2-4【呪いの対策】

ソドムタウンに到着したその日、俺はスカル姉さんの家に泊めてもらった。


スカル姉さんはソドムタウンで医者をやっているそうな。


俺はてっきり、女医のコスプレした賞味期限の切れる寸前の娼婦かと思ったが、案外にも本物の女医なのだ。


そしてスカル姉さんは、診療所の三階に住居スペースを設けて、そこで一人暮らしをしているらしい。


俺は二階の病室に泊めて貰えた。


この三階建ての建物全部がスカル姉さんの所有物らしいのだ。


医者を営んでいるだけあって、結構お金持ちっぽい。


夕食はスカル姉さんの手料理を頂いたんだが、これがまた不味かった。


それを口に出したら喧嘩になった。


危うく追い出されるところだったが、最終的に俺が土下座して謝り許してもらえた。


次の日の朝食中にスカル姉さんに問われる。


「あんた、これからどうするの?」


「なにも考えていない。とりあえずは、冒険者を目指して頑張るだけかな」


「やっぱり冒険が目的でこの町に来たんだね、あんたも」


意味が分かんなかったから問う。


「この辺って冒険が盛んなのか?」


「そうよ、知らないで来たのか?」


「なんとなくの話しには聞いていたけれどね」


「この辺は遺跡やダンジョンが沢山あるし、モンスターも沢山巣くっている土地でな。その昔には魔王も誕生したヤバイ土地柄なんだ」


「へぇ~、魔王まで」


「だから一攫千金を狙って多くの冒険者がやって来る。だから男は冒険者を目指し、女はその男たちの性欲を満たすために体を売りに来るんだ」


「あー……」


俺は、どうリアクションしていいか困った。


レベッカさんのことを思い出す。


「町並みを見て、気付かなかったか?」


「なにを?」


「男も女も若くて活きのいいヤツらばかりだっただろ」


胸が痛くて見ている余裕はなかったが、確かに女性は若い美人さんばかりだったような気がする。


「男は冒険が出来る間しかこの町に居ないし、女は稼げる間しかいない。町の住人の入れ替わりも激しいんだ」


「なるほどね~」


男の冒険者は体が効く若い間しか冒険が出来ない。


歳を取って体力が無くなれば冒険者を引退しないとならない。


女は、若いうちにしか売春婦として稼げない。


どちらも旬を過ぎたり、ある程度儲けたら町を出て故郷に帰るのであろう。


そして、新しい若者が夢と富を求めてどんどんとやって来る。


その繰り返しなのだろう。


に、してもだ──。


殺伐とした現実だな。


昔の中世の時代に、そんな町がちらほらあったって洋画でみたが、本当にあるんだな。


昔の海外は、そう言うところがシビアだからな~。


あー、ここも俺から見たら海外か……。


やっぱりここは、ジャパニメーション的な綺麗なファンタジーじゃなくて、海外の殺伐としたリアルファンタジーに近いのね。


スカル姉さんが更に語る。


「まあ、何を隠そう、私も二年前まで冒険者だったんだがな」


「え、もう引退したってことは、実はすげーババァーなのか? 若作りの達人なの?」


「解剖するぞ、小僧!!」


「じゃあ、なんで引退したんだ?」


スカル姉さんは、被っている髑髏のマスクを指差しながら延べる。


「目を怪我したんだ」


「あー……、それで」


「顔面に特殊魔法の攻撃をもろに受けてな。その特殊魔法ってのが、ヒールの効果を無効化するヤバイ魔法効果を持ってたんだ」


「あちゃー……」


「それで、目の視力が落ちて、冒険者として終わったってわけよ。その後はこの建物を買い取って医者を始めたんだ。もともとヒーラーだったからな」


「スカル姉さんも、苦労したんだな」


「まあ、私の場合は冒険でたんまり稼いでいたからな。実のところ老後まで安泰よ」


「すげー、いいねー」


「あんたも冒険者を目指すなら、この町を拠点にするのがベストなんだけどね」


「そうなんだよね~。でも、呪いのせいで、この町は俺にとって生き地獄なんだよね~。それが困ったもんだ」


俺が他人事のように延べているとスカル姉さんが訊いてくる。


「あんたの呪いって、エロイ人を見ると発動するの?」


「そうなんだ。見たり考えたりするだけで発動するんだ。胸が痛くなって、最悪の時は気絶する。おそらくもっと最悪は死ぬんだと思う。死んだことがないから分からんけど」


「じゃあ、なんで私を見ても発動しない?」


俺はスカル姉さんを足先から舐めるように見上げて行く。


俺より高い身長。


ハイヒールも高い。


スラリと伸びた長い脚。


引き締まった腰まである長い黒髪。


スレンダーな体にボディコン衣装。


その上から白衣と聴診器を下げている。


胸はほどほどに小さなサイズ。


そして、綺麗だと思われる顔に髑髏のマスク。


結論──。


「スカル姉さんは、エロくないじゃんか。なんかスゲー官能度が低いよ。低いどころかマイナスかな~」


なんだか身内のお姉さんっぽいのだ。


俺は身内には興奮しない。


だが、スカル姉さんが俺の話を聞いて怒り出した。


「なんだとクソガキ!!」


スカル姉さんが掴み掛かってくる。


「ウッキィーー!!」


また、揉み合いの喧嘩となった。


しばらくして二人は落ち着く。


「なるほどね。じゃあ、目線を伏せて、エロイ物を見なければいいのか?」


「たぶん」


「じゃあさ──」


するとスカル姉さんが、タンスの中からフード付きのローブを取り出した。


「これで目線を隠してたらOKじゃないのか?」


「おお、頭いいね!」


俺はフード付きローブを手に取ると着込んだ。


フードを深々と被り目元を隠す。


良い感じかも知れない。


「ちょっと外出して試してくるぜ」


「いってらっしゃ~い」


俺はスカル姉さんに見送られながら町に繰り出した。


朝だというのに既に娼婦の姿がポツリポツリと窺える。


そして、フードで視線を下げて、余り上まで見なければ胸は痛まなかった。


やったぜ、成功である!


できるだけ誘惑的な言葉を無視すれば普通に町中を闊歩できた。


完璧ではないが、これならいけると自信を持てた。


俺はルンルン気分でスカル姉さんの診療所に帰る。


「ただいま~」


「おかえり。で、どうだった?」


「バッチリだぜ、これならいけそうだ」


「そうかそうか、それなら早速だが冒険者ギルドに行って会員登録してきな。登録がないと依頼も受けられないし、パーティーも組めないからな」


「そうなのか?」


「ほれ、これを持ってけ」


そう言うとスカル姉さんが手紙を差し出した。


俺は手紙を受け取りながら問う。


「なにこれ?」


「紹介状だ。私からのお墨付きが書いてあるから、ギルド登録の審査も簡単になるだろうさ。これでも昔は有名な冒険者だったんだぞ、私はな」


「ありがとう、スカル姉さん!」


「とりあえず、荷物はここに置いてっていいからな。登録を済ませたら、次は住む場所を確保しろ」


「イエッサー!」


俺はスカル姉さんの診療所を飛び出した。


だが、直ぐに診療所に戻る。


「早いな、どうした?」


「冒険者ギルドって、場所どこなん?」



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