第5話 紫
台所に置いてあったかぼちゃのどら焼きを二個、緑茶の小さいペットボトルを二本お盆に乗せて、事務所兼じいちゃんの部屋に戻ってみると、娘さんと親父さんの姿が消えていた。
まさかの夢オチか。
お盆を長いテーブルに置いてその後ろのソファに座り、ふと、監視カメラで撮っているリアルタイムのかぼちゃの保管室の映像を見ると、刀を構えている娘さんと親父さんが居たのでとりあえず現実だったらしい。
死神なのに鎌じゃないんだまあ着物だったしなあ黒の。
包装紙を破いてめくりかぼちゃのどら焼きにかぶりつくと、かぼちゃの味が一気に口の中に広がった。
生地も白餡にもかぼちゃが練り込んでいるし、白餡の中にも焼きかぼちゃの大きな一切れが入っているのだ。
美味い。
うんと深く頷いて緑茶のペットボトルに手を伸ばし一口含む。
やっぱり熱い緑茶がよかったかな濃い緑茶で美味いけど。
まったりもくもくと食べて飲んでを繰り返して有難く頂戴すると、かぼちゃのどら焼きの美味しさに気を取られて、一応見てはいたがまったく頭に入っていなかった映像を意識して見てみると。
「無事にうちのかぼちゃの味を守ってくれよ」
外が黒で内が濃い紫の長いマントをすごいはためかせて、長い鎌を構えている吸血鬼(だろうと思う)と向かい合っている娘さんと親父さんが居た。
「そんで怪我をしないでくれよ」
これが現実でも夢でもうちのかぼちゃを守って怪我をされたんじゃ、目覚めが悪い。
(2022.10.19)
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