5-11【ガーゴイル】

閉鎖ダンジョン探索中。


俺は現在のところ広い廊下の中央に居た。


幅は25メートルほどありそうで、少し下っている感じがしている。


天井もかなり高い。


10メートルぐらいの高さはありそうだ。


通路は真っ直ぐに続いていて100メートルほど進んだところだが、まだまだ先は見えないぐらいだ。


「まずいな……」


俺は崩れた大岩を背に隠れていた。


マジックトーチが掛けられたショートソードは10メートルほど先に投げてある。


「ちっ……」


俺は上空を警戒していた。


闇の中を蝙蝠人間が三匹ほど飛んで居やがる。


背中には蝙蝠のような大きな羽に、石のようなゴツゴツの体。


人型だが、口元はカラスのような尖った嘴をしてやがる。


見た目的に洋風の烏天狗のような成りであった。


モンスターネーム判別をしたら【ガーゴイル】とスキルが知らせてくれる。


あの野郎どもは俺が接近するまで石像のふりをして潜んでやがったんだわ。


お陰で不意打ちを食らって、右肩を引っ掻き攻撃で痛めたぜ。


血がドクドクと流れていやがる。


俺は岩陰に隠れながらセルフヒールを自分の肩にかけた。


傷は塞がったが痛みは残っている。


「ちっ、三本の傷跡がくっきりと残ってやがるぜ。あの野郎たち、絶対にぶっ殺す!」


まだ、向こうは俺の位置が分かっていないようだ。


上空を飛び回りながら俺を探していやがる。


それだけがチャンスだな。


今の内に作戦を練ろう。


まずは逃げるか戦うかだ。


「キィーーーー!!」


「ええっ!!」


ガーゴイルの一匹が滑空してきて俺の右側に着地した。


作戦を考えているどころではないわん!


俺の位置がバレてたわん!?


「キギィ!!」


「のぉわぁ!?」


ガーゴイルの鉤爪が俺の顔面に迫ったが、ロングソードを盾に攻撃を防いだ。


ガーゴイルの手がロングソードに阻まれ鍔迫り合いのように止まる。


「ギギィギィギ!」


「うほーー!」


ロングソードの刃を越えて鉤爪が俺の鼻先まで迫っていた。


カキカキと鋭い爪の指先が動いている。


「おらぁ!!」


「キィー!!」


俺がガーゴイルの腹を蹴り飛ばした。


よろめいたガーゴイルに斬りかかるが空中に逃げられる。


追えない!!


畜生が!!


「キィーーーー!!」


「ぬっ!!」


今度は左から別のガーゴイルが滑空して来た。


すれ違いの一撃でガーゴイルの鉤爪が俺の頬をかする。


「ちっ、またかすったぞ!」


今度は背後からガーゴイルが迫る。


俺は振り返るど同時に剣技を放つ。


「そらっ!」


「キキィー!!」


横振りの一閃。


かすった!?


俺の攻撃が当たったぞ!


でも、致命傷じゃあないな。


やっぱりこんな広い場所で三対一ってば不利だわ。


しかも相手は飛んでるんですよ。


機動力も速度も違う。


もう完全に不利だぜ。


それなのに逃げ込めそうな狭い場所がない。


地の利を生かした戦法すら取れないのである。


この広い廊下に入って来たのは100メートルも前の話だ。


もう戻ってられないぞ。


このままだと、なぶり殺しだわ。


どうにかしないとならんぞ!


ガーゴイル三体は俺の頭上をグルグルと回ってやがるしよ。


隙を探っていやがる。


なんかイライラするぜ。


しかし、ガーゴイルたちが攻めて来る。


今度はガーゴイル二匹が、2時と10時の方向から同時に飛んで来た。


挟み撃ちだ。


「これでも食らえ!」


10時の方向から飛んで来るガーゴイルにダガーを投擲した。


しかしガーゴイルは避けない。


命中したダガーが石肌に容易く弾かれた。


「まさか、マジックアイテムしか効きませんか!?」


「キィーーーー!!」


今投げたのは普通のダガーだ。


それを知っててガーゴイルは避けなかったんだろう。


「ならば!」


俺は2時の方向から飛んで来るガーゴイルに向かって走った。


二匹同時に攻められるのは不味い。


せめて一体ずつだ。


「そりゃ!」


俺はガーゴイルとぶつかり合う刹那にスライディングで下を潜る。


ロングソードを立てながらガーゴイルの身体を下から滑るように切り裂いた。


「キィェーー!!」


「どうだ!?」


切られたガーゴイルが床にぶつかった後に、グラグラと揺れながら上空に舞い上がる。


「当たりが浅かったかな、くそっ!」


今度は10時から飛んできていたガーゴイルが俺に襲い掛かって来る。


「次から次にッ!」


ガーゴイルは俺の目の前に着地すると鉤爪を左右に振るって来た。


両手左右の連続攻撃だ。


「キィ!」


「それッ!」


俺は鉤爪攻撃をロングソードで弾きながら後退する。


しかし、ガーゴイルは執拗に攻め立ててきた。


左右の鉤爪を交互に振るっては俺を追い立てる。


「キェ、キィェッ!」


「こん畜生が!!」


俺が必死に鉤爪を防いでいると、背後に別のガーゴイルが着地する?


