第9話 警部の憂慮

 あの日、両親の死体を目の当たりにしたエイプリルは、男への恐怖と憎しみが湧いた。

 倒してやろうと思ったのかは覚えていない。

 気がついたらエイプリルは、そいつに飛びかかっていた。殺されなかったのは、エクソシストが助けに来たからだ。なぜ彼が、エクソシストだと分かったかと言うと、吸血鬼を殺した後で、本人が言ったからだ。

 そのエクソシストは、こうも言った。


 君は、勇敢な子だね。




 昔の記憶を思い出して、エイプリルは目を開ける。


 そう、吸血鬼なんて、許せない。一匹残らず、地獄へ送ってやる。


 今、ジェームズ・アーカーの身柄はエイプリルが預かっている。

 ヴィシーがジェームズを見張っているため、変な動きはしないだろう。


(まあ、あの怪我じゃ、簡単には動けないか)


 昨日ヴィシーの体がちぎられた時、エイプリルの中に激しい怒りが湧いた。

 もっとも、悪魔であるヴィシーがそんな事で死んだりはしないのだが。


 ジェームズはまだ気を失っている。


 エイプリルは立ち上がると、目的地へと向かっていった。



 ◆



 クリス・ポール警部は、警察署に残っていた。


 昨晩、突然自宅を訪れたエイプリルにも驚いたが、それよりも、ジェームズ・アーカーが吸血鬼であると聞かされた時の衝撃は凄まじかった。


 ジェームズにエクソシストに同行しろと言ったのは、彼が優秀な人材であるからに他ならず、吸血鬼だと思っていたからではない。


 偶然だが、結果としてそれが彼の捕獲に繋がったのだとしたら、幸運なことだと思う。


 と、人の気配を感じて振り返る。


「君は……」


 そこには、どこから侵入したのか、エイプリルが腕組みをして立っていた。

 その顔は険しい。


「昨日、言い忘れたことがあって、来たわ」


 自分よりずっと年上の男にも、物怖じしない態度に、大したものだな、とポールは思う。


「ジェームズ・アーカーは、我々エクソシストが責任を持って処分するわ。安心して。もう人が襲われることはない」

「あ、ああ」


 ポールは曖昧に返答をする。

 昨日まで部下であったあの男が、きっとエクソシストに処刑される。そう思うと少し残念であった。


「部下たちには、ジェームズ・アーカーが一連の事件の犯人であり、既に死亡が確認されたと伝えている」


 今日の朝、そう伝えると、皆驚愕の表情を浮かべていた。

 エイプリルは満足そうに言った。


「あなたは物分かりのいい、優秀な方だわ。ご協力に、感謝いたします」


 エイプリルが去った後、ポールは深いため息をついた。


 足が、ちくりと痛む。

 一仕事を終えると、署を後にしたのだった。

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