12-39【ガイアとパンダゴーレム】
ソドムタウン郊外、アスランが借りているログハウス前。
「バウ」
「あ〜……」
「全裸爺さん、何してるの?」
ログハウス前でシルバーウルフのアーノルドに頭を咥えられて釣り上げられているカンパネルラ爺さんが力薄く答えた。
「み、見てわからんかね……」
釣り上げられ空中でブランブランとしているカンパネルラの前で小首を傾げるガイアが言う。
「う〜ん、ぜんぜん分からない」
「こ、これは調教だよ……」
「ガイアには噛まれているようにしか見えないけど?」
「そ、そうなんだ。これは飼い主を噛まないようにする調教なんだよ……」
「でも、噛まれてる?」
「そ、そうなんだ。飼い主にこの子を引き渡す前に、思う存分ワシを噛ませて、飼い主を噛まなくする訓練なんだよ……」
「そうなんだ」
「そ、そこでガイアちゃんにお願いがあるんだけど、いいかな?」
「なに?」
「ワ、ワシを助けてもらえないかな。アーノルドに噛むのやめてって言ってもらえないかな……」
ガイアは顎先に指を当てて考え込んだ。
そして、しばらくすると考えがまとまったらしく回答する。
「調教、頑張ってね。ガイアはパンダと遊んでくるから。バイバイ」
「ええ!!」
シルバーウルフに頭を咥えられたままのカンパネルラに背を向けたガイアは一人でログハウスに入っていった。
一人残されたカンパネルラがボソリと呟く。
「や、やばい。頭が食い千切られるかも知れないぞ……」
「がるるるる〜♡」
一方、ログハウスに戻ったガイアは自室に置かれたパンダゴーレムの前に立っていた。
パンダゴーレムとはパンダの皮をかぶったウッドゴーレムで、コアには知能が高い魔法の水晶が使われている。
故に、簡単な家事手伝い程度ならこなせる高級品のゴーレムなのだ。
しかし、ガイアがアスランから貰ったパンダゴーレムはコア水晶に罅が入っているのだ。
要するに、壊れている。
それのせいか、このパンダゴーレムは家事手伝い機能がほとんど働いていないのである。
故に現在このパンダゴーレムが出来る事といえばガイアと相撲を取るぐらいなのだ。
だが、ガイアも相撲に飽きてしまった。
何せパンダのほうが腕力ではガイアよりも強いのだ。
相撲でガイアに一勝もさせてくれないのである。
なので、ガイアはパンダと相撲を取るのをやめてしまった。
飽きたのである。
しかし、ガイアには暇な時間が無限に存在していた。
ログハウスで一緒に暮らしている皆は昼間は仕事で出ている。
働いていないのはガイアだけなのだ。
だからやっぱり遊び相手はパンダしか居ないのである。
そこでガイアは考えた。
ポンっと掌に拳骨を落としたガイアが閃いたことを口走る。
「パンダを修理しよう」
そう言ったガイアがパンダの胸に手を伸ばす。
その手はパンダの毛皮をすり抜けて体内に入っていった。
そして、引き抜かれた手にはコア水晶が握られている。
「むむ〜」
罅の走ったコア水晶をマジマジと見つめるガイア。
「この水晶が悪いのかな」
ガイアは手にあるコア水晶を無造作に床に落とすと部屋を出て、更にはログハウスの外に出た。
ログハウスの前で未だにカンパネルラ爺さんがアーノルドに噛み噛みされている。
「んん〜。どこかに代わりになるものは」
呟きながら周囲を見回すガイア。
やがて何かを見つけたのか右のほうを凝視する。
「あれで、いいかな」
そう呟いたガイアの矮躯が浮き上がる。
両足が地から離れると、今度は猛スピードで西の空へ飛び去ったのだ。
そのままガイアは高速飛行で大陸の果まで飛んで来ていた。
一瞬で何万キロも飛んできたのだ。
そして、空から荒れた山脈を見下ろしている。
「確か、この辺に居たはず」
上空から山脈を見下ろし何かを探すガイア。
そして、しばらくすると目的の物を見つけたのか地上に降下していった。
「着陸っと」
周りはゴツゴツとした岩肌ばかりの山脈の中腹。
その岩山の絶壁にポカリと大きな洞窟が口を開いていた。
洞窟の全長は大型のドラゴンですら出入りが可能なぐらい大きい。
その洞窟の入り口からは生臭い臭いが漂ってきていた。
悪臭は腐敗臭に近い激臭だ。
人間ならば一息吸っただけで嘔吐に見舞われるだろう臭いである。
その洞窟にガイアは迷いもなく足を進める。
足場の悪い暗闇の中を難無く歩くガイアはもくもくと洞窟の奥を目指して進んでいった。
悪臭漂う洞窟内には生物の気配は感じられない。
これだけ広い洞窟ならば、コウモリが巣くっていても可笑しくないのにだ。
やがてガイアは洞窟の最奥と思われるエリアに到達する。
洞窟の最奥には巨大なスペースが広がっていた。
高い天井部に一つだけ穴が開いており、そこから太陽光が木漏れ日のように一本だけ射し込んでいる。
