第17話 愛の収穫祭

 夕方になったのでオスカー君を送っていくことにした。ついでというか、せっかくなので前夜祭を軽く見て回ることにした。お供はといえば双子とマーメイドである。


 トリステは領地に引き籠っていて不参加、何故かユリアもお兄様も不在のようで、今回のこのメンバーになったのだ。


 マーメイドに関しては食欲が旺盛で何でも食べることがわかってきた。目を離すと何でも口に入れ、床にある物を見境なく拾い食いをするので目が離せない。


 今回の参加も食べ物の予知が可能なのだろう、私に張りつき離れない。


 可愛いから許すけど。



 オスカー君と双子たちは花が窓から投げられる様を見て浮かれているようだ。連れてきて正解だった。マーメイドは勝手に露店や他人の食べ物をつかみ取って食べるので油断できない。とりあえず、謝りながら餌を確保することで急場をしのぐことにした。


「姫様、王都って綺麗です。お花でいっぱい」

「そうね。恋する人たちのお祭りだから若い人が多いのよ。ちょっと難しいかな」

「魔獣の番探しに似てます」

「詳しそうね?」

「はい、血が舞い、肉が踊ります」

「そうなの……祭りの起源は一緒かもね」

「カーラ様、お供のこの子達ユニークですね」

「あら、オスカー様もユニークですよ」

「えっ? 僕ですか?」

「そうよ!」


 なぜか嬉しそうに照れまくるオスカー様。


「ねえ、お兄ちゃんは姫様の騎士?」

「騎士か、なれたらいいけど。今のままの僕では無理かな」

「大丈夫だよ! お兄ちゃんなら」

「あなた達、結構オスカー様になついたわね」

「うん、いい人だから」

「困ったな。カーラ様の騎士か」

「騎士になると婚約者が現れるかもね」


 私が微笑みかけるとオスカー君は黙り込んでしまう。まあ、無理もないか。騎士になった姿を想像できないし、今のままでは高確率で無理よね。


 でも、頑張ってもらいたいな。


 祭りはこれからが本番だけど子供もいるので早めに切り上げてオスカー君と別れることにした。一応、恋の相談のため定期的に文通することになった。そんな約束をした私は、祭りが終わった跡のような感傷を打ち消すため、逃げるように帰宅することにした。


 私たちは人込みを掻き分けて別の道を進みだす。祭りの熱気に後ろ髪をひかれながら私は家に帰っている。


 街角の焚火と花束が舞う夜の王都。

 きっと新しい恋人たちが生まれているに違いない。


 ちょっと羨ましいなと思ってしまう。



 収穫祭当日は両親も兄妹も不在であったので、前世の記憶をもとに料理の試作をすることにした。調味料など調達できないので塩と香辛料で記憶のレシピを再現する。調理すると駄々をこねてみたが許されずマーメイドの餌ということで調理人に作ってもらうことになった。


「ローラ、マーメイドに食べさせる前に私が試食するから、出来上がったら運んできて」

「はい、お嬢様」

「姫様、お魚の餌ですか?」

「そうよ、この子の餌よ! そういえば名前がなかったわね!? 何がいいかしらね!」

「むぅー」

「姫様、お魚ってムーしか言わないね。ほかには笑うか鼻歌しかないし」

「ムームーうるさいから、ムーちゃんにするかな。どう?」


 残念だけど、どう見ても嫌がっているからムーちゃんはやめましょう。考え込んでいるとスキリアが絵本を持ってきて私に見せつける。なになに、なるほど絵本の女の子に似てるわね。


「決めたわ。スキリアの意見を採用! マーメイドあらため、あなたは今日からソフィーよ」

「キャッキャツ・キャ!」

「喜んでるの? 今度はいいみたいね。ソフィーこれからご飯にするね」


 そして試食の時間になったのだけれど味が濃い。記憶にしっかりあるレシピ。間違いじゃないはず。厨房に出向いて指示するも、相当薄めにしないといけないようだ。それにソースとかも作らせたけど、味付け自体が合わない感じよね。


「まるで生まれて初めて食す外国で出される家庭料理……よく考えると当然かもしれない」


 私の容姿は日本人からかけ離れている。白人なのかもわからない。人種が違えば味覚、嗅覚は異なるし、伝統や土地の違いもあるよね。私の舌に合わないのは地球の料理自体が私にとって異世界の料理だからに違いない。うーん、ちょっと残念。でもね……。


 食材、品種改良、発酵環境、細菌、人種・遺伝は一致するわけがなく、今の私には日本食は無理でしょう。考えようによっては幸せかもしれない。ここの食事に満足できてるもの。


 でも、前世の異世界もの小説って異世界環境、農家や料理人をなめ過ぎよ! 特に異世界スローライフ(スローではない!)でよくある醤油、味噌やマヨネーズはあり得ないってこと。


 まあ、舌に合うものに出会うかもしれないけど探求する時間はない。


 食べてくれる人がいない濃い味の試作品をどうしようかと思案していると、目を離した隙にソフィーがすべて平らげていた。



 この子、きっとどこでも生きていける。たくましいわ。

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