1-16【ファイナルカウントダウン】

俺は少女Aが召喚したインプと共に生臭い地下室に残された。


今ごろ地上の村ではコボルトたちの大群が大暴れしているだろう。


先程上の階で男性の悲鳴が聴こえたぐらいだ。


おそらく無力な村人たちがコボルトの大群に蹂躙されているのだろうな。


間違いないだろうさ。


そして、現在俺は、殺伐とした空気感の中でインプと共に地下室で息を潜めていた。


まだ俺はロープで椅子に縛られている。


だから動けないし逃げれない。


今ごろ上で暴れているコボルトたちに見つかったのならば、無抵抗なまま殺されてしまうだろう。


それだけは避けたい悲劇のストーリーである。


皆だって、いきなり雑魚コボルトに殺される主人公の無惨な姿なんて見たくないだろうさ。


だから俺は息を殺して潜んでいるのだ。


だが、魔女の命令で残されたインプは違う。


呑気なインプは声に出して数をカウントしているのだ。


魔法少女の指示で100を数え終わったら俺の縄をほどいてくれることになっているからである。


「12、13、14、15……」


しかし───。


遅い!


数えるのが遅いぞ、このインプ!


幼稚園児並みに遅いぞ!


もっと速く数えてくれ!


コボルトたちが、ここに気付く前にだ!


「16、17、18、19………。19の次って、なんだっけ?」


この馬鹿インプは数が数えられないのかよ!


バカか!?


アホか!?


脳足りんですか!?


教えてやるから猿轡だけでも先に外しやがれってんだ!


「んん~っと、ええ~っと、19の次は30だっけ?」


馬鹿か、20だろ!


てか、こうしている間にも、もう40ぐらいまで数えられただろうが!


早く数えろよ、脳足りんの馬鹿インプが!


「まあ、いいや。また最初から数えれば思い出すだろう」


ばーかー、やーめーてー!


よりにもよって最初に戻るなよ!


上ではコボルトたちが大暴れしてるんですよ!


早く逃げないといかんのですよ!!


せめて拘束ぐらいほどかないと、俺は無抵抗なまま殺されてまうじゃあねえか!!


だから早く100を数えて、俺の拘束を解いてくれ!


とにかく、早く逃がしてくれ!!


もしも、この状態でコボルトたちに見つかったら全裸のまま殺されちゃうじゃんかよ!


「1、2、3、4、5、6、7、8、9──」


うわぁー!


マジで最初っからやり直したよ、この馬鹿インプがぁぁあああ!!!


「11、12、14、15──」


あ、13を飛ばした。


そのまま飛ばしまくれ、馬鹿インプ!


ちょっとでもスピーディーに頼むよ!


「16、17、18、19……、あー、19の次ってなんだっけ?」


また、躓いた……。


さっきと同じところじゃあねえか!


「まあいいか、最初っから数え直そう」


きぃーーー!!


リピートした!!!


ループしたよ!!!


この糞馬鹿インプ、真面目にやれよ!


「あー、でも、最初っからやり直すのは面倒臭いな。50くらいから数えようかな」


よし、ナイス!


それが良いぞ!


その調子で、どんどん飛ばせ!


「30、31、32、33、34──」


50からじゃあないじゃんか!!


30からやん!!


「37、38、39……。あー……、ええっと……」


きぃーーー!!!


また止まりやがった!


「39の次って、なんだっけ?」


40だよ!!


教えてやるから猿轡を取れや!!


てか、俺が数えてやるからさ、猿轡を取ってくれ!!


マジで頼むからさ!!


「まあ、いいか。最初っから数え直そう」


もーーーーーーお!!!


こいつわざとやってるだろ!!!


マジでわざとだろ!!


俺をからかってるんだろ!?


もしかして、俺が遊ばれているのかな!?


「あー、なんか数えるの面倒臭くなってきたな。もうこいつのロープをほどいて帰ろうかな~」


名案です!


そうしてください。!


もう、100まで数えなくていいからロープをほどけ!


てか、もう本来なら、とっくに100なんて数え終わってるころだぞ!


「でも、召喚契約だしな~」


考え直すなよ!


考え直すような暇が有るなら100を数えておけよ!!


「よし、真面目に最初っから数えよう。それが俺の仕事だしな」


またかよ、またリピートかよ!


お前も悪魔の端くれなら真面目に仕事なんかするなよ!


悪魔なんだから不真面目に生きろよ!


てか、真面目でも不真面目でも、どっちでもいいからロープを解いてくれ!!


早く! 早く! 早く!!


「よし、もう仕事や~めた」


おっ、不真面目コースに進むのか?


「もう、寝る──」


ねーるーなぁーー!!!


それは駄目ーーー!!


寝るのは絶対に駄目ーーー!!


放置は駄目ーーー!!


「でも、昨日は昼間で寝てたから眠くないや」


なんだか羨ましいぞ!


怠惰だな、おい!!


だったら早くロープをほどけよ!!


「よし、やっぱり真面目に仕事をしよう。1、2、3、4──」


まーたー、そーこーかーらーかぁーー!!!


いい加減にしろよ、この糞馬鹿インプ野郎!!


天丼の繰り返しで、話がぜんぜん進まねえじゃあねえか!!


うぜーよ!!


うざすぎるよ!!


リピートだけはやめてくれ!


なに、この展開は!?


舐めてるだろ!!


「あ、そうだ。家を出る前に、かーちゃんに魔界スーパーでお一人様1パックまでのたまごを買って来てくれって頼まれてたんだ。早く行かんとな」


急に家庭的になったな、この糞馬鹿インプ野郎が!!


それにしてもインプにも母ちゃんっているのね。


俺も子供のころに、特売たまごの買い出しを母ちゃんに頼まれたことがあるぞ……。


懐かしいな~……。


するとインプが片手を翳しながら言った。


「じゃあ、俺は帰るから」


「んんんんッーーー!!!』


帰るならロープをほどいてけよ!!


放置して帰るなよ!!


「んー、なんか俺、忘れてるな。100を数え終わったら、何かするはずだったよな。それが本来の仕事のはずだったような……」


そうだ、100を数えるよりも大切なのは俺の拘束を解くことだ。思い出せや!!


「でも、100を数えられなかったしなぁ~……」


そこに戻るのか!?


うぜーよ!


マジでうぜーーよ!!


いいからロープをほどけや!!


もう、このやり取りをどんだけ繰り返してるんだよ。


くどい!


くどいんだよ!!


もう、空気を読んで次に話を進めようぜ、糞馬鹿インプ野郎が!!


完全に読者の皆も飽きて来てるぞ、絶対に間違いない!!


「よし、じゃあロープをほどいて、魔界スーパーでたまごを買って帰るかな」


よし、よく決意した!


さあさあ、早くロープをほどけ!!


そのあとならたまごを何パックでも買っていいからさ!


なんだったら10パックぐらい俺が買ってやるからさ!!


そしてインプが俺を拘束するロープに手を伸ばした。


しかし───。


「あれー、このロープ、固結びしてるよ~~。かてーなー、ほどけねー」


今度はそれかい!!!!!!


糞馬鹿インプ野郎がぁぁあああ!!!


この後に少しして俺を拘束するロープがほどかれた。


長かった……。


マジでながかったぞ……。


それに疲れたわ……。


スゲー疲れたぞ……。


こうして役目が終わったインプはたまごを買いに魔界のスーパーに向かうのであった。



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