悪臭が無ければ幻想的な景色だろう。
その木漏れ日の無効に何やら巨大な塊が丸まっていた。
それはドラゴンサイズの獣。
顔はライオンのように獰猛で額に長くて立派な角が二本生えている。
全身には釘のような太い体毛が生え揃い、体型は牛に近いスタイルをしていた。
魔獣ベヒーモスだ。
ここは魔獣ベヒーモスの巣なのであろう。
しかし、ベヒーモスは突然の来訪者には気付いていない。
すやすやと寝たままである。
するといつものように何を考えているか分からない表情のままガイアがベヒーモスに近づいていった。
ガイアはベヒーモスを微塵も恐れていない。
それどころか寝ているベヒーモスの頭に手を伸ばして優しく撫でてやる。
「よしよし、この子でいいや」
不用意にガイアが言葉を発した瞬間である。
ベヒーモスが目を覚ます。
赤く輝く瞳を見開き、伏せていた巨漢を起こして立ち上がったのだ。
そしてベヒーモスも巣の中を見回した。
侵入者に気が付いた模様だが、足元に居るガイアには気付いていない様子だった。
「ガルルルルルル!!??」
「はぁ〜い、ここだよ」
ガイアの声に引かれて足元を見るベヒーモスは気を荒立てるように体毛を逆立てている。
そのベヒーモスに冷めた口調でガイアが言った。
「ねえ、キミ。ガイアと友達二なろうよ」
提案である。
いや、ガイアは友達になろうと誘っただけなのかも知れない。
だが、次の瞬間にベヒーモスは鋭い爪を振り上げガイアの矮軀を狙っていた。
ガイアの提案を拒絶したのである。
「もう、駄々っ子さんだね。駄々っ子はスカル姉さんに怒られるんだよ」
「ガルルっ!?」
ベヒーモスは振り上げた前足をガイアに向かって振り下ろそうとしていたが、それは出来なかった。
全身が麻痺したかのように動かないのだ。
力んでも痙攣するばかりである。
「とにかく、連れて行ってあげるね」
「きゃいん!!!」
ガイアが言うとベヒーモスが子犬のように悲鳴を上げる。
次にはベヒーモスの巨漢が宙に浮かび丸まっていた。
獣の巨漢が大きな球体と化す。
「ガ、ガル、ル………」
「ちょっと大きいね。小さくしないと家にすら入らないかな」
「ガァァアアア!!!」
ベヒーモスが悲鳴を上げた。
すると大きな体が小さく縮まる。
それは体積が魔力で縮められていると言うよりも、巨大な両手でおにぎりを作るように圧縮されているかのような残酷性が鑑みれた。
そしてベヒーモスの巨漢は圧縮されて鮮血を拭き散らかす。
やがてベヒーモスは悲鳴すら上げなくなると、更に肉球は圧縮されて小さく絞られていく。
肉球からはダラダラと鮮血が流れ落ちて洞窟内には大きな水溜りを作っていた。
「このぐらいなら持ち運びに便利かな」
ガイアが浮いている肉球に手を伸ばした。
そのサイズはピンポン玉サイズ。
ベヒーモスの巨漢が、このサイズまで絞られたのである。
「これを、水晶に加工して――」
ガイアが言うなり掌内の肉球が艶めき始める。
やがてその艶めきは煌めきと変わり、肉球は水晶球と変わった。
ガイアが水晶球を摘み上げながら水晶内を覗き込んだ。
水晶球の中には紫色の炎が揺らいでいる。
ベヒーモスが宿す生命の光だ。
「か〜ん〜せ〜い〜」
その晩である。
ソドムタウン近郊のログハウス。
ガイアはゴリたちといつものようにトランプでババ抜きをしていた。
「あ〜、喉が乾いたな〜」
そう言いながらゴリが席を立つ。
「なあ、お前たちもお茶を飲むか?」
ゴリが訊くとバイマンとオアイドスが「飲む飲む」と言った。
しかしそこでガイアが言う。
「お茶ならパンダが入れてくれるよ」
「えっ、でもそいつはお手伝い機能が壊れているだろ」
「ガイアが昼間のうちに修理した」
「本当かいガイアちゃん。それは凄いね」
「ならば早速パンダにお茶を入れてもらおうか」
皆がそう言うと一礼したパンダが台所に入っていった。
「本当に修理できたんだ。礼儀正しくなってるよ」
「ガイアちゃん、なかなかやるね〜」
「えっへん」
ガイアが胸を張った瞬間である。
ドゴーーーーーン!!
バギバギバギバギ!!!!
突然ながら大地を揺るがす振動が轟いたかと思うとログハウスの台所だけが綺麗に吹き飛んでいた。
その瓦礫の中央にお盆で湯呑みを持ったパンダがたっている。
ゴリが鼻水を垂らしながら言う。
「な、なんでお茶を入れただけで家が壊れるんだ……」
「これはスカル姉さんに怒られるぞ……」
「あうう……。ガイア、やりすぎた……」
【第十二章】大地母神ガイア編・完。
第十三章に続く。
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