第16話 爆弾フルーツなんてなくて
部屋に入るとオスカー君が立ち上がり礼をとる。従者はいないようでプレゼントの山がそびえている。予想通りの量の多さだよ。私は微笑み淑女の礼を返しながら値踏みする。
「これ、隣国産の最新流行のものばかりじゃない。お菓子もレアで生活必需品のセレクトも素晴らしい。爆弾フルーツなんてなくてシャイニーサンフルーツかしらこれ! 初めて見るわ」
「喜んでいただけて良かったです。母に相談するとこんな感じになって」
「辺境伯領から隣国の首都は距離あるよね。こんな良いものいただいて嬉しいわ」
「良かった。女性の好みは同じ女性からと母から教わって、相談して正解でした」
「もしかして、オスカー様って母離れまだ?」
「いえいえ、母の子離れがまだなだけですよ。はははは」
確かオスカー君の母上は隣国から嫁がれてたはずよね。それで、田舎臭くないのね。トリステと同等と予想した私が愚かだったわ。いつか会うことがあったなら謝らなくては。
あっと、先にお礼だよね。
私は雑談を交えながら辺境伯家の日常を掴んでいく。興味本位で食生活や趣味など幅広く熱心に質問する。お見合いチックだけど話を持たせないといけないし……ちょっと大変かな。
なんだかんだ言って私は楽しんでるからいいけれど、オスカー君はどうだろう。
楽しんでもらえてるのかな。
話が婚約者の話になったとたんオスカー君が目に見えて動揺しだす。
覚悟を決めたのか、ちょっと顔を赤らめて話を切り出すオスカー君。何か言いにくそうに相談があるという。
「実は僕にはまだ婚約者がいなくて困っているのです。こんな僕だから両親も手を尽くすのですが一向にお相手が決まりません。家のこともあって婚姻は早いほうがと言われても、僕の噂と辺境伯領が僻地でまったく話が進まないのです」
「それで、私は何を協力すればいいの?」
「ぼ、僕には好きな人がいて。えっと、運命、運命の人だと思うんです」
「えっ!」
婚約者を探しているのよね? それなのに好きな人??? 運命の人ってなによ。
なんで、私が探すのですか? ごめんなさい。唐突過ぎて取り乱してしまったわ。
「片思いで言い出せなくて……」
「ななな、なるほどね……理解したわ。相談でも愛の美人局でも何でもするからね。覚悟しなさい」
心に突風が……凍えるような風が……失意とともに吹き抜ける。いえ、衝撃と謎衝動の嵐かしら。
意味不明な失言と色々まずいことを考えもなく喋ったけど、それどころじゃない。
動揺が収まらず、慌てちゃったけど、どうしましょう。
てか、美人局って何よ! まったく関係ないし。
私が焦ってどうするのよ。まずはお相手のことを聞いてそのあとで攻略方法と失恋したあとの対策ね。ちょっと、断られる前提で相談に乗るのはだめでしょう。冷静に、冷静にだから。
「その人はどんな人なの。相談に乗るから教えてくださる」
「えっと、その、王都に住んでいて、……あ、ダメです。冷静に話せません。こ、この紙に書いて来ましたので、お願いします!」
私の手にクシャクシャの紙が渡される。しわを伸ばして眺めると丁寧で綺麗な文字。あら、達筆ね。何々、好きな女性の特徴はというと、容姿はどことなくユリアに似ていて……性格はトリステのように明るい。あれ、例えが身近、私って知人が少ない? ダメだよ、友達いないのがばれちゃうじゃない。
困ったわ、そうだ煙に巻きましょう。
「言っちゃ悪いけど、相手に求める理想が高くないかな。この特徴だと綺麗で芯のある女性で親切」
「ですよね」
「今のままでは相当難しいよ。そうだ、オスカー様イメージを変えましょう!」
「見目を変えても中身が変わらないと無理じゃないかと」
「一理あるわね。ところで姿絵って持ってますか?」
オスカー君は手持ち鞄から固そうな紙を取り出して私に差し出す。私は受け取って絵を見る。
「これなによ! 陰影ある魔よけの像、実物が100倍ましよ。誰よ! こんなの書かせたの」
「えっと母が作らせたものです」
「これ、お母様の婚姻を阻む策略では。これ見て婚約受ける令嬢っていないわ」
「影があっていいと……」
「絶句!!! 私の絵師を紹介するわ。あ、我家お抱えの画家ね。著名なフランシス画伯よ」
話を聞いて呆れながらも私たちは楽しく過ごすことができた。でも、この恋路は難しいわね。やっぱ、玉砕の運命にあると思う。
まあ、その時は私が慰めてあげよう。
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