8-24【アスランを治療】

俺がベッドの上で指一本動かせずに苦悩していると言うのにスカル姉さんは腹を抱えながら笑っていた。


「わっひゃひゃひゃひゃ~。面白いわぁ、傑作よ、傑作!!」


畜生、超ムカツクぞ!!


何を爆笑してやがる!!


挙げ句の果てには膝から崩れて床板を叩きだしやがった!!


この貧乳女は、絶対に殺す!!


そんな感じで俺が怒りを抱いていると、転送絨毯から次々と知った顔がやって来る。


ゴリと放火魔バイマン、それに全裸のオアイドスまでやって来たのだ。


ゴリが目を丸くしながら言う。


「おいおい、どうしたんだ、アスラン……?」


ゴリはベッドの上で動かない俺と、笑い転げるスカル姉さんを見て困惑していた。


おそらく俺の状況をユキちゃんから聞いてないのだろう。


事情が分からず混乱しているようだ。


バイマンとオアイドスも同じ様子である。


そんな男たちの様子を察してハウリングママが三人にも説明してくれた。


どうやら男たち三人も説明を聞いて状況を把握してくれたらしい。


そして、説明を聞いたゴリが飽きれ顔で言った。


「朝っぱらから知らない女が転送されて来たかと思ったら、アスランがヤバイとか泣いてるんだぞ。それで慌ててやって来たら、背骨が折れて動けないだって。なんだよそれは……?」


なんだよそれで済む問題ですか!?


背骨が折れて全身麻痺ですよ!?


もっと心配してくれよ!!


バイマンが笑い転げ続けるスカル姉さんの背中を擦りながら言った。


「スカル姉さん、アスランを治せますか?」


「う、うん。治せるから大爆笑してるんだよ~。うひひひひひ~」


スカル姉さんの言葉を聞いてユキちゃんとハウリングママがホッと胸を撫で下ろしていた。


それにしても治せるからって大笑いする必要はないだろ……。


そんなに俺の不幸が面白いのかな、この行き遅れの中年女はよ。


どんだけ根性がネジ曲がっていやがるんだ。


だからいつまで経っても独身なんだよ!


「ちく、しょ……う、おぼ、えて……ろ……」


俺が悪態を呟くと、ユキちゃんが力任せに笑い転げているスカル姉さんを引き起こした。


「わお、何、この子……。凄いパワーね……」


引き起こされたスカル姉さんも笑うのを止めて驚いていた。


ナイスだ、パワフルガール!!


