第43話 双頭巨人と聖女
魔王と使徒の攻防は続き、決め手に欠けるのか派手に動き回っている。岩場が壊れそうでドキドキしていたが、戦場は古代霊廟のある名もなき山の聳えるユーゲシー半島のほうに流れていった。戦いの過ぎ去った今は、眼下に死体が転がるだけで何者もいない。
ここに居ても仕方ないので砦方面に向かったら、魔王も手下も出払っていて砦はもぬけの殻だった。
何処に行ったのだろう。
奇襲されてはと怖気づき、死ぬのは当然いやなのでドロシーに探索させる。どうやら森の中で聖女たちと対峙しているらしい。私はほっと胸をなでおろす。
ドロシーの報告によると聖女ハリエットはしぶとく生きていたようだ。
お供の聖女は狂信者と恐れられているシモーネ、危険人物である。
魔王を倒すにはちょうどいいので、聖女たちを利用して背後から魔王に奇襲をかけることにした。
完ぺきな作戦だ。ソフィーも幾重にも縛り上げ逃げられないようにしたから。
見つかることはないだろう。たぶん。
死の森側に進んでいくと怪しいフードの女とハリエットがタッグを組み、双頭巨人と戦っていた。取り巻きの聖職者は後方待機している。ハリエットは防御の
人の部分はどこに置き忘れた!
私は高みの見物。シモーネは手を前に出し女にしては良く通る低い声で魔法を唱える。
「アシッドレイン!」
巨人の周りに雨が降り出す。いや、ただの雨ではない酸の雨だ。
暴れる巨人は目を押さえて咆哮する。
酸雨は風で飛ばされていくが、巨人の身体から白煙が上がり、生焼けの魚のような腐敗臭が漂う。
巨人は自らの手で顔を搔きむしりだす。
「なんなの? 近寄らないほうがいいわ。私たちに結界はないし、あの酸の雨は凶悪よ」
巨人の顔が再生されていく。驚異的な回復力で全身の皮膚が元通りになっていた。
「俺達が憤怒の破壊神ソーレン・ランドスケープとマナ・U・インターンフェスと知って攻撃するのか女ども!」
「なんだ、喋れる知能があるのかい。いまいましい、邪教徒風情が呼びかけるな」
淡々と抑揚なくしゃべるシモーネ。その後も魔法攻撃や祈りなどで巨人を翻弄している。
自称ながら破壊神……と名乗る巨人は至近距離から戦闘槌で結界を叩く。
シモーネは魔法で巨人を吹き飛ばし、ノックバックして両手を広げ倒れ込む巨人。
ボロボロだったのに自然回復を始める。
驚くのはそれだけではなかった。いきなり巨人は上半身を起こし、口に白熱光のような怪光線が発生、それぞれの頭から二本のレーザー光が軌道を残しながら飛んでいく。ハリエットの結界はかなり後方に押しやられるが、結界は無傷でレーザー光は散り散りになる。
それは以前みた砦から発射された怪光線だった。
こちらの戦いは魔王使徒戦と違い、動きのない固定砲台どうしの激突といった単調で締まりのない戦いである。実物に出会うまでは、双頭巨人への攻撃は背後からと思ったけど、頭が二つあるうえキョロキョロ落ち着きがない。近づくと確実にバレそうだ。
私は
放さないわよ。
さて、どう攻略すればいいのだろう。姑息だが守護勇者に囮になってもらい私が頸を落とす。出来れば巨人の再生中を狙いたいわね。無防備だし。
巨人は単発的に怪光線を発射しては戦闘槌で殴りかかる。対して、防御の安定した聖女組は危なげないが倒すための決定打がない。
シモーネは印を結んで祈りだす。
「ホーリーレイン! 癒しの雨よ、聖女シモーネ。貴方を断罪します」
キラキラと輝く雨が巨人を静かに濡らしていく。巨人の行動が目に見えて遅くなった。
弱体化だ。
「いくわよ! 勇者たち!!」
3人の勇者が巨人を目指して駆けていく。シモーネの弱体化は我々に効果がない。おそらく、魔女陣営にのみに効く浄化か何かなのだろう。三人は足を狙って交互に攻撃を始める。
ビエレッテは私の前に立ち剣を生み出す。
巨人の興味が聖女からスキリアに移る。
そのとき私は、指先を天に向けバングルからエストフローネを召喚する。
「エストフローネ! 巨人を連れてお行き!!」
安全距離から首を狙って、白剣を勢いよく横一文字に斬りつける。
巨人の頭部が仲良く転がった。
好機と見たシモーネは酸を降らせ、双子が魔法で頭を焼き切った。私の剣は白い輝きを残し消え去る。
現状、一振りしかできないし、再使用のインターバルもわからない。
強力だけど使いどころが難しい。
見ていると巨人の胴体はまだ勇者たちを襲っていて怪光線が出せなくなっただけで攻撃は諦めていない。
やはり人ではない。
「カーラ様、ご支援ありがとうございます。この後の処理は我々が対処しますので、どうぞ使徒達をお倒し下さい。されば、古き王と
「ハリエット様は予言者ですか?」
「いいえ、未来予測の術です」
過去の事例の的中率は天気予報より精度がいいでしょうが。
文句を言ってやりたいが、魔王と使徒の討伐が先だ。
古き王はわかるけど、沈む海堡って何だろう。
何でいつも謎を提供するのよ!
まあいいわ。
「ありがとうございます。それでは先を急ぎます」
「幸運をお祈りしております」
シモーネが魔法を連発して注意を惹く、その隙に私たちは戦線を離脱する。
私たちは魔王と使徒が流れていった、ユーゲシー半島を目指して駆けだした。
そこには名もなき山が
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