030 真っ白に燃え尽きたぜ、色んな意味で

 はぁ。やっべーよ。情報量が一気に増えたんですけど。

 つまり赤の魔素が多いフィールドだと赤が強くなって、青が弱くなる。青が多いフィールドなら青が強くなって赤が弱くなる、って事? あ、違う、緑が弱くなるのか。

 ううむ。なんかややこしい。

 脳みそから煙出ちまいそう。てか出てるよきっと。シュポーつってるし。俺これ大丈夫か?


(⋯⋯ま、まぁ、なんとかなるっしょ)


 い、良いし。俺は実戦の中で理解してく派だし。

 大丈夫だ問題ない。主人公は狼狽うろたえない。


「少し不安は残るが、まあ良いだろう。では座学は一旦区切って、実技と行こうか」

「! っ、遂に俺も魔術を使えんだな!」

「待て待て、そう逸るな。何事も段階が必要だ。魔術を扱うなら、まずは使用者の適正属性を判別させる方が先だよ」

「適正属性?」

「そうだ。人間ないし生物は大抵、四原色の中でどれか一つに適正属性パーソナルカラーを持ってる。僕の場合は緑の魔素、といったようにね。特別な才能が無い限り、複数の属性魔術を用いることは人間には不可能なんだよ」

「んだと。待て、じゃあ、自分の属性を知ってねぇとそもそも話にならねーんじゃ⋯⋯」


 ど、どうしよう。魔術をそもそも使ったことない俺が、自分の適切属性なんて分かりっこないし。くう、こんなことならあの時君、女神様に記憶引き継ぎでよろしくくらい言っときゃ良かった。


「そういうことだ。だから僕は君の適正属性を確認したんだが⋯⋯まさか色別の儀をすっぽかしたとはね。頭が痛いよ」

「す、すっぽかしてねぇよ! 忘れちまっただけだ」

「僕からしたら同じだよ。でもまぁ、安心していい。適正属性を知る方法は、何も色別の儀だけに限った訳じゃあないのさ」

「なにっ」


 またも問題発生かと思えば、我に秘策ありとばかりにクオリオの眼鏡がきらりと光った。

 おいおいどうしたよこいつ。かつてない頼もしさじゃあないか。

 俺の純度100%な期待の眼差しに応えるべく、誇らしげな顔で懐をまさぐるクオリオが取り出したのは、なんと。


「⋯⋯金色の、林檎?」

「アンブロシアさ。かじればたちどころに魔素を補充出来る果汁を有した貴重品なのは君も知っているだろうが、実は簡易の色別にも使えるんだ」

「かじるだけで、か?」

「そうとも。アンブロシアの果汁は、触れた物質の魔素と共鳴して性質を変化し、色素を変える特殊性がある。この場合共鳴するのは唾液とだな。だから齧った断面の色彩が、個人の保有する魔素のカラーを表してくれるという訳だよ。そう、そもそも万物に宿るとされている魔素だが、物質状態の中でも一番相性と良いとされるのが液体なんだ。これは四十年前、アスガルダムの学術者マルドゥック・ガーデンが提唱した魔素観測論における一つの実験が立証した内容であり、今日に至るまで有力とされてる学説で─────」

「あァ〜⋯⋯つまり、齧って断面の色を見ればいいんだな。よし、寄越せ」


 すかさずインターセプトである。だって止めないと日が暮れるまで語り続けかねんし、仕方ないよねー。

 若干不貞腐れ気味にクオリオが投げ寄越した林檎をキャッチし、善は急げとばかりに齧りついた。

 そんで、秒で後悔した。


「はぐっ⋯⋯⋯⋯」(⋯⋯うわっ、味シブっっっ!!)


 尋常じゃない渋味だった。

 食感は良い。しゃくしゃくした歯応えはまさに林檎の瑞々しさを感じさせる。でもくっそ渋い。

 良薬口に苦し、って奴なのかもしれんけどこれヤバいって。

 舌の上に広がる渋みに悶絶していれば、さもその反応が見たかった、とばかりにニヤけるクオリオの顔が目に入った。


「くく、一気にいったな。酷い顔になってるぞ」

「テメ、知ってたんなら先に言いやがれ⋯⋯ぐえっ」

「ははは。ほら、いつまでも悶えてないで、断面を見てみなよ」


 確信犯かよ。こいつめ、後で一発殴ってやる。

 がしかし、今は恨み辛みよりも色別の結果が大事だ。 

 ここはやはり情熱の赤か。いやいやクール系っぽい青も良き。緑と黄色は戦隊ものだと目立たないからパスしたい。

 そんな我欲たっぷりな期待を込めて見つめた、黄金林檎の断面は。


(⋯⋯えっ)


 驚きの白さだった。

 普通の林檎なら食欲だらりな『真っ白』だった。

 うん、どういうことだってばよ。


「色、変わってなくねえか?」

「⋯⋯い、いや。まさか、そうか。変わっていない、ということは君の得意属性は⋯⋯『白』という事か」

(なにぃ!? ここに来て四原色じゃないカラーだとぅ!)


 四原色の前振りはなんだったのか。

 いやしかし待て落ち着け熱海 憧。

 逆に考えてみよう。これ、逆に特別な能力では?

 主人公の能力で、枠に嵌まらないオンリーワンなんて腐るほどある。いやむしろ、オンリーワン属性とか主人公にとっちゃ王道だろう。

 クオリオも目を見開くほどに驚いてるし。

 マジか⋯⋯マジか!


「で! 白属性は一体何が出来んだ? もったいぶらずに教えやがれ!」(回復とか呪い解除か、それとも聖魔法とかか!)


 押し黙るクオリオを急かしながらも、俺は期待に胸をモーターエンジンばりに弾ませていた。

 赤が炎、青が水とくれば、白は色合い的に光だろうか。光といえば光線。つまりビーム。

 ビーム! 何それ浪漫が溢れてとまんない。

 いやちょっと捻って光の剣とか? それもありだ。まさに騎士ってジョブにぴったりじゃんか!

 魔術師ヒイロ物語、いよいよはじまったかに⋯⋯思えたが。


「あ、あぁ。白属性は、だな」

「おゥ」

「⋯⋯し、強いて言うなら」

「おぉ!」

「⋯⋯⋯⋯汎用、かな」

「おぉ! おォォ!!⋯⋯⋯⋯あァ? ハンヨー?」


 汎用。ほう。汎用ねえ。

 汎用ってなにそれ美味しいの。


「うん。その、魔術師なら割と誰でも使える属性というか。あー、うん。ぶっちゃけるとだな⋯⋯⋯⋯

 ヒイロ。君に、魔術師の才能は無いのかもしれない」



 心苦しそうに告げるクオリオの、アンブロシアをニ、三口齧ったような渋面が、それはもう物語っていた。


 残念ながら、俺の属性は。

 『ハズレ』だと。






「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯泣きてぇ」

「!?」


 えー。拝啓女神様へ。

 主人公生活始まって一ヶ月を過ぎましたが、そろそろ俺、挫けそうです。



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