「なにっ、挟まれたか!」


すると背後に着地したガーゴイルが俺の両腕を背後から羽交い締めにしたのだ。


俺の動きが羽交い締めに封じられる。


「不味いですわーー、うーごーけーねー!!」


暴れても踠いても羽交い締めは外せない。


すると目の前のガーゴイルが、動きを封じられた俺を見てニンマリと微笑む。


クソむかつく笑みだった。


でも、ヤバイ!!


「いぃゃゃぁぁあああ!!! ちょーーーーピンチ!!」


不味いぐらいの大ピンチですわ!!


前方からゆっくりとガーゴイルが近付いて来る。


その鉤爪がワシャワシャと嫌らしく動いていた。


「きゃ~、いゃ~。エロイことだけはしないでけれ~!!」


俺を羽交い締めにして居るガーゴイルも嫌らしく笑ってやがった。


ケッケッケッと耳元に嫌らしい笑い声が聞こえて来る。


俺に先ほど切られたガーゴイルも、俺の側に降りて来た。


「いゃぁあああ!! 袋叩きにされちゃいますわん!! リンチですか!?」


俺の眼前まで接近したガーゴイルが微笑みながら手刀を高々と振り上げた。


「チョップですか!?

チョップを俺の頭に叩き落とすつもりですのねぇえええ!!」


そして、鋭い爪を有した手刀が振り下ろされる。


だが俺は、手刀と同時に反撃の蹴りを繰り出した。


「嘗めんな、オラッ!」


俺の脛がガーゴイルの股ぐらに滑り込み、強烈な金的となって股間を蹴り上げた。


「キィイ!?」


股間を蹴り上げられたガーゴイルが目を見開き大口を開いて悲鳴を上げた。


蹴られた股間を押さえて跳び跳ねる。


「えっ!? 俺の金的ってマジックアイテムの効果があるの??」


股間を蹴り上げられたガーゴイルは金的を押さえたまま地面に倒れ込み体を丸めて震えている。


「どう見ても利いてるよな?」


まあ、いいや、チャンスだ!


更に俺は──。


「オオラァ!!」


背後から羽交い締めにしているガーゴイルを払い腰で投げ捨てた。


なんと中学時代に習った柔道の技が役にたちましたわ!?


俺は横一閃に剣を振るうと玉を蹴られたガーゴイルの首を切り裂く。


その剣筋を止めずに、続いて倒れているガーゴイルの頭に刀身を落とした。


その一撃がガーゴイルの頭をパッカリと割る。


更に!


「マジックアロー!」


「キィー!!」


側で笑って見ていたガーゴイルの翼に魔法で風穴を開けてやった。


それでガーゴイルは飛び上がるのが遅れる。


そこにロングソードで斬り掛かった。


「斬っ!!」


強い踏み込みからの激しい縦斬りが、ガーゴイルの顔面を無惨にも真っ二つに切り裂いた。


縦切りにされた顔面の傷口から真っ赤な鮮血が吹き出る。


俺はその血液を顔面に浴びてしまう。


「あん、汚いですわん!?」


でも、ピンチをチャンスに変えた超逆転劇だったぜ!!


俺は安堵しながら回りを見回す。


三体のガーゴイルが倒れていた。


首を切られたガーゴイル。


頭を割られたガーゴイル。


そして顔面を切られたガーゴイル。


三匹は微塵にも動かない。


「勝ったな──」


ふう、とりあえず何か持ってないか漁ろうかな。


俺はマジックトーチが掛かったショートソードを拾いに行く。


すると魔法の灯りが萎みだした。


あー、魔法が切れる時間だぞ。


これでマジックトーチが切れるのは本日二回目だ。


マジックトーチの継続時間は一回5時間である。


今日はマジックトーチを二回使っている。


俺が閉鎖ダンジョンに入りだして計10時間が過ぎたことになるわけだ。


「10時間か~」


うし、腹も減ったし、そろそろ帰ろうかな。


今日の探索は、これで終わりだ。


なんかギャグも少なかったから、屁でもここうかな?


いや、まてまて……。


前回の失敗は、そこから始まったのだ。


ここは屁を我慢しよう。


止まらなくなったら厄介だしね。


それより疲れたから速く帰ろっと。



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