第6話 茶



 

「相も変わらず臭いな、おまえは」

「相も変わらずおこちゃまだな、そなたは」


 親父、悲しみ。

 吸血鬼に認知されず。

 娘にしか興味がないのは変わらず。

 毎年毎年毎年。

 親父、蚊帳の外。

 けれど親父、めげない。

 かぼちゃの前に立っておじいさんの、少年の家のかぼちゃの味を守る。


 う。

 娘と吸血鬼が激しく刃と鎌を交じらせる度に、濃い匂いが部屋に漂う。

 くう。

 めげて膝が床に着きそうだ。

 無様に両の手を床に着けそうだ。

 いや、だめだ。だめだめ。

 口を閉めるの親父。

 呼吸を止めるの親父。

 吸血鬼の匂いに負けてはだめ。


 だめ、なのに。


 抗えなくなりそう、だ。

 吸血鬼の。

 香ばしい珈琲の匂い、が。

 親父の、理性を、何百枚もの薄紙に変えて、一枚、また、一枚と、やわらかく、優しく、こそばゆく剝いで行く。


 かぼちゃの洋菓子への欲求を、抑えなく、させる。


 見るな。

 見るな見るな見るな。

 匂いに誘惑されて吸血鬼の充血したあの妖しい目を。

 あの目を、見てしまった、ら。











(2022.10.19)


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