祝!書籍化決定!【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~
歌うたい
001 主人公志望、モブに憑依転生
『ヒーローに憧れたきっかけはなんですか?』
仮にそんな風にマイクを向けられたとしても、多分俺は応えられないんだろう。
だって思い出せないし。
そもそもいつから憧れてたのかだって分からない。
物心ついた時は、多分もうそういう風になっていた。
怪人を倒す仮面のヒーローは良い。
怪獣を倒す巨人のヒーローも良い。
剣を片手に鎧を纏い、魔物を倒す王道の主人公なんて格別だ。
漫画に小説、テレビに映画。いたる架空に星の数ほど居る
産まれてこのかた十八年間、ずぅっとその星のひとつになる事を夢見ていたんだ。
だから、まぁ。
二月の第四週末。人通りの少ない街角で。
泣いてる女の子の代わりに、暴漢のナイフから身を
そんな最期も、悪くないんじゃないかと思っていたんだけど。
「手違い?」
「誠に申し訳ありません!」
死んだと思って目が覚めたら、宇宙空間っぽいところに投げ出されて。
あの世ってこんな場所なのかとぼけーっと漂ってたら、女神みたいな格好をした美人と、神官っぽい格好をした美人が現れて。
急に土下座かまされて。貴方が死んだのは、手違いだったんですなんて風に畳掛けられれば。
俺こと
「あの。とりあえず頭上げてもらっていいっすか? えーと⋯⋯」
「これは失礼しました。私、運命の神ノルンと申す者です」
「ご、ご丁寧にどうも。んで話を整理すると⋯⋯俺、本当は死なない予定だったんです?」
「その通りです。だったんですけど⋯⋯実はですね。こちらをご覧下さい」
「金色の糸?」
神官から差し出されたのは、高級そうな青い布の上で眩く輝く金色の糸だった。
綺麗な金色。純金の輝きってよりも、青い海に架かる光の橋みたいな神秘的なまばゆさだ。なんか真っ二つになってるけど。
しかし、これがなんだって言うんだろう。
「真っ二つになっていますでしょう」
「なってますね」
「私がやったんです」
「お前がやったのか……って、はい?どゆこと?」
「で、ですから、貴方の運命の糸が綺麗で、こう、翳してたらですね。爪が引っかかってプツンっと⋯⋯」
「えー」
なんてことだ。
暇を持て余した神々の遊びで、俺死んじゃったのか。
手違いってそういう事かい。
でもなんていうか、正直ピンと来ない。リアリティが無さすぎて。怒るべき場面なんだろうけど。
それに目に見えてしょぼくれてる女神に追い打ちをかけるなんて、趣味じゃないし。
「ともかくお詫びです!」
「お詫びっすか」
「はい! ワビサビじゃないです!」
「分かってますけど」
「でもワサビは凄くツンと来ますよね。似てるのに似てない」
「まあ分かりますけど」
「アワビはあんなに美味しいのに!」
「話進めてもらっていいすか」
なんか言動も行動も破天荒だなこの女神様。
会話のハンドルの切り方が急すぎんだろ。
「そんで、お詫びってなんすか?」
「はい! 私の権能を使って、貴方の次なる生を貴方の望むようにして差し上げます!」
「え。望むようにって、なんでも?」
「望む形であれば、如何様にも。あ、やっぱり男性ですから異性からモテモテになりたいとか、巷で流行りのチート能力持って無双だったり、領主として領土経営だったり、美少女とゆっくりまったりスローライフだったりとかでしょうかね?」
「……そんなもん、決まってる」
貴方の願いを叶えましょう、なんて。
望む通りの生き方。描いた理想がそのままに。
そんなことを熱海 憧に告げたのなら、願いはひとつに決まっている。
産まれてこのかた十八年間、ずぅっと夢見ていたんだから。
「俺は⋯⋯⋯⋯ヒーローに成りたい!」
「え。ひ、ひーろー、ですか?」
「そうっす、ヒーローっす! ああなんて甘美で胸が熱くなる響きかっ! 1にヒーロー2にヒーロー、34がなくても5にヒーロー!! 他はどうでも良いからっ! "ヒーローって名乗っても胸を張れる人生"でおなしゃっす!!!」
「は、はぁ。そうですかぁ」
それはもう土下座せんばかりの勢いでお願いした。
十八年間、画面の向こうのヒーロー達に負けじと努力は詰んでも機会には恵まれなかったんだ。
だからこそこの好機、細かい事は無視してでも掴み取りたい。
「変わったタイプの御方ですね」
「そうっすか? 男なら誰しも持ってる願望ですけど」
「そうかなぁ」
「そうなんっす!」
でも何故か女神様はいまいち微妙な顔をしていた。
全然ピンと来てない困惑フェイスである。
解せぬ。やっぱりヒーロー願望は女性からしたらあんまり理解出来ないもんなのか。
「分かりました。では少しお待ちを」
けれども吐いた唾を飲む事はしないでくれるらしい。
