Sさんの場合

第1話 入会を決意するまで

 私は令和4年5月19日、クラウドワークス内で『【文字単価5円以上継続依頼あり】Webライターのお仕事を探されている方』という募集を見かけ、さっそく応募しました。

 クラウドワークス内で自己紹介をして、求人担当者のI氏からステップ通過を伝えられたのが翌日の5月20日です。書類審査を行いたいと言われ、すぐにアンケートに回答しました。

 その日のうちにI氏から「アンケートに通過したため、次のステップのWeb面談をしたい」と案内があり22日に予約を取りました。翌21日にも「明日の面談はよろしくお願いします」とメッセージが。

 とてもこまめに連絡をくれる人だな、と思いました。


 担当のI氏は清潔感があって、はきはきとわかりやすい説明をする人でした。そのためスクールも経営が安定しているように感じたのです。この時は関連会社Cの名前は出なかったので、私はすっかりI氏がスクールを運営するM社の人間だと思っていました。そしてI氏の第一印象をそのままスクールの印象につなげてしまったのです。

 スクールが廃業した後になって、彼がC社の人間ではないかと疑うようなできごとがありました。しかしそれはまた後でお話しすることにして、今は時系列に沿ってお話しすることにします。


 5月22日にZoomにて面談。次のような内容の説明を受けました。


・12回の講座を受ければ、必ずあなたと業務委託契約を結びます

・あなたは卒業後にフォローアップ代金月33000円を株式会社諸花に振り込むことで月30本の案件を必ず受注できます

・本数は30本以下であれば、好きなように決めていただいて構いません

・ジャンルは様々ですが、たくさんの案件がありますので内容が専門的過ぎて書けないことはありません

・ほとんどの受講生が満額のお給料をもらうために、月に30本書いております

・最低でも記事1本あたり15000円で書いていただきます

・中抜きをせず、依頼された案件をそのまま受講者さんに渡すことで、高単価が実現できるのです

・1記事15000円ですので、スクール代金275000円を考慮しても20本書けばスクール代よりもおつりがきます

・講座の後半第6回目から12回目は、金額は変動するのですが講座内で書いた記事をでスクールが取引先に売りますので、7万円から9万円は講座を受けていただくだけで回収できます

・全12回の講座の内容説明


 面談を受けながら、私はとても魅力的なお話だと感じました。それでも、どうしても気になることがいくつか。


 まず、きちんと契約を結んでもらえるのか不安でした。そこで、業務を委託してもらえる契約書をこの面談中に見せてほしいとお願いしました。

 I氏はその場で誰かに確認して、面談後に連絡すると約束。しかし、面談後に「業務委託契約書は同業他社による情報引き抜き等のリスク観点から、お見せできません」と断られてしまいました。今から思えばここで疑問を抱くべきでした。

 にもかかわらず、私は「弊社概要と顧問弁護士事務所をお送りするので安心材料の一つになれば」と説明をいただき、「顧問弁護士もついているなら大丈夫だろう」と考え、きちんとしたスクールだと思ってしまいました。


 次に気になったのは個人事業主としての開業の手続きについて。


「ライターでそれだけのお給料がもらえると、個人事業主になるのですよね?個人事業主になったことがないので手続等わからないのですが、相談に乗ってもらえますか?」


「もちろんです!! Y氏が講師をやることもあり、スクールを卒業して初めて個人事業主になる方も多いのでそうした相談にも答えさせていただいております」


 正直、30万円近い受講料は高額で、そうそう簡単に支払えるものではありません。それでも回収できるだけの仕事をくれるというので、これも必要経費だと思ったのです。

 そしてI氏の力強い言葉にも後押しされ、問題のある勧誘だったことに気付かぬまま、すぐに入会の意志を伝えてしまったのです。


※ ※ ※


ディディ「いつも応援、ご愛読ありがとうございます。ディディことクラウディオ・ケラヴノスです」

エリィ 「エリィことエルネスト・タシトゥルヌだ。我々の登場する『お飾りの私を愛することのなかった貴方と、不器用な貴方を見ることのなかった私』もよろしく頼む」

ディディ「さて、今回はこの勧誘のどこに問題があるのかお話しします」

エリィ 「まず、最初にクラウドソーシングサイトで求人広告を見て、業者に連絡を取ったとあるな」

ディディ「うん。求人広告に応募したのに、実際にはスクールの勧誘だったんだよね」

エリィ 「業務委託契約を結ぶ条件として有料のスクールを受講したり、登録料を払うのは特定商取引法(以後、特商法)に定める『業務提供誘引販売取引』に該当するな」

ディディ「だったら、最初に『有料スクールの勧誘です。卒業すれば月額制の有料オプション契約で業務委託契約を結ぶ権利を買えます』って言わなきゃダメだよね」

エリィ 「ああ。特商法第52条第3項で禁じている『勧誘目的を告げない誘引方法』に該当するな」

ディディ「それじゃ、違法な取引なんだね。すぐに警察に届け出た方が良くない?」

エリィ 「いや、この段階だと消費生活センターやフリーランス110番の方が良いだろう」

ディディ「でも法律違反なんでしょ? だったら犯罪じゃないの?」

エリィ 「特商法第52条は行政規制だ。刑法ではないので、違反したからと言ってすぐに刑事罰の対象になるわけではない」

ディディ「なるほど、だからまず消費生活センターに相談して行政処分を下してもらったり、フリーランス110番で弁護士さんに相談して契約の無効を申し立てるべきなんだね」

エリィ 「そういう事だな。やれやれ、これからどうなることやら」

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