終末学園ヴィヴィアンガールズ -月下の見送り編-

長山春子

第1話 記憶融合炉サーバー

「終末学園」


現実で生きていることがバカらしくなり

夢に浸り続けることが当たり前になった世界


学校はすべてアバターが通い

誰もが引きこもっている

そのアバターもほとんどがAIが通う


世界中が無気力に陥っており

コールドスリープで長い冬眠をしている


そのため

「現実世界で生きてる時間を極限まで削り」

「夢の中で幸せな世界で遊び続けることで」

みんな低燃費の人生を歩んでいる


現実世界を生きている人間が誰もいなくなった廃墟と化したゴーストタウン


そしてあらゆるものがコールドスリープに凍結された地球は終末世界と呼ばれた


そんな中で仮想世界の学校は

無気力な寝たきり人類が通うので


終末医療での通信制学校が略されて

「終末学園」と呼ぶ


歴史の授業はそんな感じだが

誰も外の世界に興味がないため

机の上でマンガをペラペラと読んだり

ゲーム機をポチポチしたり

バリバリボリボリお菓子を食べたり


「パンパンパンパン…うるさいなぁ」


ある一部の学生は、不純交遊してたりする、ふじゅんせいこうゆう?だっけ、わからないけど、まあそんなこと知っても意味ない、どうでもいい、何もかもどうでもいい


食糧も燃料も医療も何もない

そんな中で人類が生きる方法が

極力寿命を使わない「省エネ生命活動」だ

略して省活


終末学園の校訓は

「学ばす考えず働かず」

ずっと眠りにつけば寿命は進まずに済むし

外の世界ではみんなコールドスリープで眠ってるから

家族とか学校とか会社とかいらないし

みんな頭の中の夢世界を共有して省エネ生活をしてる

あとは外部のシステムが栄養補給や延命措置になんとかしてくれるからだ


このシステムを科学の授業では

記憶融合炉サーバーって言われてて

それが壊れたら夢世界も終わりらしい

現実世界はもう終わってるけど


頭の良い子が教えてくれた

MMORPGゲームの例えで

「私たちのアカウントを保存してる鯖が

事故や災害でサーバーダウンしたら

その時点でこの世界はサ終になるらしい」


でも

私はこんな世界がどうでもよく

死にたいので

その機械を壊してみたい

と思ってたりする


誰か誘って

外の世界にログアウトして

一緒に壊せないか

と私は心の中で思うだけで

なにもしないが


そもそも

そう思う人が居ないのは

この無気力な夢世界では

みんなそんなことをしてまで

生き急ぐ必要がないからだ


すべては机上の空論

そんなマンガや映画でも探して

想像上のキッズウォーを楽しむしかない


終末学園の授業が終わると

私たちは遊んだりする

けど

実際にはアバターのAIが代わりに授業に行ってるだけで出席扱いになるし


先生も仮アカウントを使ってるから、たぶん私たちのことなんてどうでもいいんだろう

駅前の車掌も仮アカウントだし、でもそんなもんでも成り立つから

もう誰も働いてすらない

そこから降りた先の家にある

私の親もAIで

みんなは引きこもっていて

夢を見ることで24時間を終える

普段なにしてんだろう

わかんない


とにかく腹が減ったから

レトルトカレーを買おう

コンビニでバイトしてる店員もAIだ


でも

料金を支払うのは外の世界の名残らしい

カードをかざすとピッと鳴って支払われる

このお金は両親の仮アカウントが

働いたものでまかわれてるけど


両親の本アカウントは引きこもってる

その両親の代わりに働くAIが代わりに稼いでるわけだ

今日も不労所得で、ごちそうさまです


私の仮アカウントは部屋にいるけど、私のだけは調子悪くて、引きこもってゲームをしたり本を読んでる、なんで私のだけは働いてすらないんだろう、まあどうでもいいか


私の名前はマリア

引きこもってる子はマドカっていう

もしかしてわたしがAIで

彼女が本アカウントかもね


でもそんなことはどうでもいいの

いつかこの世界のサーバーが壊れるといい

マドカがそう思ってるから

それだけが私の心配だ


「あの子、今日もベランダにいる」


「              」


空から女の子が

マンションから落ちてきた

目が合う

今日も私のマドカは飛び降りたみたい

路上が血だらけだ


「ただいま、わたし」


「        」


夢の中でいくら死のうとしても

部屋にリスポーンする

マドカの話し相手にならないと

あの子は考えることをするから絶望する

無気力にゲームでもして

本でも読んでなさいって教えてるのに


考えず学ばす働かず


そうしないとこんな終わった世界を生きるのがバカらしくなり

意味もなく生き続けることに

耐えられないのだ


マリアの日記 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「月下の見送り」

XX04年6月23日未明 終末学園から帰宅途中

月が血だまりを照らしている

空から落ちてきた

もう一人の自分の死に際を見送っている

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


メイド服を着た金髪の女性が

空から落ちてきた女の子の亡骸を抱いて

マンションの階段を上がった


買い物袋と女の子をどさっと置いて

鍋にお湯を入れて

カレーをグツグツと煮込み始めた


「カレー食べよう」


「       」


あの子は裸で部屋のなかに座ってる

暖かいご飯を食べさせて風呂に入らせて髪をほぐして眠らせないと

また死のうと考える


「今日は金曜ロードショーだよ」


「             」


「今日はもう寝よう、おやすみ」


「             」


「なに?」


「……(おの韻の口)」


「聞こえない」


「………(いの韻の口)」


「もう眠ろう」


「……………(えの韻の口)」


パクパク口を動かしてる

可愛いけど

この子はもう殺してあげた方がいいかも

そう思うから私はこの子の代わりに

外の世界に行って

壊してみたいと思ってたりする


記憶融合炉サーバー


それを壊せば

この無気力から抜け出せる


明日学校で誘ってみよう

あの賢い子なら

この話

乗ってくれるかもしれない


続く




メイド服を着た金髪の女性マリア

普段はマドカのアバターとして学校に通う

無気力になってしまった主人を殺すのが彼女の夢

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終末学園ヴィヴィアンガールズ -月下の見送り編- 長山春子 @mtkiki

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