069 新章のはじまりに、ラブコメを添えて
青空に雲が伸びていく。
本日も健やかな晴天なりな空の下、俺はご機嫌に踵を鳴らして大通りを歩いていた。
(フッ、見ろよ凶悪。すれ違うやつ人達、みんな俺の事を見てる感じ。さては騎士装備の俺から溢れ出るオーラにみんな惹かれてると見たぞ!)
そう、今日の俺は一味違う。遂に本隊入りってことで、ブリュンヒルデ隊の装備verヒイロなのである。青を基調とした騎士装備のなんとかっこいいことか。
主人公たる俺がそんな格好してれば、そら注目されて当然って訳よ。
《は?どこが?傍からみてる分には、騎士から鎧奪ったチンピラにしか見えないけど?マスターったら、冗談はもうちょっと笑えるようにしてよねぇ》
(本日も朝からさらっと辛辣ですねえ凶悪ちゃん)
しかしこの鉄パイプさん(指輪モード)からの即否定ですよ。ちょいと酷すぎない?
親愛なるマイシスター・サラだってかっこいいって褒めてくれたのに。み、身内
あのルズレー事件で俺も結構がんばったんだし、ちょっとは認めてくれてもいいじゃない。
なんて風に、段々と慣れ始めてきた脳内トークに花を咲かすことしばらく。気付けば到着していた騎士団本部ヴァルハラの入り口にて。
「遅いわよ」
「遅いぞ」
見慣れた二人が、待ってたぞとばかりに声をかけてきた。
「おう、悪ィな⋯⋯って待てや。待ち合わせなんざした覚えはねぇぞコラ」
「アタシもした覚えなんてないわよ」
「僕もない。だが、色々と杜撰で粗暴な君のことだからね。おまけに方向音痴だし、ひょっとしたら本部までの道のりを迷いかねないと思ってね」
「そういうこと。同期がそんなだとアタシも恥ずかしいし⋯⋯つまり、見張ってやるつもりだったってだけよ」
「普段、俺をどういう風に見てるかよく分かったぜクソが」
出会い頭にずいぶんな挨拶だった。仮にもピンチを協力して脱した仲なのにこの扱いですよ。いくら俺だって流石に今更本部まで迷ったりしないっての。
ともあれ、合流出来たなら丁度良い。本日から本隊入りの三人、肩を並べて本部へと向かうとしよう。
「そういえばヒイロ。君もあの一件の後、麓の村まで帰省したんだっけ?なかなかに騒がれたんじゃないか?」
「フッ、まぁな。村の連中、俺を英雄だのなんだのとガキみてぇに持て囃しやがって。クカカカッ」
ヘルメルに帰省した時のことは、もう思い出すだけでニヤけてしまう。サラの手紙でヒイロが見直されてるって聞いてたけど、ヘルメルに戻った途端に黄色い声援を向けられたのは驚いた。
いやぁアレは最高でしたね。村の英雄だ、誇りだ、って具合に騒がれてさ。
村の皆からの憧憬や羨望の眼差しが、気持ち良くって仕方なかったです。うへへ。
「ねえ。ヒイロ」
「あァ?」
「確かアンタには妹が居るのよね?サラって名前の。今は村に一人で暮らしてるんでしょ。ちゃんと気にしてあげてるの?」
「ハッ。あいつはこの俺の妹だぜ。手の掛からねぇしっかりしたヤツなんだよ。心配なんざいらねえ」
「⋯⋯あっそ。ま、精々大事にしなさいよ」
少し予想外なシュラの気遣いに、内心で面食らってしまう。なんだかシュラの表情もちょっとアンニュイな感じだし。
あれか、ライバル枠から見れば俺なんてまだまだ危なっかしい奴に見えるって事なのかね。
「むしろアイツのが俺のことを気にし過ぎって話だ。やれ飯はちゃんと食ってるかだの、早く恋人作って見せに来いだの」
「⋯⋯、⋯⋯へー。可哀想にね。どうせその杞憂はしばらく晴れやしないだろうし」
「あァ?テメェ、そりゃどういう意味だコラ」
