074 リャム・ネシャーナの実力

「姉さん。怪我が無くて良かった。でも無茶はほどほどにね」

「うーん、おっかしいなぁ。あそこでバチッと決めるはずだったのになぁ」

「⋯⋯なるほど。リャムの方は黄色魔術の使い手か。触媒の陣を描くスピードも早いし、やはり彼女は優秀な魔術師みたいだね」

「出番取られそうで焦ってんじゃねえだろうな、クオリオ?」

「まさか。君の方こそシャムにお株を奪われたんじゃないかい?」

「言ってやがれよ」(なぜバレたし)

《バレてないバレてない》


 軽口叩いたらクオリオに核心つかれてドキッとした。

 けど大丈夫こんくらいじゃ俺の存在感は消えないからセーフ。

 とはいえこのまま観戦に徹する訳にもいかん。色んな意味で。

 つー訳でこっからだよこっから。


「ハッ、使えンなら文句ねえ。オラ猫姉妹、魔獣共を蹴散らすぞ!援護しやがれ!」

「は、はい!」

「あいあい⋯⋯ってなんで仕切ってんだよー!」

「俺がヒイロだからだ!」

「なにをー!」


 ネシャーナ姉妹の活躍に負けてられるか。

 とはいえ仲間の活躍に立場危うくなって立ち止まるなど、ヒーローの風上におけない。

 自分の価値は己の背中で示すべく、凶悪を担いで最前線へと突っ込む俺であった。




◆ ◆ ◆



「だらァァ!!」

【gobuuuu!!】


 新規キャラの登場に危機感を覚える俺だったけど、武術の冴えはすこぶる良かった。

 これもクオリオとの鍛錬の賜物ってやつか。地味な特訓の成果を実感する瞬間は、やっぱり気持ちが良いもんだ。魔獣の断末魔響いてるけど。


「ほうほうほーう。思ったよりやるじゃんヒイロン!」

「あァ?ヒイロンだァ?」

「いい呼び名っしょ?ウチのことはシャムちーとかでいいよん?ヒイロン!」

「ケッ。お断りだ、猫娘」


 俺の猛進っぷりに感心したんだろう。鉄球をぶん回しながら、シャムがにこやかに笑いかけて来た。

 仲良くはしたいけどヒイロンはなー。ヒロインみたいでちょっと。


【geeeeiiiii!!!!】

「!」


 戦闘中に考え事はご法度だ。それ見たことかとばかりに、忍び寄っていた魚人サハギンの魔獣が鉾を手に襲ってくる。


「『芽吹け、芽吹け、遥かへ伸びろ』──『ノームの鼻』」

【gi!?】


 だがその鉾は俺に届く前に、足元の大地から槍見たく隆起した縦長石に持ち手ごと穿たれていた。


「こいつは⋯⋯リャムの黄色魔術か」

「す、すみませんヒイロさん!咄嗟に唱えちゃって⋯⋯巻き込んだりしてないですか?」

「あァ?見ての通り無傷だ」

「そ、そですか。良かったです」


 予想違わず、黄色の下級魔術で俺を助けたのはリャムだった。

 しかし巻き込んだかも、と思ってペコペコと頭を下げる辺り、もしかしてこういう集団戦は経験がないかも知れない。

  

「『叩け、叩け、雷鼓の芯。咲けや咲けよや、緑の雷花』──『ハオカーの招雷』!」

「あァ?⋯⋯ッ、どわァァ!?」

【woloff!?】


 遠慮しがちなリャムについて思いを馳せていれば、どこからか響いたフィンガースナップと共に、緑色の稲妻が落ちた。俺ではなく、狼の魔獣に。

 無論、自然に起きたものじゃない。空は快晴。つまり今の晴天の霹靂も魔術によるものだって事になる。

 そして緑色といえば、犯人は言うまでもなかった。


「そう憂うことはないよ。アイツは馬鹿みたいに頑丈な奴だから、巻き添えくらっても平気さ」

「い、いやいや、さすがにそれは⋯⋯」

「テメェ、クオリオ!声ぐらいかけやがれ!」

「闘いの最中によそ見をする君が悪い」


 よそ見は確かにそうだけどさ。リャムが思い切りよく戦えるようにって気遣いだろうけど、それなら俺にも優しくせんかい。

 さらっと新魔術お披露目してからに。くそう。


「むう、緑の中級魔術。クオっちもなかなかやるじゃん⋯⋯」

「ハッ。口だけ達者じゃ俺の師匠は務まらねぇよ」

「なにをー!言っとくけど、ウチらの本当の実力はもっと凄いんだから!」

「⋯⋯ンだと?」


 で、また予想外のとこに火がついてるし。


「リャムー!アレやろうよ、アレ!」

「え!で、でも姉さん。みんなが⋯⋯」

「いーからいーから!」


 なんだ。いかにもとっておきをやりますよって風采だけど。

 姉の要求に渋るリャムだったけど、諦めたような溜め息を挟むと、意を決したようにサハギン達が群れる川の側へと歩み寄る。


「『凍れ、凍れ、白銀に。ゆるれり凍れ、刹那に留まれ』」

「なっ!?その呪文は⋯⋯!」

(⋯⋯、⋯⋯え?)

《⋯⋯⋯⋯へえ》


 触媒なのだろう。詠唱すると同時に取り出した青い色紙に、リャムがそっと口付ける。

 あれがどういう魔術なのかは知らない。リャムの詠唱が紡ぎ終わった時、何が起こるのかも俺には分からない。

 けれど多分、俺とクオリオの驚嘆は同じだった。

 何故なら、リャムが掻き集めている魔素の色が⋯⋯【黄】ではなく【青】だったからだ。


「行くよ、姉さん──『ウェンディゴの囁き』」


 そして、リャムが青色紙を川に浸すと⋯⋯触れた端から瞬く間に、川の水面の一部が凍り付き。


「任せーい!!とりゃああああ!!」


 妹が作り出した刹那の氷獄へと、姉は大きく跳躍しながら。


「アイシクル、ブレェェェェイクゥゥ!!!」


 足が凍って身動きの取れない魔獣達へと、文字通りの鉄槌を下したのだった。



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