8-18【ミノタウロスとの決着】

『モーーーー!!』


「なんだ、こいつ……?」


ミノタウロスは背筋を伸ばして爪先だけで垂直ジャンプを繰り返していた。


「何、ステップか?」


まるでトップアスリートが試合直前に、心をリラックスさせながら身体を暖めるための準備運動をしているようだった。


それに引き換え背を丸めて蛮族のように警戒しながら剣を構えているのは俺のほうだ。


観客が居たら、立場が違って見えるだろう。


どちらが討伐しに来たのか分からない。


どちらが冒険者で、どちらがモンスターなのか……。


まさにミノタウロスの動きは人間だった。


このミノタウロスは明らかに普通じゃあない。


なんらかの武芸武術でも体得しているかのような動きだった。


それでも勝つのは俺だ!


不意打ちは取られたが、第二ラウンドの先手は俺が取る。


先手必勝だ。


「マジックアロー!!」


俺は魔法の矢を放つ。


それを合図に戦いが再開する。


迫り来る魔法の矢に向かってミノタウロスが走り出した。


そして魔法の矢がミノタウロスに命中するが分厚い腹筋に弾かれる。


「無傷か!?」


レジストされた!


「肉体も鋼だが、精神力も鋼かよ!?」


ミノタウロスの突進は止まらない。


「モォォオオオオ!!!」


長身を生かした掬い上げのラインで戦斧が振られた。


俺はロングソードを前に戦斧を受け止める。


「重い!!」


全身に軋むような衝撃が走ると俺の身体が吹き飛んだ。


俺が見る景色が一瞬だけスパークしてから転がっているのが分かる。


闘牛並みのパワーに吹き飛ばされて転倒したのだ。


「なんちゅうパワーだよ!?」


俺は直ぐに立ち上がると周りを確認する。


あれ、居ない!?


「ミノタウロスはどこだ!?」


影!?


上か!?


俺が見上げると、太陽光を背にした巨漢が降って来る。


「眩しい!?」


俺は咄嗟にロングソードで頭を守った。


そこに戦斧が振り落とされる。


衝撃が極度の重力のようにのし掛かって全身を沈ませる。


俺は肩、腰、両足に掛かる超重量に耐えた。


蟹股で耐える俺の両足が沈み尻が地面につきそうになる。


脳天から押し潰されそうだ。


「うぐぅうう!!」


耐える俺の視界に片足で立っているミノタウロスの下半身が目に入った。


あれ!?


片足!?


そう思った刹那に見えてなかった足が飛んで来た。


「蹴りか!?」


サッカーボールキックだった。


「ごぱっ!!」


俺はミノタウロスの掬い蹴りをモロに正面から食らってしまう。


戦斧を受けるために両腕を上げてガードしていたために、真っ正面がガラ空きだったのだ。


俺はミノタウロスのサッカーボールキックを腹筋に食らって、まさにサッカーボールのように飛んで行った。


「糞っ!!」


宙を舞う俺は異次元宝物庫からロングボウを取り出すと、着地と同時に矢を放った。


飛び来る矢をミノタウロスは上半身だけを斜めに反らして躱す。


更に俺は二発目の矢を放つ。


「スマッシュアロー!」


二発目は戦斧を盾に防がれた。


「矢を躱すし、武器で防ぐし。なんなんだよ、このミノタウロスは!?」


やっぱりこいつは動体視力が半端じゃあねえぜ。


しかも策を練って戦ってやがる。


野生じゃあないぞ!?


ならば──。


俺はロングボウを捨てて、異次元宝物庫からバトルアックス+1を取り出した。


【バトルアックス+1】

装備者のみ、この斧の重量軽減効果。


「久々に俺も戦斧を使ってみるか!」


俺は頭の高さから斧を振り下ろして前に血から強く構えた。


素振りで気合いが入る。


「よしっ!」


迫り来るミノタウロスに備えて身構えた。


さて、リーチでは向こう側が有利だ。


ならばスピードと小柄な体格を活かして内側に潜り込むかな。


俺がミノタウロスの攻撃に備えていると、まだ少し遠い間合いの外からミノタウロスが右足で一歩大きく踏み込んできた。


「届くのか!?」


そして右手に持った戦斧を真っ直ぐに伸ばしてフェンシングのようにロングリーチで突いて来る。


「届いた!?」


戦斧の使い方じゃあねえぞ!!


