第24話 私ね、相談に乗ってほしいことがあるの

 春風浩紀はるかぜ/ひろきは、夏芽先輩と別れ、岐路についていた。


 まだ、午後二時を過ぎた頃合い。

 日差しは強く、普通に明るかった。


 七月ということも相まって、気温は暑く、クーラーの聞いていた喫茶店を後にしてからは少々体が怠く感じる。


 早く自宅に戻りたいと思い、ひたすら道端を歩き続けるのだ。




「……午前中はそんなに暑くなかったのに、どうして、こんな急に」


 どこかコンビニでアイスでも買ってから帰ろうと思う。

 少し歩いた先に、一軒のコンビニの看板が視界に入る。

 怠かったが、少々早歩きで移動し、店内に入った。


 コンビニ内に足を踏み入れた瞬間、生き返ったかのように、体が楽になったのだ。

 クーラーの涼しさを感じ、少しばかり店内を歩く。


 すぐ近くに、アイスが売っている場所があり、その中を覗き込んだ。


 友奈にも買っていった方がいいかな?

 妹の友奈のことを思い返すと、裸エプロンのことが脳裏をよぎり、気まずくなった。


 けど、友奈も、この暑さで少々疲れ、ああいった言動をしたのだろうと、自分の中で勝手に解釈したのだ。


 これにするか。


 浩紀は、板チョコが間に挟まった感じのアイスを二つほど手に取る。

 ほかに購入するものなどはなく、浩紀は早く会計を済ませようと思い、レジへと向かった。


 すると、その途中、見覚えのある印象をした女性が視界に入ったのだ。


 ……橋本先生?


 一瞬、見間違いかと思った。

 まさか、橋本美玖はしもと/みく先生と、コンビニで遭遇するとは想像もしていなかったからだ。


「……あれ、浩紀君?」

「み、美玖先生ですよね?」

「ええ。そうよ、浩紀君は、どこかに行ってきた帰りなの?」

「まあ、はい、そうですね」


 浩紀は返答したが、先生の様子はちょっとおかしかった。

 暗い表情で、何かについて悩んでいるような面影がある。


 普段なら、前向きで明るい感じの雰囲気があるのだが、今日に限っては何かが違う。


「どうしたんですかね?」

「……なんでもないわ。ちょっと、悩み事」

「悩み事……先生も色々と大変ですね」

「そういうものなのよ」

「先生が悩むということは、学校での出来事ですか?」

「……違うわ」


 学校ごとではない。

 では、一体?


 先生の態度に違和感を覚え、逆に気になってしまう。

 浩紀は普段から、先生には世話になっているため、何かしらの形で助けてあげたい。

 そんな思いが、一瞬よぎる。


「先生が困っているなら俺、相談には乗りますけど。解決できるかはわかりませんが」

「……だったら、話だけでも聞いてくれる?」

「は、はい」


 浩紀から提案したことだが、まさか、相談に乗ってほしいと返答がくるとは思わず、内心驚いていた。


「俺、ちょっとレジで会計を済ませてきます」


 浩紀は急いで、アイスを購入しておくことにした。


 購入後、美玖先生は、コンビニの入口近くに佇んでいる。


 ここで会話もなんだからということで、先生は乗用車があるところまで案内してくれたのだ。




「入って」


 美玖先生から言われ、彼女の車の助手席に座ることになった。

 浩紀が座り終えると、先生は車のカギをかけたのだ。


「悩みというのは、どんなことなんでしょうか?」

「それは、浩紀君と同じクラスメイトとのことなの」

「クラスメイト?」

「ええ」


 美玖先生は、淡々と話す。

 その表情を見ると、少々雲行きが怪しく感じた。


「真司君のことね」

「真司?」


 浩紀はドキッとした。

 以前、真司は美玖先生のことが好きだと言っていたのだ。

 そのことを思い出し、何かがあったのだと、察したのである。


「私ね、真司君から、直接的に告白されたの」

「告白……」


 真司って、すでに実行に移したのか。


 真司は行動力があるのだと思い、逆に感心してしまう。

 美玖先生が悩んでいるということは、相当なアプローチをされたのだと感じた。


「それで、美玖先生はなんて返答したんですか?」

「まだ、そういうのは無理って。生徒とは付き合えないって返したんだけど。でも、どうしてもってことで、押し切られちゃって」

「そうですか……」


 真司は行動力があるというか、少々強引なのかもしれない。


「後で返答するってことで、一旦話をつけて今日ね。さっき街中から帰ってきたところだったの」

「美玖先生はどう思ってるんですか?」

「それはわからないわ。まだ、答えは出せない感じなの」

「ですよね。急すぎますからね」

「そう、よね。真司君ももっと考えてもいいのにね。他にも、付き合える子は色々といるのに」


 美玖先生は笑って誤魔化しているところがあった。


 でも、本心からして、苦しそうな面影も感じられたのだ。

 そういった気持ちも垣間見れ、浩紀は今、なんて返答すればいいのか悩んでしまう。

 口ごもり、少々押し黙っていた。


「でも、浩紀君に話せただけでも、少し気が楽になった感じよ」

「……でしたら、よかったですが」

「あれ? そういえば、浩紀君って、アイス買っていたわよね?」

「はい」

「相談に乗ってくれたお礼に、家の近くまで送っていくから」


 美玖先生はそう言い、シートベルトをつける。

 浩紀もシートベルトをつけると、そのまま先生は車を運転し始めたのだった。

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