「ふふん。アンタみたいな悪人相にときめく奴なんていないって事よ」
「ハッ、墓穴掘りやがったなクソアマが!それならテメェだってろくに男が寄り付かねえだろうが、野良犬みてえな目付きしやがってよォ!」
「んなっ⋯⋯誰が野良犬よ誰が!言っとくけど、無名のチンピラなアンタよりはずっとずっとモテてるわよ!」
「あァ!?テメェ、二つ名持ちだって調子に乗りやがって!」
「⋯⋯頼むからもう少し周りの目を気にしないか、君たち」
クオリオの溜め息も指摘もごもっともだが、ここで退いては男が廃る。
言われっぱなしは性に合わない。ここはいつぞやみたく、ライバルに向けて大胆不敵に宣戦布告しやろうじゃないか。
「ケッ、いつまでも無名呼ばわりしやがって。言っとくが、俺をそう呼べんのも今のうちだけだぜ?」
「──へえ。面白いじゃない。コルギ村の時みたいに、有言実行してくれるっていうの?」
「ったりめえだ。見てやがれよ、アッシュ・ヴァルキュリア」
そうさ。
無名なんて今のうちだけだ。
見てろよシュラ。俺の宿敵、アッシュ・ヴァルキュリア。
お前のその勇名だって、俺はいつか必ず超えてやるのさ。
「今にお前は⋯⋯俺のもんになんだからよ」(今に有名人の座は、俺のものにしてみせるんだからな!)
フッ、決まった。
⋯⋯
⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯あれ?
なんか今、すっごい食い違い発生してなかった?
「⋯⋯、────ひぇん!?」
あ、シュラがいつぞやみたく鳴いた。懐かしいな。
いや違うそうじゃないだろ冷静に懐かしんでる場合か。
(おいいいい!フィルターおいい!!!)
《マスターって馬鹿なの?》
(今言われたって反論出来ないけどちっげえから!!かんっぜんに言葉の綾だから!)
《えぇぇ⋯⋯》
いや何故だよ。
なんでこのタイミングで致命的なニュアンスずれが発生してんの?! もはやただの告白になっちゃってたんですけど!?
おかしいだろ! 内角高めにフォーク玉投げたと思ったら何故か直球ど真ん中になっちゃったんですけど!?
「バッ⋯⋯なっ、ななな、なに言ってんのよあんた!ほんとなに言ってんの?」
「あァ?」
「あァ?じゃないわよバッカじゃないの?! なんでこのタイミングでそんな⋯⋯というかどういう意味で言ってんの?! ハァッ!?わ、わわ、訳分かんないんですけど!? 意味分かんない!死ね!馬鹿!変態!」
「⋯⋯⋯⋯」
見ろよシュラの顔、真っ赤じゃん。めっちゃうろたえてんじゃん。いやシュラの反応は当然だよ。急に俺のもの宣言されたら誰だってそうなるわ。
でも運が良かったな。美少女とはいえ気の強いライバル枠。下手すれば剣の錆びにされてたところだよこれ。
「ヒイロ」
「んだよ」
「君は周りの目と⋯⋯乙女心とやらも気にした方が良いと思うよ」
「⋯⋯うるせえ、畜生」
ただ、心底呆れたようなクオリオの忠告には、強く出れない。
乙女心か。乙女心ねえ。秋の空とも言うけれど、季節はそろそろ夏の入り口が見える頃だ。
コバルトブルーの上空。
道のように広がる入道雲が、なにかの始まりを予感させていた。
「ヒイロの馬鹿!ばかっ、ばか!ばーか!」
「⋯⋯」(⋯⋯)
あと、意外なことが一点発覚した。
シュラの罵声って、意外とボキャブラリーが少ない。
え?クソどうでもいいって?
⋯⋯ひぇん。
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