第26話 VSキングゴブリン
「ドミノ」
「おうよ!!」
シェイズの掛け声にドミノが一歩前に出る。
すると、
「グゥゥゥゥゥゥゥォォォォォォ!!!!」
「っと、何だ!?」
キングゴブリンの咆哮が周囲に轟く。
「なるほどな。手下を呼びやがったか」
ドミノの言葉に俺たちは視線を横に向ける。
他の穴から大量のゴブリンたちが武器を持ち姿を現した。
「へっ、最初からここまで来させて迎え撃とうって腹か……!! モンスターのくせに随分いい根性してるじゃねぇか……!! 好きだぜ、そういう作戦は!!」
どうやらここに来るまでの道中でゴブリンの襲撃が雑だったのは全てここに戦力を集中するためだったようだ。
奴らは俺たちと同じく、ここで全てを蹴散らそうとしている。
「へっ、何だろうとやることは変わらねぇ!! むしろ、雑魚も一掃できて一石二鳥だぜ!!」
ドミノは更に好戦的な意思を示し、逸るように剣を抜いた。
「リュード、ミラン、レナ。お前たちは周辺のゴブリンを担当しろ。俺たちはキングゴブリンの討伐に集中する」
「了解……」
リュードたちはAランク冒険者、俺と同様にSランクモンスターとこうして邂逅することは運が悪くない限りなかったはずだ。
見れば、彼らも初めてのSランクモンスターを前に動揺しているのが分かる。
その証拠にリュードは余裕の無さを誤魔化し、呼吸を整えるように短く返事をした。
「スパーダ」
「な、何だ?」
「……お前との戦闘はこれが初めてだ。戦況を判断し、自分の出来ることに尽力しろ」
「……分かった……!!」
初めてのSランククエスト。
俺に不釣り合いな場所。
だけど……ここまで来たらもう後には退けない……!!
なら見つけろ……!! そして尽くせ……!! 力の許す限り……!!
「行くぞ!!」
俺が覚悟を決めた矢先、シェイズは声を張り上げる。
瞬間、俺たちは地面を蹴り駆けだした。
◇
「ははは!! 行くぜキングゴブリン!!」
「ガァァァァァァァァァァ!!」
真っすぐにキングゴブリンへと向かっていったドミノ。
しかし敵は彼に見向きもせず大きく跳躍し、
「なるほど」
エルに攻撃を仕掛けようとしていた。
「っマジかよ!! こっち見ねぇのか!! エル!!」
「分かってる」
流石キングゴブリン。
人間ほどかどうかは分からないけど知能が高い。
後衛職の厄介さを理解し、真っ先にこちらを潰す判断をするなんて。
「だけど」
エルは魔具:
「問題ない。
そしてエルがそう言うと、彼女の周りを半径五メートルの円が囲むように魔力壁が展開した。
魔力壁、その名の通り魔力で作られたシールドであり無属性型の放出魔法に属する。
先ほどのロイドの一過集中は体内の魔力を波のように放出し敵を引き寄せ、今回の円形防御は自身の魔力を円形の魔力壁へと変換し放出している。
放出魔法はかなり応用の利く部類の魔法なのだ。
「ガァァァァァァァァァ!!!」
キングゴブリンは大きく拳を振りかぶり、そのままエルの発動した魔力壁に殴りかかる。
激しい衝撃が走り、互いの力が拮抗する。
「アァァァァァァァァァ!!!」
「無駄。宗玉の杖の効果は、発動した魔法の精度、威力、効果を五倍にする」
「ウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
下顎を突き出すように歯ぎしりをするキングゴブリン。
だがその攻撃はエルの防御魔法を突破できなかった。
「よくやったエル」
「ッ!?」
エルへの攻撃に意識を集中させていたキングゴブリン、当然その隙を逃すはずがない。
シェイズは一瞬でキングゴブリンの懐に入り剣を抜く。
「
彼の魔力特性は水。
剣に水を纏い、滑らかな剣さばきで敵の腹部に一撃を入れた。
「ガァッ!!」
堪らず声を上げるキングゴブリン。
距離を取るために、態勢を変えずにそのまま再び跳躍する。
「はっ!! そりゃあそうだ!! 当然距離を取るよな!!」
だがそれはドミノの読み通り。
跳躍する方向を予測していた彼にキングゴブリンは背後を取られてしまった。
「いくぜ!!
土の魔力特性を持つドミノは土属性の魔法を行使することが出来る。
土刳頼は地面から突き出すように形成された五本の太い槍が対象を突き刺す魔法である。
「ガァッッ……!!」
「よし!!」
キングゴブリンはその五本を足、腕、胴体へと、全て受けてしまう。
「トドメだ」
ドミノが行使した魔法は攻撃魔法としても優秀だが、対象を逃がさないようにするための拘束魔法としても有用。
動けなくなっているキングゴブリンに対し、容赦なくシェイズは攻撃を放つ。
「グゥゥゥゥゥゥゥゥ!!! アァァァァァァァ!!!」
だが、キングゴブリンもただ黙っているわけがない。
自身の怪力を駆使し、ドミノの拘束から逃れようと腕を、足を酷使した。
「アァァァァァァァァァ!!!」
「はっ!! 流石キングゴブリン!! すげぇ怪力だ!!」
ドミノが感心するのも束の間、キングゴブリンは突き刺さっていた五本の槍の内、二本を破壊する。
その二本は腕に刺さっていたもの。
腕が自由になったキングゴブリンはニヤリと笑いシェイズを待ち構えた。
「ガァァァァァァァァァァ!!!!」
二本の腕を以て、キングゴブリンはシェイズに向かい拳を放つ。
拘束を解くのに若干時間が掛かったことでキングゴブリンが反撃したのはシェイズとの距離が二メートルを切ったあたり。
だがそれが敵にとって功を奏した。
ギリギリで繰り出されたその攻撃は、シェイズにとって回避の困難な攻撃へと昇華したのだ。
だが、
「
それはシェイズが魔法を行使しなかった場合の話である。
シェイズは体中の
再びキングゴブリンの胴体に到達したシェイズ。
「ッ!?」
「死ね……
目にも止まらぬ速度で攻撃を叩き込む。
先ほどの強大な一撃を、連続で。
「ガァァァァァァァァァァァァァ……!!!」
キングゴブリンの自己治癒能力は非常に高い。
ちょっとやそっとの攻撃ではすぐに再生されてしまう。
しかし高速、威力も高い、無数の斬撃……この三拍子が揃った攻撃はキングゴブリンの自己治癒能力を上回る。
腕が、足が、胴体が、頭部が……瞬く間に分離し、地面に崩れ落ちた。
Sランクモンスターとしては、とても呆気ない最期である。
しかし、無理もない。
このSランクモンスターが対峙していたのは、常日頃から彼らのような強大なモンスターと戦っていた百戦錬磨の猛者たち。
奴らのようなモンスターと戦うレベルまで、己を研鑽し続けた……Sランク冒険者なのだから。
◇◇◇
小話:
Sランクパーティーの強さは大体Aランクパーティー十個分です。
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