俺は突き迫る戦斧を戦斧を盾に防いだ。


ガンっと鋼の音が響く。


俺が突きの攻撃にバランスを崩していると、ミノタウロスが戦斧の間合いに飛び込んで来た。


そこからミノタウロスのラッシュが始まる。


縦振り、横降り、袈裟斬り、逆水平斬り、兜割りと多彩で自在に戦斧を振るうミノタウロス。


どれもこれも素早い連続の猛攻だった。


「くそっ!」


俺はミノタウロスの猛攻を戦斧で弾くのがやっとだった。


ミノタウロスのラッシュで押される俺は、戦斧の攻撃を受け流すたびに、一歩一歩と少しずつ後退して行く。


『モッ、モゥ、モォォオオオオ!!!』


「ヤバイな、押されてるぞ!?」


だが!


俺はニタリと怪しく微笑んだ直後に魔法を唱える。


「ファイアーボール!」


爆炎が両者を包む。


『モモっ!?』


敵との超接近した間合いでの爆破魔法は自爆行為だった。


しかしこちらは魔法抵抗と耐火抵抗は上等だ。


自爆でもなんでも余裕だぜ。


そして俺は爆破の中で戸惑うミノタウロスに対して反撃を試みる。


高くジャンプしてからの飛び膝蹴りをミノタウロスの下顎に打ち込んだ。


「りあっ!」


そこからの~。


「ウェポンスマッシュ!!」


空中で横降りの戦斧がスキルを乗せて振られた。


『モー!!』


しかし必殺の一撃はミノタウロスの頬をかすめるだけだった。


ちょっぴりだけ傷を付ける。


「ちっ、二発目は躱されたか!」


俺のコンビネーションを躱したミノタウロスは背を反らしたかと思うとバク転を繰り返して後方に逃げて行く。


ミノタウロスが距離を取る。


「やるね~。牛が見せる身軽さじゃあねえな」


でも、もう、バク転ぐらいを披露したからって驚かないぜ。


このミノタウロスは人間が出来ることは何でも出来ると認識したからよ。


バク宙だろうと側転だろうと何でも見せやがれってんだ。


俺は異次元宝物庫から黄金剣&銀の王冠を取り出した。


【ゴールドロングソード+3】

ロングソードスキルが向上する。攻撃力が向上する。魔法の耐久が向上する。


【シルバークラウン+2】

マジックイレイザーが一日に二発撃てる。


「ここからは本気モードだぜ!」


俺は王冠を被ったあとに、ゆっくりと黄金剣を構えた。


ゴールドな剣先が太陽光を反射してキラキラと輝いている。


ミノタウロスも俺の空気が変わったことを察したのか安易に攻めて来ない。


ゆっくりとした足取りで、左に左にと回り出す。


「さて、一気に行きますか!」


俺は大きく息を吸い込んだ。


「マジックイレイザー!!」


『モモっ!』


俺は口を前に魔法の波動砲を吐き出す。


しかし、光の波動砲をミノタウロスは左に大きく飛んで躱した。


だが、見えていた俺は身体の向きを変えて波動砲の進行方向を変える。


波動砲の波が左に逃げるミノタウロスを追った。


そして、畑や森の一部を波動砲の波が焼き払ってから止まる。


「ちっ、一発目は躱されたか」


まあ、イレイザーは二発撃てる。


次は確実に当ててやるぞ。


一方、マジックイレイザーを逃れきったミノタウロスが走って来る。


距離を取ったら不味いと悟ったのだろう。


「接近を選択するか!」


さて、今度は黄金剣の強さを披露しますかね。


「行くぜ!!」


迫るミノタウロスに対して俺も走り出す。


『モォォオオオオ!!!』


「おらっ!!」


そしてミノタウロスの戦斧と俺の黄金剣が激突した。


激しい金属音が鳴り響く。


衝撃が金属音と変わって広がった。


そして、弾かれたのはミノタウロスの戦斧だった。


黄金剣の一撃が力強い戦斧を弾いたのだ。


「よし、黄金剣ならば負けることはないぜ!」


