第8話 少女の記憶
それは、エイプリルの幼い時の記憶。
父は教師であり、母は昔、お針子をしていたが、エイプリル誕生とともに家庭に入ったという、どこにでもあるありふれた、しかし温かな場所だった。
父はひたすらに一人娘に甘く、母はやんちゃすぎる娘に、ときおり厳しく、しかし、とても優しかった。
夕飯を家族揃って食べながら、エイプリルの一日の報告をするのが決まりだった。
だがエイプリルが8歳の誕生日を迎えた日に、それは唐突に終わった。
誕生日はいつも、父は半日休みを取り、祝ってくれる。その日もそうだった。
学校から帰ると、エイプリルは大声でただいまの挨拶をした。しかし、出迎えてくれる両親の姿はない。
おかしいな、あ、もしかしてサプライズかな。
そしたら、私も驚かせよう!
エイプリルは足音を立てないようにそっと廊下を進む。
心は、これから先のイタズラに弾んでいた。
そして、リビングのドアを勢いよく開けた。待っていたようなことは起きなかった。
静まり返るリビングで、まず目に入ったのは「エイプリル、お誕生日おめでとう」の文字が一つずつ書かれたガーランドだった。
次に見たのは、机の上に並べられた豪勢な食事。
エイプリルの好物のハンバーグとオムレツが乗っている。真ん中には大きなケーキも。
それから、立っていた見知らぬ男と、横たわり、絶命した血まみれの両親だった。
* * * *
翌日――エイプリルがこの街に来てから三回目の夜が訪れた。
彼女は一人、時計台の針の上に座っている。
ここからだと、この街がよく見える。
空は分厚い雲が覆っており、星はおろか、月の光さえ届かない。辺りは静まり返っている。たった三晩で、街は変わった。
続く奇怪な殺人事件のため、人々は夜の外出を控えているようだ。吸血鬼であるジェームズ・アーカーは捕まったが、まだ一般には公表していない。
警察が彼の家宅捜索を始めたところ、黒いマント、帽子、仮面が物置として使っている倉庫から発見された。
マントにはエイプリルが撃った跡が残っていた。動かぬ証拠だ。
ヴィシー、とエイプリルは呼びかける。
しかし、返答はない。
(そうだ。ヴィシーはいないんだったわ)
昨日、体を引きちぎられたヴィシーを思い出す。
エイプリルはそっと目を閉じた。
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