9-28【ソドムタウンの朝】

俺がシルバーウルフズと焚き火に当たりながらガイアとパンダの相撲を見ていると、空き地の住人たちが次々と目を覚まして集まって来る。


まず最初に目を覚ましたのはテントの外で寝ていたオアイドスであった。


リストレイントクロスの魔法で拘束されているのか起き上がれないで俺に助けを求めてきたのだ。


「やあ、アスランくん、おはよう」


「おう、オアイドス、おはようさん」


「すまないが、そろそろこの拘束魔法を解いてもらえないかな」


「その魔法って制限時間が無いのか。なかなか解けないみたいだが?」


俺が疑問を定義するとオアイドスが答えた。


「スカル姉さんの話だと、掛けられた人物の抵抗力でいつかは解けるらしいのだけれど、僕の場合はなかなか解けないようで……」


「なるほどね。個人差で解除されるのか」


「とりあえず、解いてくれ」


「え~、どうしようかな~」


「いいから解けよ!!」


そして俺が魔法を解くと、自由になった全裸のオアイドスが焚き火の輪に加わる。


全裸のオアイドスはガイアとパンダの相撲を見て唖然とした顔で俺に訊いてきた。


「ガイアちゃんと戦っているパンダはなんだい……?」


「俺が冒険でゲットしたゴーレムだ。とりあえずガイアの遊び相手にいいかなって思ってね」


「そうなんだ……」


すると今度はテントの中からゴリが出て来た。


ゴリもガイアとパンダを見て驚いていた。


「やあ、アスランじゃあないか。でえ、あのパンダは……?」


「ガイアの遊び相手だ。いいだろ」


「ああ、なんかガイアちゃんも夢中で遊んでるな。これで助かるぜ」


するとオアイドスが言う。


「ゴリさんはガイアちゃんに遊ぼ遊ぼって言われて困ってたもんな」


「スカル姉さんが、俺に遊んでもらえって振るからだ」


そんなことを言っているとスカル姉さんが最後にテントから出て来た。


ちなみにバイマンは寝るときには家に帰るらしい。


あいつだけボロ屋だがソドムタウンに家を借りているのだ。


そのボロ屋も家賃の支払い関係で今月までらしい。


来月からは、あいつも空き地の住人に加わるのだ。


「よー、アスランおはようさん」


「おはよう、スカル姉さん。コーヒーでも飲むかい?」


「ありがとう、飲む飲む……」


まだ眠気眼のスカル姉さんは、コーヒーカップを片手に焚き火の輪に加わった。


そしてコーヒーを注がれながらパンダと遊ぶガイアを見て言う。


「ガイアちゃんに、いいオモチャをあげたようだな、アスラン」


「なんか遊び相手が足りてないようだったから、パンダゴーレムを子分として授けたよ」


「いいのか、あんな高価な物を子供に預けても」


「ちょっと頭が壊れてて、お手伝い機能が働かないんだ。だから冒険の報酬代わりに貰ったんだよ」


「大丈夫か、そんな壊れ物で子供をあやしてさ?」


「まあ、事故が起きてもガイアなら大丈夫だろ。何せ不老不死だからさ」


「「「えっ??」」」


スカル姉さん、ゴリ、オアイドスの三人が声を揃えて驚いた。


すると呆れ顔でスカル姉さんが言った。


「それは内緒じゃあなかったんかい……」


「あれ、忘れてたわ。そう言えば野郎共にも秘密だったんだ」


するとゴリが問う。


「不老不死ってなんだよ……?」


俺はこの際だからと秘密を打ち明ける。


「ガイアって不老不死なんだわ。皆に秘密だぞ。バレたら騒がしくなるからな」


「わ、わかった……。俺らもトラブルはゴメンだからな。秘密にしとくわ」


随分と長いこと空き地でホームレスまがいの暮らしを一緒にやっているんだから、その辺の気が合ってきたのかな。


ゴリもオアイドスも簡単に了承してくれた。


とりあえず簡単に俺がガイアについて説明する。


「たぶんあれは天界の女神だぜ」


「「「女神!?」」」


「だから怪我をしても直ぐ治るし、歳も取らない。俺があいつを見つけた場所は、何百年も埋もれていた遺跡からだ。少なくとも人間ならば飢え死にを、何万回も出来そうな環境にあいつは埋もれていたんだよ。まあ、だから怪我をしても問題無いんだ。直ぐに治るからさ」


