第24話 道中

【竜牙の息吹】とリュード率いるAランクパーティーはホウボウ山の山道を歩いていた。

 ホウボウ山の高さは千メートル足らずだが、目的である洞窟の場所はその中腹部で五百メートルほどの位置にある。

 そこまでの道のりを俺たちは徒歩で黙々と歩いていた。


『おいまだかスパーダ』


 すると痺れを切らしたように背中でゼノが話しかけてくる。


「まだだ」

『うぇ~、おかしいじゃろ。この山さほど高くないぞ。それなのに着かないなんて……はっ、まさか魔法による攻撃で永遠と歩かされてるのでは!?』

「違ぇよバカ」

『何じゃと!?』


 憤慨するようにゼノは言う。


「そりゃあ直線距離で行ったらもう着いてるかもな。だけど山道はそうじゃない。じぐざぐで回り道が多い、加えてこの山は傾斜も中々だ。だから時間が掛かるんだよ」

『なるほど……面倒くさい!』

「だったら寝てろ。着いたら起こしてやるよ」

『うむ。頼んだぞ!』


 ゼノは眠りについた。


「……」


 そんな俺達のやり取りに、リュードたちは後ろから冷ややかな視線を向けていた。

 対照的にシェイズたちからはそのような視線は向けられていない、むしろ好意的と言って良い。


 正反対の空気間で板挟みになっている俺の心労は相当のものだった。



「ん……?」


 ゼノが睡眠を開始して一時間後、俺は気配を感知する。


「スーちゃん、私の後ろに入って」


 感知したのは俺だけではない。

 リンゼも、見れば他の面々も皆同様に周囲に目を向け始めていた。


「この山道は人の出入りが少ないからな。当然山に生息しているモンスターもそれを理解している……来るぞ」


 シェイズの言葉に、俺たちは身構える。

 そして、


「ウゥゥゥゥゥゥゥ……!!」


 周辺の草木からモンスターが現れた。


「ショルムタイガーか……!」


 ショルムタイガー、四足歩行の肉食系モンスター。

 足が速いのは言うまでもないが特筆すべきは顎だ。

 奴の顎は以上に発達しており、その威力は固い鉱石を壊すほど。

 よってギルドからはAランクモンスターに設定されている。

 

「十匹か」


 モンスターの数を数えながら、ドミノは腰の剣を抜く。


「ふん。待てよ」

「ん? どうした?」


 すると、何故かリュードが彼に声をかけた。


「あんたらの目的はキングゴブリンだろ? こんなところで無駄な体力や魔力を消費するなよ。ここは俺たちに任せとけ」


 そこそこ的を射た物言いだ。

 だが、奴の本心は別の所にある……自分たちの有用性をSランクであるリンゼたちにしっかりと見せつけるというのが本音だろう。


「ロイド、前に出ろ!! レナは俺のサポートに集中、ミランは残った個体に攻撃魔法を仕掛けろ!!」


 リュードの声に彼らは一斉に動き出した。

 的確な指示を出し、戦闘を開始する。


一過集中ワン・コルート!!」


 勿論、魔法を使ってだ。


 魔法には三つの種類があり、それは属性型、無属性型、特殊型の三つに分類される。

 属性型は本人の持つ魔力特性によって左右される魔法だ。

 魔力特性には火、水、風、土、雷、光、闇の基本の七種類と、そこから派生したものがある。


 火の魔力特性を持っていれば火属性の魔法を、水の魔力特性を持っていれば水属性の魔法が使えるのだ。

 魔力特性は基本的に一つ、稀に複数持つ者もおり、その逆で一つも魔力特性も持たない者も存在する。


 次に無属性型。

 これは本人の魔力特性関係なく研鑽や修練、もしくは人に教えられることによって使える魔法だ。

 回復魔法や強化魔法なんかがこれに当たり、その他にも放出魔法と契約魔法がある。


 今ロイドが使用した一過集中は体内の魔力を外へと放出、それによってモンスターの注意を引くというものだが、これは無属性型の放出魔法に当たる。

 重戦士の彼にとってこの魔法は必須なのだ。


 最後に三つ目の特殊型だが……これは今は言う必要はない。


「いくぜ!!」


 五匹のショルムタイガーがロイドに向かって襲い掛かる。

 リュードは威勢の良い声を上げながらそこを狙った。


「レナ!!」

「は、はい!! 魔力強化マジック・バフ!」


 後方に待機するレナがリュードに魔法の威力を強化する強化魔法を付与する。


火炎斬フレイムスラッシュ!!」

 

 リュードの魔力は火属性。

 剣に纏わせた炎は、レナのサポートもあり激しく燃え盛っていた。

 彼は大きく振りかぶり、


「はぁ!!」

「ァァァァァァァ!!!!???」


 一気に五匹の首を斬り落とした。


「ガァァァァァァァ!!」


 残りは半分。

 ショルムタイガーは一目散に後方のミランとレナに向かって走っていく。


「さて、じゃあ」


 ミランは持っていた杖を構える。


暴虐風ぼうぎゃくふう


 たちまち、地面を抉り取るような激しい竜巻がショルムタイガーを飲み込んだ。 


「ァァァァァァァァァ!!!???」


 竜巻内部で何が起こっているのか分からない。

 ただ、風に乗せてモンスターの断末魔が聞こえてきた。


「ふぅ……」


 息を吐くミラン。

 竜巻は消失し、刻まれたモンスターたちがボトボトと音を立てながら地面に落下する。


「うっ……」


 惨たらしい死体だ。

 腕や足が散らばっており、どれがどの個体のものか分からない。

 そもそもとして一体何匹のモンスターを殺したのか分からない程度にはそれらは損傷していた。


「どうだ?」


 満足げな顔でリュードはシェイズを見る。


「中々やるな。Aランクパーティーになったばかりのようだが、このまま研鑽を積めばかなりのものになるだろう」

「はは! そうだろ、しかも俺たちの内俺とミランは既に個人としてもAランク。ロイドとレナももうすぐだ。この調子なら全員個人でSランクも夢じゃねえ。近い内、必ずSランクパーティーになってやる!!」

「……」


 俺は無言でリュードを見る。

 冒険者として大望を抱いているアイツが、今の俺の目にはとても霞んで見えていた。


「おいスパーダ」

「……何だ……?」

 

 俺の様子にニヤリと口元を歪めたリュードは煽るように言った。


「はん、せいぜいそうやって後ろから死なねぇように見てろよ無能。背中のお飾りの剣と一緒にな」

「……」


 相変わらず俺は何も言い返せない。


『ん~……むにゃむにゃ』


 そんな俺を他所に、ゼノは呑気に惰眠をむさぼり続けていた。




◇◇◇

小話:

体内の魔力量は鍛える事で上限値を上げることができます。

また鍛える事で強力な魔法を少ない魔力量で発動させることもできます。

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