1-19【残党を討伐】
もう村の中には、暴れまわっていたコボルトの姿はなくなっている。
全員俺の強さに恐れをなして逃げ出したのだ。
夜の村は静寂の中に沈んだように静かである。
燃えた家が焼け落ちるのを見守りながら、俺は数人の村人たちと一緒に、野外で暖を取っていた。
近くで家が燃えているから、焚き火も灯りも要らなかった。
側に居る村人に訊いたが、今俺が見ている燃えた家の主は、この場には見当たらないらしい。
おそらく燃える家の中か、村のどこかで殺されているんだろうさ。
村人たちは、散り散りになっていた家族と合流すると、見当たらない人々までは捜さなかった。
夜だし疲れているのだろう。
あまりにもショックが大きすぎて、見当たらない人々の安否までは諦めている。
とりあえず生き残った村人たちで一ヶ所に集まっているのだ。
それに再びコボルトたちが戻ってくるかも知れないから警戒している。
村人たちは俺がコボルトたちと戦っていたのを見ていたらしく、俺がコボルトを追い払ってくれたと思い込んでいるようだった。
まあ、追い払ったと言えば、それはそれで間違いではないだろう。
コボルトを何匹も殺したし、俺のレベルも二つ上がったしね。
そして現在の俺は火に当たりながら硬い黒パンを噛っていた。
それと革袋の水筒で水を飲んでいる。
俺が村人に全裸でひもじいと告げると、善意有る村人が服と一緒に、水と食料を分けてくれたのだ。
それと靴もだ。
水も飲めたし、腹ごなしもできた。
故に飢餓からは脱出出来ていた。
服と靴まで貰えたから、コボルトと戦って損はなかったと思う。
二回目の全裸からの卒業である。
そして俺は、燃える家の炎を眺めながら考えた。
そもそも魔女から解放されたら自分の身を守るだけで、村人なんてほっといてもよかったのだ。
俺一人で村からさっさと逃げても問題なかったはずだ。
でも俺には、そんな人で無しな振る舞いは、今の今まで想像すらできなかった。
なんやかんやで自分は外道じゃあなく、善人の側の人種なのだと思った。
まあ、自分でも思うからに偽善者寄りだけれどね。
とりあえず今は、今後のことをどうするべきかを決めなくてはならない。
身の振り方である。
生き残った村人と話して分かったことは、36人居た村人が、14人まで減ったらしい。
半数以上が殺されたか、まだ行方不明になっているようだ。
俺は、あの魔女のことを、村人には話さなかった。
ポニーテールで美少女な魔女だが、頭に黒山羊を被りながら人間を捌いて食らってしまうDQNな魔女である。
名前は分からないから少女Aと呼ぶことにした。
昔の日本では、犯罪に手を染めた未成年の少女を人権保護の概念から本名を伏せるためにワイドショーとかでは少女Aと呼んだらしい。
あの魔女は少女Aと呼ばれても可笑しくないぐらいの危険人物だ。
出来ることなら、もう二度と出会いたくない人物である。
あれとは二度と関わりたくないのだ。
あいつが述べたとおり、今ここで誰かに話しても、なんの得にもならないし、彼女はコボルトに殺されたことにしといたほうが、まだましだろう。
少女Aを信用していた村の住人が、彼女のドス黒い正体を知ったらショックだろうからね。
村人を殺して生け贄に捧げていた上に、その生け贄を夕飯で食べていたと知ったらダブルショックだろうさ。
これは、確かに要らない情報である。
村人たちは、彼女のことを綺麗な娘のまま忘れ去るのが一番良いのかも知れない。
そして、村人たちは、明日になったら、まだ生存者が居ないか村の中を調べた後に、死んだ村人たちの遺体を埋葬するらしい。
俺も手伝う積もりである。
俺個人の今後は、その後に考えるで良かろう。
それに村人たちも、村を捨てるか、ここにとどまり村を復興させるかは、まだまだ分からないらしいのだ。
難しい選択なのだろうさね。
俺も明日は生存者捜索と、遺体埋葬だけは、ちゃんと手伝おうと思う。
そのぐらい手伝えば、飯にもありつけそうだからだ。
何よりも、そのぐらいは、人として当たり前かなと思ったからだ。
なんちゃって。
今晩は村人たちが交代で見張りをすると言うので俺は眠らせてもらうことになった。
寝てて良いとのことだ。
ただし、もしもコボルトたちが戻ってきたら叩き起こしてもらうことになっている。
やはり戦うのは俺一人の仕事らしい。
村人たちは、そのことを口に出さなかったが、そんな空気感だった。
まあ、気にはしない。
とにかく今は寝ることにした。
戦い疲れたし、歩き疲れてもいる。
二日間に渡って歩き続けた上に、魔女にも恐怖で疲れたし、インプにも精神的に疲れた。
だから目蓋を閉じたら直ぐに眠れた。
朝は一瞬で来る。
転生してから三日目の朝である。
野外の地べたで寝ていたせいか、あまり疲れは取れなかった。
体の節々も少し痛い。