オアイドスが述べる。


「女神って、初めて見ますわ~……」


ゴリが言う。


「俺もだよ……」


次に俺が言う。


「俺は二回目だ。最初の女神は糞だったがな……」


最後にスカル姉さんが言った。


「私は三回目だが、ガイアほど酷い女神は初めてだぞ」


「「「マジで!!」」」


いや~、驚いたわ。


女神って、意外とゴロゴロ居るんだな。


女神に会ったことある俺がレアパターンかと思ってたよ。


よし、皆も起きたことだし、そろそろ冒険者ギルドに行こうかな。


「それじゃあ皆、俺は冒険者ギルドに行って来るわ。ちょいと仕事を片付けて来るからよ」


「ああ、行ってらっしゃい」


俺は三人に見送られて空き地を出た。


そして俺が冒険者ギルドに向かっている道中で不動産屋のミーちゃんに出会う。


彼女は路上を猫背でトボトボと歩いていた。


朝帰りかな?


「よう、ミーちゃんおはようさん」


「ああ……、なんだ、アスランか……」


俺がミーちゃんに声を掛けると彼女はゾンビのような猫背でこちらに振り向いた。


その顔もまるでゾンビのように覇気が無い。


「どうした、ミーちゃん。今日は初っぱなからスイッチがOFFだな」


「ああ……。昨日はだいぶ大騒ぎしちゃってさ……。飲み過ぎて遊び過ぎたわ……」


「あー、そうなんだ~」


「ところであんたは、仕事のほうは捗ってるの?」


「ああ、上手く進んでるぜ。ミイラのメイドも立ち退けるし、お化け人形も退治できたから、あとは仕事完了の報告をするだけだ」


「うわ……。仕事が速いわね……」


「まあな。いろいろと早いのが俺の売りだから」


「ナイスタイミングだわね。確か今日、依頼人が冒険者ギルドを訪ねる予定になっていたはずよ……。うぷっ、吐き……そう……」


「マジか」


なるほどね。


上手く時間が合えば、謎の依頼人の顔を拝めそうだな。


なんなら依頼人が来るまで冒険者ギルドの酒場で待っていればいいかも。


「サンキュー、ミーちゃん。じゃあ俺は行くからよ!」


そう言い俺がミーちゃんの肩を叩いた刹那にミーちゃんがゲロった。


「ゲロゲロゲロ~~……」


うわ、キラキラした修正をお願いします!!


それにしても、汚いな!!


俺は走って逃げるようにその場を離れた。


ゲロったミーちゃんは置き去りである。


そして俺が冒険者ギルドに到着すると、酒場の前に豪華な黒馬車が停車していた。


貴族や金持ちの富豪が乗るようなお高い馬車である。


これは間違いないだろう。


来ているぞ!


間違いなく来ているぞ!!


謎の依頼人が!!


俺は緊張しながらも冒険者ギルドに入って二階に上がった。


すると受付に座る七つ子の一人が俺に言う。


「アスランさま、ギルマスと御客様が丁度お待ちです。どうぞ奥に」


「おう、分かってるぜ!」


俺はテンション高めに奥に進んだ。


そして勢い良く扉を開く。


「へーい、ギルガメッシュ、お待ち!!」


するとソファーセットのほうからギルガメッシュの声が飛んで来る。


「おお、丁度良かった、アスラン。お前に頼んだ依頼の雇い主が来ているんだ」


するとギルガメッシュの迎えに座って居たドレスの女性が立ち上がる。


そのソファーの後ろには数人のメイドたちが立っていた。


そして、ドレスの女性が俺に言う。


「アスランさま、お久しぶりです」


「えっ……」


金髪の縦ロールヘアーが豪華絢爛な少女は優しく微笑んでいた。


俺は、その顔に見覚えがある。


そのプリンセスの名前を呟くように述べた。


「ポラリス……」


「はい、そうです。あなた様のポラリスでございます」


俺はゆっくりと開けた扉を閉めた。


逃げるか……。


とりあえず、逃げるか……。



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