そしてユキちゃんがスカル姉さんの両肩をガッチリと掴んだまま真剣な表情でお願いする。


「お願いします、アスランを治してもらえますか!!」


するとスカル姉さんが、一転して覚めた目で問う。


「あんたは、アスランと、どう言う関係なの?」


「あれ、スカル姉さん、嫉妬ですか?」


言ったのは全裸のオアイドスだった。


ユキちゃんに両肩を掴まれたままのスカル姉さんが、ブリザードのように冷たい視線を全裸のオアイドスに向けた。


「ひぃ、寒い!!」


その視線にオアイドスが怯えて縮まった。


でも、寒いのは全裸だからだぞ……。


それからスカル姉さんがユキちゃんに言う。


「ちょっとこの手を放してもらえる?」


「は、はい……」


ユキちゃんがスカル姉さんを解放すると、全裸のオアイドスのほうに歩いて行く。


全裸のオアイドスも危機を感じ取ったのか、顔が強張っていた。


スカル姉さんがオアイドスの前でニコリと笑いながら彼の名前を呼んだ。


「オアイドス」


「は、はい……」


あとでオアイドスから聞いた話だと──。


瞬間、オアイドスの視界からスカル姉さんが消えたらしい。


次の瞬間には背後から腰を掴まれて、一瞬で抱え上げられていたとのことだ。


そこからの世界が逆転。


スカル姉さんの必殺技、ジャーマンスープレックスが炸裂する。


そして次の瞬間にオアイドスは、後頭部を床板にめり込ませていたと……。


投げられたオアイドスには、そこまでの記憶しか残っていなかったらしい。


流石はスカル姉さんのジャーマンスープレックスだ。


切れ味抜群だぜ……。


でも、そこまでやるかね、普通よ……。


「ふぅ~……」


起き上がったスカル姉さんは、両手に付いた埃をパチパチと払いながら俺に近付いてきた。


そして治療について皆に聞こえるように説明してくれる。


「私はこう見えても凄腕ヒーラーだ。おそらく背骨が折れた程度なら、月に一階使えるヒーラー系魔法の【ゴット・オブ・グレーターヒール】で簡単に治せるだろうさ」


「「「おお~」」」


おお、やったぜ!!


やっぱりスカル姉さんを呼んだのは正解だな!!


これで俺の重傷も魔法で完治するぜ。


だが、スカル姉さんがもったいぶるように言葉を付け足した。


「だが、問題がある!」


えっ!?


問題!?


「それは、この魔法が月に一回しか使えない上に、二十数日ほど前に使用しているってことだ」


なるほど……。


直ぐに掛けられないってことか?


バイマンが問う。


「魔法がリチャージされるのは、いつごろなんですか?」


「正確には分からないけど、あと二日か三日ぐらいだと思うの」


あらら……。


ってことは、二日か三日は、俺は寝たきりってことか……。


更にスカル姉さんの話は続く。


「私が【ゴッド・オブ・グレーターヒール】をアスランに掛けてやるのはやぶさかではないのだが、それまでの間の面倒を見るのは御免だ!」


「「「「「あ~~……」」」」」


部屋の中の全員が、すぐさま何が言いたいのか察したのか、声を合わせて頷いた。


要するに、スカル姉さんの魔法がリチャージされるまで、誰かが俺の面倒を見なければならないのだ。


それは、食事の世話から下の世話を含めてだ……。


だって俺は全身麻痺で動けないのだもの。


ススッとゴリが移動しながら言う。


「そろそろ俺とオアイドスは、人足の仕事が始まる時間だから、失礼するぜ……」


そう述べると気絶しているオアイドスを抱えたゴリは、転送絨毯で姿を消す。


逃げやがった。


それを見てバイマンも動く。


「私も狼たちの散歩のバイトがあるから失礼するね……」


逃げた!!


こいつも逃げたぞ!!


「あー、私もそろそろ店を開店させないとね~」


続いてハウリングママが部屋を出て行った。


一階に降りて行く。


ハウリングママまで逃げやがったぞ。


残ったのはスカル姉さんとユキちゃんだけだった。


二人はしゃべらない。


どうしたの?


何かしゃべってよ!?


てか、スカル姉さんは俺の面倒を見たくないから、俺の面倒を見るのはユキちゃんだよね?


ならばなんで、スカル姉さんは残ってるんだ?


普通は皆と一緒に逃げるはずなのに?


ワケワカメだな?


しばらく沈黙が続くと転送絨毯が輝き出した。


誰かが転送されて来る。


「こんにちわ~」


転送されて来たのはスバルちゃんだった。


なんで!!


なんで悪臭ガールが来るの!?


「なんかアスランさんが、大怪我したとゴリさんから聞きましたので、お見舞いに来ました~」


転送絨毯でやって来たスバルちゃんを見てユキちゃんの表情が厳しく引き締まる。


何故か室内に針積めたかのような空気が流れ出した。


なに、なんか、修羅場の空気を感じるのは気のせいかな……?


俺の気のせいだよね……?


スカル姉さんはわざとらしく微笑んでいるし、ユキちゃんは二人を敵意を持って睨み付けているし、スバルちゃんは状況が飲み込めていないのか苦笑っているしさ……。


なにこれ!?


俺のライフストーリーって、こんな感じだったっけ?


もっと男臭くてオヤジ臭い感じのストーリーじゃあなかったっけな!?


これで、いいのか!?


いいのか!!??



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