1-8【長い道】
魔法の松明を手に入れた俺はダンジョンの奥に進む。
ボーンクラブの先に灯された魔法の灯りが狭い通路の中を照らし出していた。
マジックトーチ、覚えたばかりで大活躍だぜ。
そして、乾いた空気が僅かな埃の正体を照らし出している。
空気に大きな流れは見えない。
マジックトーチが揺れるたびに、俺の背後についてきていたシャドーも揺れていた。
煉瓦造りの壁にはムカデが時々這っている。
天井には時々蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
床には茶色いカマドウマがピョコピョコと跳ねている。
「こ、こいつら、食えるのかな……」
出来ればムカデも蜘蛛も食べたくはない。
カマドウマなんてもってのほかだ。
何せ別名が便所コウロギだもんな……。
だが、腹が減っている。
でも、もう少し我慢が出来そうだ。
こいつらを食べるのは最終手段だろう。
出来れば、その時が来ないことを祈ろうではないか……。
もしもその時が訪れても、せめて油でカリカリに上げたいものである。
生はキツイ……。
そんな感じで、明かりを手にしたことで、おどろおどろしいダンジョンの景色が露になったのだ。
だがそれは、未知のスリルとロマンと水辺を求めた冒険の始まりだった。
始まりだった。
始まり──。
はじ……。
長いーーーー!
このダンジョンの直線廊下は長すぎる!
もう、一時間ぐらい歩いているけど、ただただ真っ直ぐな廊下が続いているだけじゃんか!
天井の高さも、道幅も変わらない煉瓦造りの一本道が続いてるだけじゃんか!
草原と違って歩きやすくて距離と時間は稼げるけど、マジで長いよ、長過ぎだろう!
殺風景な景色にも飽きてきた。
入り口で出合ったスケルトン四体以来、モンスターどころかゾンビの一匹も出てこないし!
目に入るのはムカデとかカマドウマなどの害虫ばかりだ。
つまんねーよ!!
ワクワクもドキドキもありゃしねぇ!
誰だよ、こんなところにこんな真っ直ぐなダンジョン作ったのはよ!!
てか、ダンジョンと呼べるか、こんな物は!
トンネルだ!
ただのトンネルだ!
これじゃあ、ただの避難路か何かじゃねえか!!
────あ。
ああ~~~……。
言ってから俺は気が付いた。
もしかして、俺、正解してる……、かな?
正解だよね……。
このダンジョンは、ダンジョンじゃあなくて、避難路か何かかな?
これ、ただのトンネルかな?
だとすると、この先には、何かの施設があるってことになる。
避難路を作らなくてはならないほどの重要施設がだ。
それってファンタジーの世界だと、王城か神殿とかかな?
そう考えたら、急に何だか希望とやる気が出て来たわ。
よし、頑張って進もうか。
「んん?」
唐突に俺は歩みを止めた。
前方に何か落ちている。
床に何か小さな布切れっぽいのが落ちていた。
俺はマジックトーチの明かりを翳しながら、落ちている何かに歩み寄った。
ゴミ?
いや、布切れ?
「こ、これは……」
摘み上げた布切れを見て俺は硬直した。
それは……。
「こ、これはパンティーじゃあねえか……」
まただ。
また、こんなところで俺は女性物のパンティーを拾ってしまったのだ。
偶然なのか?
偶然にしては不思議である。
俺は世界中のパンティーと凄い縁で結ばれているとでも言うのだろうか?
「あれ?」
俺はマジックトーチのボーンクラブを床に置くと、拾ったばかりのパンティーを両手で広げてみた。
「こ、これは!?」
間違いない。
これは、地上で拾った汚いパンティーと同じ物だ。
同じと言っても柄やブランドが同じとかではない。
これは、先程の道中で俺が捨てたはずの汚いパンティーである。
間違いない。
汚れの感じから分かる。
なんどもじっくり眺めていたから心に刻まれるほどに覚えている。
この汚れ、この染みは、間違いなく呪いの汚いパンティーだ。
「な、何故にこれが!?」
俺は振り返って背後の闇を凝視する。
俺がこのパンティーを捨てたのは数百メートル後ろでの話だ。
なのに俺が歩き進む前方に、このパンティーは落ちていた。
「怖っ!!」
俺は足元にパンティーを落とすと逃げるように歩き出した。
振り返るものか!
きっと何かの間違いだ。
何かの錯覚だ。
俺は込み上げてくるパンティーへの恐怖を書き消すように歩き続けた。
そして、しばらく通路を進んでいると、マジックトーチの明かりが何かを捉える。
「ば、馬鹿な!!」
俺は静かに硬直しながら仰天した。
無意識の内に片頬の筋肉だけが釣り上がるようにヒクヒクと動いている。
それは、先程置き去りにしたはずのパンティーが、再び前方の通路に落ちていたからだ。
「そ、そんなのあり得ない!!」
何故にあのパンティーが再び!
こ、これはパンティーの呪いなのか!!
俺があのパンティーを無情に見捨てたから呪ってついて来ているのか!?
怖い!!
なんか、怖い!!
マジで怖いぞ!!
まさか本気でパンティーに呪われるとは思わなんだぞ!!
「ごくり……」
生唾を飲み込んだ俺はボーンクラブの光を落ちているパンティーに近づけてまじまじと確認する。
やはり間違いない、これは呪いのパンティーだ!
もしかして、あのたおしたスケルトンの霊魂がパンティーに宿って俺を祟っているのか!?
だとすると……。
「ひぃ!!」
俺は持っていたボーンクラブを投げ捨てた。
カランカランと音を鳴らしてボーンクラブが床に転がった。
このボーンクラブもスケルトンの骨である。
忘れていたが、人骨なのだ。
俺は人骨を武器に使っていたのだ。
なんたる罰当たりな!
それで俺は呪われたのか!?
このパンティーの持ち主だったスケルトンガールに呪われたのか!
怖い!
ファンタジーって怖いわ!
だが、ここはいつまでもビビっても居られない。
武器はこのボーンクラブだけなのだ。
マジックトーチを灯せるのも、このボーンクラブだけなのだ。
ならばビビらず使うしかないだろう。
「ビビるかよ……」
俺が覚悟を決めてボーンクラブを手に取ると、パンティーの隙間に何か紙切れが挟まってるのが見えた。
「紙? メモか?」
こんな紙切れは以前のパンティーに挟まっていなかった。
最初っから挟まっていれば、頭に被った段階で気付いていただろう。
どこから沸いたのだ?
俺はパンティーの中からメモを取り出して読んでみる。
「メモじゃあない、手紙だ……」
内容はこうだった。
【前略、フローネ。私の可愛い妹のフローネ。お姉ちゃんは今出稼ぎでソドムタウンで働いています。今年の春には一度村に帰りますからおみあげを期待して待っていてください。きっとフローネが喜んでくれるおみあげを買ってかえりますからね。byレベッカ】
うぬぬ……。
姉から妹への手紙だな。
もしかして、草原で倒したスケルトンがお姉ちゃんか?
それとも手紙を受け取った妹の遺体だったのかな?
まさか、この手紙を配達していたポストマンではないだろう。
まあ、どちらにしてもだ──。
俺は手紙をズボンのポケットにねじ込むと、落ちている呪いのパンティーを広い上げた。
「しゃあないか……」
俺は静かにパンティーを広げると頭に被り直す。
「地上まで連れて行って、供養してやるよ」
俺はボーンクラブで光を照らすと、再びトンネルとも思えるダンジョンを歩き始めた。
汚いパンティーと共に──。
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