『モモモモモっ!?』


「今度は俺のターンだ!!」


ここから俺のラッシュが始まった。


「顔面突き!」


『モモッ!』


顔面への突きをミノタウロスは必死に躱した。


「袈裟斬り!」


『モォ!!』


次の袈裟斬りをミノタウロスは後退してなんとか回避した。


「今度は下段斬り!」


『モォォオオ!!』


脛を狙った斬撃は僅かに当たる。


「いつまで避けきれるかな!?」


更に横一線の切っ先がミノタウロスの右腕を僅かに切り裂く。


『モモモモモモッ!』


防御に専念していたミノタウロスが広場の隅まで追い込まれる。


ミノタウロスの背中に山小屋の壁が当たった。


「モモモモっ……」


「追い詰めたぜ!」


低い姿勢からの踏み込み。


俺はミノタウロスの隙をついて間合いの内側に入り込んだ。


超接近戦の間合いだ。


「コンボのスタートだぜ!」


まずはローキック。


俺の蹴り脚が、ミノタウロスの内脹脛を鞭の如く蹴り飛ばした。


『モッ!』


続いて股間への前蹴り。


俺の掬い上げる蹴り脚の脛がミノタウロスの腰巻きの中に滑り込む。


股間を蹴り上げた。


『モモッ!』


更に鳩尾に柄打ちの鎚拳。


黄金剣の柄尻でミノタウロスの水月を強打した。


『モモモッ!』


その三連コンボでミノタウロスの姿勢が低く沈んで来る。


高かった頭が下がった。


その顎下に、黄金剣を握り締めた俺の右拳がアッパーカットで打ち上がる。


「そらっ!」


『モモモモッ!』


全身を伸ばしながら振り切られる俺のアッパーカットにミノタウロスの体が伸びきり背を反らした。


そして、後頭部をボロ屋の屋根に激突させる。


『モ、モモ……』


ミノタウロスは目が回っているのだろう。


よたついていた。


さて、とどめである。


僅か一歩のバックステップからの──。


「ヘルムクラッシャー!!」


俺が繰り出す会心の縦斬りを、ミノタウロスは壁ギリギリまで下がって回避する。


ミノタウロスは背をピーンっと伸ばして、ボロ屋の壁にピッタリ背を付け回避を試みていた。


すると俺の真っ直ぐに振られた黄金剣の切っ先が、ミノタウロスの着ていた革の服を縦に斬り裂いた。


「浅いか!?」


ミノタウロスの身体までは切り裂いていない。


斬ったのは革の服だけだ。


その証拠にミノタウロスの上半身から服がパラリと落ちた。


ミノタウロスの上半身が露になると、革の服の下に巻いてあっただろうサラシも斬られてパラパラと落ちる。


「えっ……!?」


そして晒されるミノタウロスの巨乳。


否、爆乳!!


「おっぱい!?」


そう、おっぱいだ。


しかもド級の爆乳だ。


今まで見たことも無いビックなサイズの爆乳がプルルンっと現れた。


なぁぁんんんでぇぇええええ!!!


おっぱいぃいいいがぁぁああ!!!


何故にぃぃいい、爆乳がぁぁああ!!!


まさに乳牛だぁああ!!!


刹那に俺の呪いが発動した。


だって見事な爆乳なんだもの!!


俺の心臓が、呪いの痛みと爆乳への驚きと欲望で爆発しそうになる。


おっぱいぃいい、でっかいぃぃいいい!!


そこで山小屋の扉がバタンと開いた。


中から血相を変えた男性が一人飛び出して来る。


「えっ!?」


中年のおっさんは、必死の形相で叫んでいた。


「も、もうやめてくれ!!」


「だ、誰ですか??」


【おめでとうございます。レベル24になりました!】


えっ、レベルも上がるの!?


勝負有りってことなのか!?



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