なんだかフカフカの布団が懐かしく思う。
俺は朝起きると村人たちと一緒に、村の中や外などを生存者たちが居ないか捜索をした。
すると更に生き残っていた村人を5人ほど発見できた。
怪我をしてどこかに隠れていたのだろう。
でも、怪我は命に関わるほどの重傷でもないようだった。
それだけが幸いである。
これで生存者は19人に増えた。
みんな抱き合って無事を喜んでいる。
その後に、昼から遺体を村の墓地に埋葬する。
村のあちらこちらから村人の遺体を運んできて、村の裏にある墓地に土葬で埋葬した。
穴を掘って埋めるだけの簡単な埋葬だった。
村人が木の枝で十字架を作って建てると、女の子が花を摘んできて添えていた。
埋葬の作業だけで昼を過ぎてしまう。
そして、焼け残った家から食料を運び出した村人に俺は昼食を頂く。
皆で広場に集まり炊き出しを食べる村人たちの表情はまだまだ暗かった。
まあ、一日そこらで、あのショックから立ち直れってのが無理な話だろう。
俺は腹いっぱいにパンとスープを頂くと、食事をしながら考えていたことを村人たちに告げる。
「俺、ちょっくら出掛けてコボルトの残党を退治してくるわ」
俺の言葉に村人たちは目を剥いて驚いていた。
そして俺は言葉を続ける。
「今すぐに出るぞ」
自分でも唐突過ぎると思った。
しかし、村人からは、反対の声は一つも上がらなかった。
俺が昨晩見せた戦いの様子から、実力的に心配もしていないようだ。
むしろ、コボルト退治を歓迎していた。
殺された村人たちの仇を取ってくれと言っている。
それにコボルトが全滅するなら、村を捨てずに復興も前向きに考えられると言うことらしい。
俺がコボルトの住みかになるような場所に心当たりがないかと訊くと、村人たちはこぞって心当たりがあると答えた。
30匹ぐらいの大きな群れが暮らせそうな場所である。
昨晩、俺が殺した数と、逃げた数から推測するかぎり、あのコボルトの群は、そのぐらいのサイズである。
向こうさんも今は、13匹も俺に殺されたので半分に届かないぐらいには減っていると思う。
村人の説明では、南の岩山に、昔の鉱山跡地があるらしい。
この村から2キロほど離れているそうな。
そこならば30匹から40匹ぐらいはコボルドが楽々と住める大きさらしいのだ。
俺は直ぐに出発することにした。
コボルトたちも大勢の仲間を俺に殺されて、今は混乱中だろう。
どうせこちらは一人で戦うのだ。
敵の体制が完全に立て直される前に攻めるべきだろうさ。
俺だって少しでも有利に戦いたい。
ならば直ぐに行動だ。
迅速に動くべきだ。
俺は村人の一人に鉱山跡地まで案内してもらうことにした。
村人たちには、必ず勝ってくると言ってから手を振って、村を出た。
出陣する。
その俺を鼻垂れ小僧が両腕を振って見送ってくれた。
あの鼻垂れ坊主は、今回の襲撃で両親を二人とも殺されたらしい。
今後は姉との二人暮らしになる。
残念なことに姉はヒロインとしては失格なぐらい太っていた。
ウッチャリタイプのドスコイ系乙女なのだ。
俺のストライクゾーンに収まらないぐらい太っている。
だから俺のペナルティーはお姉さんを見ても発動は微塵も起こさなかった。
なんか、助かったのかガッカリしたのか複雑な気持ちである。
俺を対象にしたヒロインはいつごろ登場するのだろうか?
それよりも、二人の姉弟が可哀想に見えて切なかった。
なんだかペナルティー以外で胸がチクチクと痛む。
だからせめて、仇ぐらいは取ってやりたい。
そう思ったのだ。
「よしっ!」
俺は両手で自分の頬を何度か叩く。
気合いを入れた俺は、そう誓ってコボルトが待つ鉱山跡地を目指した。
2キロなんて目と鼻の距離である。
直ぐに鉱山跡地に到着した。
道案内してくれた村人は、少し前に別れてここには居ない。
もう俺一人だ。
俺は草葉の陰から鉱山の入り口の様子を伺った。
鉱山跡地の出入り口は、岩山の斜面にポッカリと口を開いている。
半円で3メートルぐらいの出入り口は、露骨に洞窟っぽかった。
見張りは立って居ない。
俺はショートソードを鞘から抜いて、忍び足で出入り口に近付いた。
鉱山内を覗き込むが、暗くて奥は何も見えない。
やはり明かりが必要になるな。
でも、明かりを灯せばバレる可能性が高くなる。
これは不意打ちを諦めないと駄目だろう。
堂々と正面から戦うはめになりそうだ。
でも、上等である。
こっちは全滅を狙って殴り込むのだ。
とっくに覚悟は決まっている。
俺は拾ってきた30センチほどの木の棒の先に、マジックトーチの魔法をかけた。
利き手にショートソード+1を構え、逆手にマジックトーチのかかった枝を持って鉱山内に侵入して行った。
いざ、コボルトたちの討伐開始である。
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