072 古来より武官と文官は衝突しがち
「『神々の残された者』か」
「あァ?なンだよそりゃ⋯⋯」
「レギンレイヴ。僕らの隊の名称元になった
「ほう。だったら良いじゃねえか。余りものには福がある。俺たちはツイてるってことだ」
「⋯⋯はぁ。馬鹿か君は。いや馬鹿だったね君は⋯⋯」
「うるせえインテリ特化野郎」
俺達の小隊名が発表されたあの後のこと。
今日は実質顔合わせだけだったらしく、無駄のない隊長によってすぐに解散が告げられた。少し拍子抜けだったけど、案外積もる話もあるだろうからって気を遣ってくれたのかもしれない。
で、お言葉に甘えた俺達は現在、改めての自己紹介も兼ねて欧都でランチと洒落込んでましたとさ。
「じーーーっ」
けど穴あく勢いで見つめられればさ、飯の味も入って来ないよね。
「おい猫娘。オレになんか言いたいことでもあんのか?」
「んー⋯⋯ん?いや、これがシュラ姉の言ってたヒイロかぁって思って」
「あァ?」
「いっつも無茶してるたんさいぼーなお馬鹿さんって聞いてたもんだからねー。あとすんごい悪人面って。あはは、ほんとだー!」
「テメェこらシュラ表出ろやァ!」
「なによ、事実じゃない」
「事実をなんでもかんでも言っちまったら戦争だろうがァ!」
おのれシュラめ。事実だったら俺の活躍ぶりとか褒めるべき所とか伝えんかい。
しかしシャムは人懐っこいタイプだな。距離感を気にしないというか。典型的な元気娘って感じがする。
一方で妹のリャムは大人しめな性格らしい。丼をかっ込むシャムの隣で静かにちまちま食べる様子を見れば、似ているのが見た目だけなんだと分かる。
というか、シャムはともかくリャムって全然騎士っぽくないよな。どっちかというと、図書館の司書とか似合いそうだし。
「少し気になっていたんだが、リャムも訓練生だったのかい?姉の方はともかく、君を訓練の時に見た覚えがないんだけど」
「あ、それは当然です。私は元々訓練生とかじゃなくて、ラーズグリーズの候補生として下働きしてまして」
「へえ。ラーズグリーズっていうと、魔獣や魔術の研究を主にしている部隊だったな。下働きってことは、資料整理とかかな?」
「ええと、そんなとこです。本当だったらそのままラーズグリーズに所属する予定だったんですけど⋯⋯なぜかシャム姉さんと一緒に本隊に配属されて」
「あァ?どうせなら姉妹一緒にしちまおうって魂胆か?」
「そ、そうとは限りませんけど⋯⋯あはは」
「⋯⋯ふむ。別部署から本隊に属するケースはない訳じゃないが、よそで遊ばせられないほど優秀な場合がほとんどだ。ということは、君も相当優秀って事らしい」
「へぁ。そ、そんなことないです。たまたまです、たまたま⋯⋯」
マジかよリャムさん。はじめましての時といい天然っぽい印象が強いのに、実は秘めたる力を持ってたりすんのかよ。
ついリャムをまじまじ見つめれば、気恥ずかしそうに猫耳フードを深く被ってるこの娘が。人は見かけによらないもんだな。
「むむむっ。さてはクオっち、うちのリャムに興味有りって感じかな?感じだな!」
「んなっ。ち、違う。ただ僕は気になったことを聞いたまでだが」
「でも駄目!リャムをあげるには、眼鏡くんはひょろひょろしてて頼りないから!」
「ひょ、ひょろひょろ⋯⋯?」
「ね、姉さん⋯⋯」
「容赦ねえな。さては姉貴分に似たか」
「そこでこっち見んな。シャムは元々あんな感じよ」
これも姉心ってやつなんだろうか。恋愛ものでありがちなおせっかいムーブに、ついシュラを見た。睨み返されたけど。
まあシャムの気持ちも分からんでもない。かくいう俺もサラを頼りない男にはやれん。少なくとも俺に勝てるくらいじゃなきゃ駄目だな。
でもこのままクオリオがナメられてる感じもいかんともしがたいし⋯⋯うん。ここはひとつ、俺もおせっかいムーブかますか。