神官が懐から取り出した広辞苑並に分厚い本を受け取ると、ぶつぶつ呟きながらペラペラとページを捲っていた。
「えぇと、ひーろー。ひーろー。ひーろ。ひぃろぉ、っと⋯⋯あ、ありました」
「おぉっ!」
「なんて嬉しそうな目⋯⋯本当に変わった人ですね。けれど良いでしょう。それでは貴方の次なる生に導いて差し上げますね」
「それって巷で噂の転生ってやつっすか!」
「あ、いえ。転生とは少し違います。生まれ変わるわけじゃないですし。転移とも異なります。魂だけがすっぽり器にインするわけですから⋯⋯憑依、が一番相応しい表現なんじゃないでしょうか」
「そっすか! よく分かんないけどヒーローならなんでもいいです!」
「はぁ。露骨にテンション違いますねあなた。でも喜んで貰えるなら何よりです。あ、あと、今なら女神ノルンの副官として神様の側でスローライフなんてのも⋯⋯」
「ヒーローじゃないなら結構っす! お構いなくぅ!」
「ぐすん」
なんかテンションのままに喋ってたら女神様が涙ぐんでるけど、どしたんだろう。
目に埃でも入ったのか。神様のお膝元にも埃って舞うんだなー。
「では、これより貴方の望みを叶えます。動かずに、じっとしていてくださいね?」
「うっす! 微動だにしませんからお構いなく!」
「ふふ、分かりました。それでは──」
いよいよって事らしい。
緊張気味の俺にくすぐったそうに微笑み一つ零すと、女神はゆっくりと指揮者のように指を一本翳した。
「運命の女神、ノルンが権能を今ここに。
星霜満ちて、悠久を越え、空へと譲られし魂よ。
汝が次なる星の軌跡は⋯⋯灼炎焦がす、黄昏の向こう。
眠らぬ魂の灯火よ────『ヒイロ・メリファー』の器に灯れ」
宙を橙色に光る爪が、軌跡をなぞる。
荘厳で壮大な詩を彼女が紡ぐ度に、なぞった軌跡が青白く浮かび上がって、星座の様に連なる。
連なった青い光のラインが、灯れの一言と同時に──生き物のように俺の身体にまとわりついた。
「っ、お、おぉ⋯⋯身体が、光って⋯⋯」
「準備が整ったということです。まもなく貴方は行くでしょう。剣と魔法と神話と神秘の世界へと」
「露骨にテンション変わったっすね」
「もう! 最後くらい締めときたかったんですっ。私、これでも運命の女神なんですからっ」
指先から光の粒子へと変わっていく俺の身体。
肌で感じる。本当に今から、何かが始まるんだ。
夢見たヒーローに、憧れ続けた主人公になる為の物語を、始めるんだ。
「まもなく、か。じゃあ、最後に一つ聞いておきたい事があるんすけど」
「あ、はい。なんでしょう?」
だからって訳じゃないけど。
最後に、心残りを無くしておきたかったから。
「俺の最期⋯⋯少しは『主人公』っぽかったですかね?」
「⋯⋯⋯⋯」
ヒーローのように、誰かの涙を止める事は出来なかったけども。
いつからか憧れた何かに、少しは近付けたんだろうかって思うから。
「──はい。確かに。貴方は紛れもなく主人公でしたよ」
「うん。なら、良かったっす!」
視界を埋め尽くしていく光にあやされて。
俺は眠るように、目を閉じた。
「貴方の旅路に幸あらんことを──」
◆
「ふぅ。一時はどうなることかと思いましたが、なんとか丸く収まりましたねぇ」
「ノルン様」
「んぇ? なんですか。貴女が自分から話しかけて来るなんて珍しい⋯⋯」
「いえ、彼の次の人生についてですけどね。ノルン様は何か勘違いをしてませんか?」
「勘違い、ですか? それはないでしょう。あんなに『ヒイロ』という名前のキャラクターになりたいって仰ってたじゃないですか」
「⋯⋯あの」
「本当に変わった御方ですよね。ヒイロって名前に相当なこだわりがあるんでしょうか。人生目録で探してみましたけど、なかなかそれらしい名前がなかったので。もし見つからなかったらどうしようかと」
「あの、女神ノルン様」
「どうしました?」
「彼が望んだ人生って、ヒイロって名前の人生じゃなくて⋯⋯ヒーロー。つまり英雄とか勇者とか、そういう主人公みたいな人生を送りたいって事なんじゃありませんか?」
「…………えっ、嘘。え、ヒーロー? しゅ、主人公!? あ、あのあのその⋯⋯彼の次の人生、主人公どころか、悪人寄りのモブキャラなんですがそれは」
「⋯⋯しかも、よりにもよって現実世界じゃ『鬱RPGゲーム殿堂入り』として名高いあの世界ですよね。またすぐ死んじゃいますよ、彼」
「えぇぇぇぇ!!! どどど、どうしましょう……!」
「どうにもなりませんよ、もう」
「そんなぁぁ〜〜〜!!!」
こうして新生ヒイロは誕生した。
尚、ヒーローではない模様。
.
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