軋りしている。


煽れてる煽れてる。


沸点には到達しているだろう。


でも、あともうちょっとかな?


俺は拳をアッパーカット気味に突き出してから勇ましく言う。


「どうだい、あんたが大将ならば、男らしく勇ましく、素手ゴロで勝負をつけようじゃないか!?」


どうだ、これぐらい格好良く言われたら、妹のハートをゲットできたかな?


もうメロメロのはずだ。


「おにーちゃん、落とし前だ。死んで来い! 男らしく玉砕して来い!!」


「凶子、酷い…………」


あー、若様エルフの腰が引けたよ。


心が折れたかな?


落としどころが無くなるじゃんか……。


ここは俺と若様エルフが殴り合って終わりでいいじゃんかよ。


そこに大きな声が響いた。


村全体に轟く大声は、男性の凛々しい大声である。


「社長のお越しでありまーーーす!!」


社長!?


えっ、なに、エルフの村で社長なの??


てか、まだ新キャラが来ますか!?


腹筋が耐えられるかな?


すると村の奥から渋いエルフのオヤジが五人ほど若い衆を引き連れて広場に入って来た。


社長らしき渋いオヤジは筋肉質でガタイが良い。


うっすらと脂肪を蓄えた逆三角形のマッチョマンだ。


そして髪型は金髪だが額から後頭部まで剥げ上がっている。


しかし、堀が深い強面には口髭を蓄えており、全体的に凛々しく貫禄は満点だった。


纏っている服はどことなく成金が着ているような豪華なスーツに似ている。


その成金風のスーツの上に、首から白いマフラーをぶら下げていた。


まるでイタリア系マフィアのボスだな。


まあ、そんな感じだ。


こいつもエルフに見えないが、耳だけは長く尖っている。


そこだけは間違いなくエルフだろう。


んんーー……。


それにしても、見たことがあるぞ。


こいつを昔の世界で見たことがある。


誰だっけな……?


あー、思い出した。


そうだよ、あいつに似ているよ、あいつだよ。


名前が思い出せないが、アメリカのプロレスラーだ。


たしか「イチバーーン!!」とか叫んでパフォーマンスする昔のレスラーだ。


凶子がアフロのズラを投げ捨てて社長に駆け寄った。


「パパーーーン、帰って来てたの~~」


マスクを下げた凶子が笑顔で社長に抱き付いた。


それで分かった。


凶子が無邪気に抱き付いたのが、腹の部分だ。


そう、社長も背が高い。


アンドレアほとではないが、おそらく2メートルを越えてそうだ。


後ろに控えている五人の若い衆も190センチはありそうである。


なに、この世界のエルフって、マッチョマンで長身とか普通に多いのかよ。


だいぶ俺のイメージと違うわ。


「パパ~ン、いつ帰って来たのよ」


「たった今だよ、凶子。……それよりもだ」


社長が抱きついていた凶子を片手で押し退けた。


そして、気絶して居る破極道山とアンドレアを見てから若様エルフを睨み付ける。


その一睨みで若様エルフが縮こまる。


「凶介、これはなんだ?」


問う社長の渋い声は、凶子に話し掛けていた時とは違って冷やかだった。


冷めた脅しの抑揚である。


その質問に若様エルフが俯きながら答えた。


「な、舐めた人間が来たから、絞めてました、父さん……」


社長は溜め息を吐いてから言う。


「これが、絞めていたと言えるのか?」


「うっ…………」


「なあ、凶介。俺にはお前が絞められているように見えるのだが、気のせいか?」


「そ、それは……」


ろくに言い返せないよな。


だって俺が連勝で押しているもの。


すると突然に社長が大声で怒鳴った。


「サァーーーブっ!!!」


サブ??


「はぃいいいーーーー!!!」


引きつった声で返事をしたのは、最初に俺にハイキックで伸されたパンチパーマのエルフだった。


いつの間にか気絶から回復していたようだ。


「サブ、お前が報告しろ!!」


「オッ、オッス!!」


パンチパーマのサブが社長の前に駆け寄った。


サブは片膝をついて頭を下げる。


そして、今までの経緯を話し出した。


「この人間が、村を通って魔王城に行きたいと申しまして……」


「何故だ?」


「その目的が、魔王城を占拠して、悪魔を復活させ、魔王の軍勢を築きたいと!!」


うわー、そんなこと言ってねーよ。


俺は魔王城に住んで、その周りに町を作りたいって言ったよね。


言いましたよね?


あれ、言わなかったっけ?


いやいや、言ったよね、確かにさ。


すると社長の鋭い視線が俺のほうを睨む。


「ほほう、前魔王が滅んで数百年で、新たな魔王候補が出て来るとは早いな。しかも人間とは面白い」


うん、誤解が全開だ。


完全に可笑しな展開だぞ。


凶子が社長の袖を引きながら心配そうに言う。


「パパン……。どうするの……」


社長は笑顔で愛娘に返す。


「凶子は何も心配しなくていいんだよ」


そう言いながら大きな手で金髪のショートヘアーを優しく撫でた。


そして、瞬時に声色を変えて言う。


「凶介!!」


「な、なんだよ、父さん……」


「お前は、本当に俺の後継者に成りたいのか?」


「勿論だよ、父さん……」


「ならば、いつまでも父の背中ばかり追ってるんじゃあねえよ!!」


「と、父さん……」


「この人間みたいに、魔王になるぐらいのデッケー夢を持ちやがれってんだ、あー!!」


「ま、魔王って……」


「なあ、そうだろ、人間の新魔王さんよ!!」


俺に振るなよ。


それに俺は新魔王になりたいわけじゃあないから……。


ただ古城が欲しくて町を作るのに丁度良いからここに来ただけなので……。


「俺にもときが来たようだな」


言いながら社長は首のネクタイを緩める。


「俺が、エルフの俺がだ。魔王を倒すエルフの勇者になる時がだ!!」


勇者宣言キターー!


なんか魔王を倒してエルフ王になるみたいなことを言ってますがな。


うわー、勘違いにも程があるぞ……。


その勘違いに俺を巻き込まないでくれ。


てか、この社長さんも脳筋でノリノリだよ。


自分の世界に浸ってるわ~。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る