第5話
むかし
線路沿いの道路で事故があった
死んだのは少女
忘れ物を取りに家へ帰った
部屋に置き忘れていた
それを持って学校へ向かった
車で出勤する父親が送ろうかと聞いた
少女は断った
「走れば追いつく」と
坂道を走って追いかけて行けば
学校前で集団登校の列に間に合う
いつもの通学路
変わらない日常
いつもと違うのは『忘れ物』
少女は坂道を駆け下りた
坂道で勢いがついていた
もうすぐ坂を
そこの角を曲がれば
数十メートル先に列の最後尾が見える
勢いがついていた少女は
曲がるときに
歩道から大きく飛び出してしまった
そこには歩行者用信号がある
しかしそれは赤信号だった
車は青信号で走ってきた
少女は車道に大きくはみ出し
その車に自ら飛び込む形になった
車のブレーキは間に合わなかった
誰が坂道を駆け下りて
赤信号を飛び出すと思うか
それも嬉しそうに笑いながら
その笑顔は
「もうすぐ追いつく」という
嬉しさからだったのか
少女は死んだ
少女が忘れたのは
なんだったのか
それは生命より
大切なものだったのか
しかし少女は
集団登校の列には
二度と追いつけない
*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:.
少女が死んだ
その少女は坂で遊んでいた
ブレーキのついていないその道具
横に倒れるだけで良かった
尻もちをつけば助かった
プロテクターをつけていないから
ケガをしただろう
それでも
痛い思いをするだけだ
しかし
少女は何も考えられなかった
その先に線路がある
その手前にフェンスがある
痛いけど
それにぶつかれば助かるはずだ
しかし
少女は死んだ
少女から見えていた
トラックが
線路に沿って走る道を
走ってきたことに
少女は死んだ
トラックの側面に
全身をたたきつけて
坂で速度のついた
ブレーキのない道具に乗った少女
制限速度と同じスピードがついた道具に乗って
自分に少しずつ近付くトラックに気付いて
少女は何を思ったのか
諦めたのか
少女は悲鳴をあげていない
ブレーキのない道具に乗った少女
彼女は
死を受けいれていたのか
それは誰も分からない
*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:.
二人の少女
線路沿いの道路に合流する坂で起きた二つの事故
ひとりは
坂道で遊ばないよう
注意書きされた乗り物であそんでいた
なぜ禁止されているのか
少女は分からなかったのか
家族は
なぜ止めなかったのか
一緒に遊んでいた子たちがいた
なぜ誰も……
ひとりは
忘れ物をした
分岐点はあった
忘れ物を取りに帰ったのは
正しかったのだろうか
集団登校の班に
待っていてもらったら?
父親の言葉を聞いて
車で送って貰っていたら?
《たら・れば》など今さらだ
現実に少女たちは死んだのだから
少女たちの生命を
奪うことになった運転手に
罪はあるのか?
運転手たちに
罪を問えるものはいるか?
どちらも
青信号を走っていただけだ
思いもしないだろう
分岐を間違えた人生を修正するためのブレーキは
この世に存在しない
出来ることといえば
立ち止まって周囲を見渡すことだけだ
「赤信号だ、止まろう」
「坂道で遊ぶとジェットコースターみたいで面白い。だけどブレーキがついてないから、坂道で遊ばないで公園に行こう」
この分岐点に気づいていれば……
また
そうしたら
少女たちが家族や愛しい人の隣で笑っていた未来もあったのだろう。
✨✨✨✨✨✨✨✨✨
知っている道で起きた死亡事故
違う場所の似た道で起きた事故
同じだったのは少女の死
一瞬の過ち
永遠の後悔
後悔したのは
少女
家族
運転手
いったい…………だあれ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。