第29話 古書の精霊モザイカ

 夕食はビエレッテの作ったキノコ鍋で香味野菜、葉物野菜、白菜のようなものとキノコが煮込まれ、キノコ等の出汁が出た薄い塩味の薬湯料理のようなものだ。主食は芋の蒸し焼きとシンプル極まりない。


 シンプルと言っても、自然の中で食べる料理はとてもおいしい。

 ビエレッテがいてよかったと思う瞬間だった。


 食事は和やかに終わり、双子は残り物を平らげていた。

 みんなが双子の食べっぷりに驚き、どこに入るのか気にしている。


「そういえば、カーラ様はウリス湖底に眠る乙女の伝承のこと知ってますか?」

「湖底の乙女?」

「オスカーその話、かなりマイナーだぞ。他領の人は知らぬ」

「そうなんだけど、僕の好きな話なんだよね」

「よし、それなら私が語り部になってやろうじゃないか!」


 ビエレッテの語る話は切ない物語。エバートの初恋の人が魔女の呪いを受けて、呪いを広めないため湖に入水する話である。旅から戻ったエバートはことを聞き及び覚醒、魔女討伐することになるのだとか。


 雑な話だったけど、いつか調べてみたいと思ってしまった。

 テーマは好きだから。


「オスカーは乙女の手により覚醒したい。そんな願望を抱いてるのか? 青いな!」

「ちがう! 僕は好きな人のために戦えるエバートが理想なんだ」

「熱く語るね、オスカー。英雄エバートは愛に生きた人だよ」


 ビエレッテはオスカー君の頭をクシャクシャにしながら戯れる。

 仲が良くて羨ましい。


 ちょっと嫉妬しているのかもしれない。


「初恋の人が眠る湖。神秘的ね」

「なんといってもカーラ様のご先祖様だからな。辺境伯家とは縁があるのだろう」


 ビエレッテは笑いながら手を振って見張りに立つようだ。

 夜になり双子は早めに寝かせてしまい、私はオスカー君にら郷土のことを教えてもらう。




 明日の朝に備えて眠ることにした。私は牛荷車の荷台に登り寝転がって星空を眺める。


 さて、オスカー君に勧められた敵と味方についてモザイカに質問しなくては、それに最近感じる違和感、疑問も含めて問いたださないと。


 黒の手帳を取り出して私はモザイカを呼び出した。


「モザイカ、聞きたいことがあるのだけれど」

『主様、なんでございましょう?』

「あなたは何者なの」

『古書の精霊モザイカにございます』

「私は想い込みが激しいからスルーしてたけど、精霊なのよね?」

『はい、私は古文書に零体として縛られる精霊です』


 妖精と思い込んでたけど、やっぱり精霊。聖女ハリエットと会話しなければ混同したままだった。

 これも守護の一種なのかしら。

 チュートリアルとか名前変更は精霊のユーモアだったの? 

 いえいえ、そんなこと聞いても意味はない。


「古文書のことを教えてくれないかしら」

『約定はカーラ様とは結ばれておりません。残念ですがお答えは致しかねます』

「そう、約定を新たに結ぶか、制限を解除する方法はないの?」

『カーラ様の呪いを払い、覚醒されることが唯一の道です。これ以上はお答えできません』

「呪い? いったい何なのよそれ」

『不利な制限が多いと思われませんでしたか。ステータス然り、スキルもない』

「今の私は呪われてるのね。これ以上は話してくれないのでしょう?」

『解呪のための導きは可能です。既にクエストとして提案させていただいています』


 私は呪いを受けている。誰から?

 覚醒が必要ときた。


 そうだ、クルートと敵対勢力のことを確認しないと、教えてくれるならだけど。

 そもそも、モザイカはクルート陣営なのだろうか。


「質問を変えるわね。モザイカあなたはクルートの支援者なの?」

『違います。単に黒の手帳に宿っていて機能を掌握しております。クルート、敵対勢力のドラゲアのどちらにも属しません』

「クルートの手帳を乗っ取り、あなたの思うように扱えると。違うモザイカ?」

『さようにございます』


 また爆弾発言だよ。でも、助けてくれているのよね。私を。


「モザイカ、あなたが私を助ける理由は?」

『約定に定められしこと』

「また約定に縛られていて明確に答えられない。それなら守護勇者とはなに? クルートとも関係ないようだけど」

『約定によるとしか申し上げられません』

「女神たちの意志でもないわよね?」

『主様のおっしゃる女神は我々の妨害をしています。これがぎりぎりの回答でございます』


 私は何と戦っているのだろう。いや何に弄ばれているのか、呪い、女神の妨害、敵対勢力。

 もう訳が分からない。


 重要なことは生き残ること、生き延びることが私の目的なのは変わらない。



 では、やることは一つ。覚醒して呪いを解く。これしかない。

 行動すれば道は自ずと開ける。


「モザイカ、覚醒するためには何をすればいいの?」

『先ずは妖精の涙、そしてエバートの指輪が必要になります』

「案内はしてくれるのよね。ガイドかな?」

『はい、約定に定められしこと。嘘偽りはございません』

「わかったわ」


 今までの話の流れからいえること、それは妖精の涙が存在するということは確定した。

 そして、妨害もあるはず。


 妖精の涙を入手することの詳細はモザイカからは聞けない。

 これは、過去の経緯からそう考えられる。


 私の行いで道が開けてきたのだから間違いなどない。

 そう知れたのだ早く寝たほうがいい。



 朝霧が出たなら妖精に出会える。そんな気がする。

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