「フッ、クオリオを見た目だけと考えるようじゃまだまだだな」
「ほほーん。と言いますと?」
「シュラがテメェの師匠なら、俺の師匠はコイツだってことだ」
「!」
「えー。このガリガリの眼鏡が?うっそだぁ!」
試すような目線で俺を見上げるシャム。
ふふん、疑ってるな?だが舐めるなよ。クオリオはほんと凄いヤツなんだからな。
「テメェはまだクオリオを知らねぇ。いいか、こいつは頭が俄然切れる。かくいう俺もシュラも、つい最近コイツの知恵に助けられたばっかでなァ」
「なぬっ!?シュラ姉、それほんと!?」
「⋯⋯事実よ、悔しいけどね」
渋い顔をしながらも肯定するシュラをみて、あんぐりと口を開けるシャム。良いリアクションするなぁ。だがしかーし、主人公のフォローがこの程度と思って貰っちゃ困るね。
「それだけじゃねえ。体力は無ぇが魔術師としての腕もピカイチだ。魔素の量も同期ン中なら最上位ってとこだろうよ」
「う、うぬぬぬぬっ⋯⋯」
「この俺ほどじゃねえが、こいつも秘めたる才能は留まることを知らねえ。ひょっとすりゃあ将来、騎士団長すら小さく見えるほどの大物になったって不思議じゃねェかもなァ!クカカカカッッ!」
「え、おいヒイロ、ちょっと盛りすぎだぞおい!」
俺のフォローがあまりに手厚かったからか、クオリオが泡を食ったように止めてくる。
馬鹿野郎、こういうのは盛ってなんぼだぞ。言うだけタダだし。って訳で、最後にトドメのフォローを叩き込む!
「そして──なによりィ!テメェもルームメイトなら受けた事あンだろ、あの訓練時のペーパーテストォ!」
「うぐっ、あれかぁ⋯⋯」
「クククッ、その顔を見るに散々だったみたいだな。俺もだ。だがこのクオリオ・ベイティガンはなァ!訓練生ン中で唯一!満点を叩き出してんだよォ!」
「なぁっ!?すすすす、すっごぉぉぉい!!!」
「クカカカカ!どうだ、凄いだろ。満点だぞ満点!テメェにゃ逆立ちしたって無理な芸当だろォが、あァ!?」
「ぐぬぬぬぬ⋯⋯く、悔しいっ!」
ふふふ、参ったろ。俺のニ十一点では足元にも及ばない満点だ。ぐうの音の出ないほどに悔しがるシャムの前に、俺の脳内で決着のゴングが高らかに鳴り響いていた。
「なぁ。なんで僕が一番恥ずかしい想いしてるんだろうな」
「さあ?頭が良いからじゃない?アイツらが馬鹿過ぎるだけかもだけど」
「⋯⋯どっと疲れた気分だよ」
「ちょっと喜んでる癖に」
「う、うるさいな。いいだろ別に」
なんだかざわざわ言ってるけど、さしずめ俺の弁舌に感銘を受けていると見た。まあともかく、シャムもこれに懲りて、クオリオへの印象を良くしてくれるはずだ。
なんて風に、思ってた時期が⋯⋯俺にもありました。
「み、認めぬし⋯⋯認めないしー!男も女も度胸、大事なのはパワーだよ!こーんなヒョロっちい眼鏡より、天下無敵のシャムちゃんの方が凄いもん!」
「む⋯⋯生憎、僕自身も君みたいな視野狭窄のちんちくりんに負ける気はしないけどね?」
「ちんちくりん!?ウチはまだ成長過程なだけだぁー!クオっちみたいなのなんて、魔術使われる前にピャッと近寄ってキュッとして終わりだし!」
「むざむざと近づける訳ないだろう。ヒイロを笑っていたが君の方がよっぽど単細胞じゃないか!」
「なんだとぉぉぉー!」
あ、あれ。なんでいがみ合ってんの。火花散ってんの。
俺の渾身のフォローは一体⋯⋯
「ねえ、ヒイロ」
「⋯⋯なンだ」
「なにごとも程々にしとく方が、いいこともあるみたいね」
「⋯⋯おう。肝に命じとく」
「ね、姉さん、テーブルに足乗せるなんてはしたないからっ。クオリオさんも落ち着いて⋯⋯!」
平和って、儚いもんですね。
メンチ切り合う二人をオロオロしながら仲裁するリャムを見て、俺はひとつ悟ったのだった。
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