第19話 俺の視界に映る妹は、本当にいつもの妹なのか⁉

 本日の部活が終わったこともあり、制服に着替え終わっていた。

 夏芽雫なつめ/しずく先輩と共に通学路を歩き、岐路につく。


 その間も、先輩はテンションの高さは健在であり、水泳をやった後とは思えないほどだった。


「明日から少しずつ泳ぐ練習にしよっか。浩紀もやっと感覚を取り戻してきたみたいだし。そういうことで、じゃ、また明日ね」

「はい、お疲れさまでした……」


 春風浩紀はるかぜ/ひろきは疲れ切った顔つきで、少々苦笑いを浮かべ、何とか返答をしていた。


 夏芽先輩は本当に体力があるなと思いながら、十字路のところで別れたのだ。


 浩紀は、先輩が走って帰宅する後ろ姿を見ていた。


 見えなくなるまで見た後、浩紀は自宅へと向かって再び歩き出す。




 辺りは少々暗い。

 まだ、六時過ぎくらいであり、そこまで真っ暗な状況ではないのだが、早いところ帰宅したいと思う。


 やはり、今週中は水泳の練習で、体力が大幅に消費しているのだ。


 二年ぶりの本格的な練習。

 そこまでハードではないが、中学二年生のあの頃。部活をやめてから、ずっと勉強だけで生活してきたのである。


 急な運動をすると、体に負担がかかるものだ。


 今日で、活動を始めてから三日目。本日は、木曜日である。


 何となく活動の流れは掴めてきたが、あともう少しだけ時間がかかりそうな気がした。


 それ以上に、来月の水泳大会に間に合うのかは悩みどころである。


 夏芽先輩は大丈夫だと、笑顔で優しく言ってくれていたが、そこが不安であった。




 夏芽先輩と途中で別れ、ようやく自宅前へと到着する。自宅の頭の先が見えてきたことで、浩紀は小走りになった。


 早く夕食を食べたいという思いが強い。

 それから早く休みたいのだ。


 そんなことしか考えられず、勢い任せの行動に出てしまう。


 浩紀は玄関を開け、家の中に入る。

 すると、夕食の美味しそうな匂いが漂ってくるのだ。




「ただいま……」


 少々疲れ気味な口調で言う。


 そんな中、駆け足でやってくる音が聞こえた。

 多分、妹の友奈である。


 そう思い、顔を上げ、その彼女の姿を確認したのだ。


「お兄さん、お帰り。夕食できているけど。私にする?」

「……⁉」


 何事かと思い、浩紀は二度聞きしてしまう。


「だから、私と一緒に――」

「え、あッ、じゃなくて、それ以上はいいからッ」


 浩紀は疲れ切っていたが、妹がこれから話そうとしている内容だけは、何となく察しがついた。

 だから、前もって、友奈の言葉を遮ったのである。


「お兄さん、どうしたの、そんなに慌てて」

「いや、何か、色々と怪しい気がしてさ」

「怪しい? 何がです?」

「俺の勘違い……なのか?」

「多分、勘違いだと思いますよ」

「そうか。だ、だよな……実の妹が、エロいことなんて言うわけ……⁉」


 浩紀は冷静になり、まじまじと瞳に映る友奈の姿を見やる。


 何かがおかしい。

 友奈はいつも通りに狼のイラストがプリントされたエプロンを身に着けているのだが、明らかに違和感があった。


 その答えはすぐにわかる。


 友奈が裸エプロンだという結論に至ったからだ。


「えっと……さ、俺の見間違いだったら、それでいいんだけどさ。友奈って、エプロンしていて……その中は?」

「中だなんて、私、何も着てないです。み、見たいですか?」

「い、いいよ……」


 浩紀は反射的に断った。


 血の繋がった妹の裸エプロンだなんて、誰が考えようものなのだろうか?

 いや、視界に映る妹が今、その状態なのだ。


 まさか、友奈がここまで変態だったとは……。


 浩紀の疲れは変なタイミングで吹き飛ぶ事となった。






「お兄さん、あーんして。お願い」


 こ、これは、本当に友奈なのか……?


 浩紀は戸惑う。


 確かに、昔は友奈ゆうなとは仲が良かった。


 ただ、この頃、関係性が悪かったところはある。

 水泳をやめた時から、友奈から当たりが強かったとか、そういうことはあった。


 けど、今はそういう感じではない。

 仲がいいとか悪いとか、それを凌駕している。


 今、浩紀は食事用のテーブル前の先に座っているわけだが。その右隣にいる友奈が積極的に、箸で摘まんだご飯を口へと届けてくれるのだ。


「お兄さん、早く食べないと、よくないですから。ご飯は温かいうちの方が断然美味しいんですからね」


 友奈の積極性は増すばかり。


 今のところ、友奈は裸エプロンであり、チラッと横目で見るだけでも、妹の純白なおっぱいが視界に入りそうになる。


 おっぱいを拝めるというのは、男性にとっては素晴らしいこと。

 だが、血の繋がった妹となると話は別だと思う。


 さすがに、実妹に興奮なんてしていたら本当の変態である。


「はい、あーんして」

「……ッ」


 浩紀は一応、妹からの行為を受けておくことにした。

 そして、咀嚼する。


 確かに温かい方が美味しい。

 だが、裸エプロンな妹がいることに関しては、まだ、馴染めていない感じである。


「私、お兄さんのために色々としてあげたいの。だから、お兄さんも私のことを意識してね♡」


 ――と、友奈は、浩紀が一瞬口をつけた箸の先端を舐めていた。

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