女子大生と獣人少女の異世界滞在記
孤兎葉野 あや
プロローグ
がたごとと揺れる電車の中で、一日のことを思い返す。
窓の向こうで、速すぎることもなく流れてゆく、田んぼや畑の多い景色に、
夕陽の色が重なってゆくのを眺めて、ほっと息をつく。
さっきまで日中のほとんどを過ごしていた、この春から通い始めた女子大は、
曲がりなりにも地方都市と呼ばれる場所の一角で、当然のことながら人も多いけれど、
帰り道、いわゆるローカル線というものに乗って、しばらく時を過ごせば、
幼い頃から慣れ親しんできた、のどかな景色が広がって、私の心を落ち着かせる。
高校に比べれば大学はずっと自由だよと、何度も耳にしてきて、
確かにその通りだなと実感はしているけれど、
それはそれとして、勉強はやっぱり難しいことも多くて、
教科書や辞書、参考文献を詰めた鞄がずっしりと重く感じる時もある。
今の大学を選んだのは、立地の面が大きかったけれど、
おぼろげながらも将来やりたいことはあって、この学部を受験したのだから、
勉強そのものが嫌というわけではない。
けれど、午前中からいくつもの講義を受けて、疲れを感じずにいられるかは別問題だ。
「でも、明日から2日は休みだから・・・!」
ぐっと腕を伸ばし、都会に比べれば少なく感じるとはいえ、
周りの乗客の注目を集めないように、小さく口にする。
そうだ、出掛けよう。会いに行こう。
今週の予定は教えてあるし、向こうもとっくにそのつもりでいるだろうけど。
思い浮かべるだけで、少し明るい気持ちになって、
丁度よく到着した最寄り駅の改札をくぐった。
「ハルカ! おかえりー!!」
その途端、耳に飛び込んできたのは、
私の名前を呼ぶ、聞き慣れた声。
「クル!! こっちに来てたの?」
今日来るとは聞いていなかったので、びっくりして尋ねる。
いや、自由な子だってことは、十分に知ってるつもりだけど。
「うん! おうちに行ったらハルカの匂いがしなかったから、
ここかなと思って。」
「ちょっと! こっちだとその言い方、びっくりされるって言ったでしょ?」
「あはは、そうだったね。ハルカのところと私のところ、全然違うからなあ。
こっちの服もきついし、もう脱いじゃいたいかも。」
「待って、せめて家まで我慢して!」
ふわりと全身を覆う服と、頭を隠すような帽子を、
今にも脱ぎ捨ててしまいそうなクルを、慌てて止める。
クルのところの服は、もっと簡単に大事なところだけを守るようなものだから、
こちらに合わせてもらうのは、ちょっと可哀想な気もするけど、
大騒ぎにならないようにするには、仕方ない。
だってその服の下には、犬の耳と尻尾が、
それも一部で流行りの仮装とかじゃなくて、本物が隠されているのだから。
「じゃあ、早く帰って一緒に水浴びしよう! あったかいやつ!」
「うん、それはお風呂ね・・・って引っ張らないで! 私は自転車だから!」
ぐいぐいと強い力で引かれながら、ようやく自転車にまたがり、
その横を軽々と走るクルと、並んで家路につく。
「ねえ、明日はクルのところへ行こうかな。」
「うん、もちろん! じゃあ、一緒に狩りをしよう!」
「う、うん・・・!」
少しだけ苦笑しながら、晴れやかなクルの言葉にうなずく。
私には少しばかり刺激が強いけれど、
クルにとっては楽しみでもあり、あちらで生きるために必要なことでもある。
だけど、これくらいの違いは、私達にはもう当たり前だ。
そもそも、生まれた世界が異なるのだから。
そんな私達が出会ったのも、奇跡的なことだけれど、
その縁が続いて、こうして頻繁に行き来することになるなんて、最初は思わなかった。
ずっと仲良しではあったけれど、私達の関係が大きく動いたのは、
私が高校を卒業した、この春のこと・・・
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