第14話 戦慄の滝下り
瀕死の少女はこちらを見て無理して笑った。彫刻のように神秘的な姿に私は息を飲む。
おっと、そんな場合じゃない。
「あなた大丈夫? あぁ、見るからに大丈夫じゃないわね」
『加勢していただきありがとうございます。わたくしは湧水の精ブルータル=チューガ……具現の限界は近い。どうか我が子を保護していただけないでしょうか。私が消滅するとこの子はひとり。可愛い我が子は異界に流され彷徨うものになる……この子を故郷の海にお連れください』
「うん! 任せて頂戴」
『有難うございます……』
私は差し出された小魚……迷子のマーメイドちゃんを受け取った。そして、ブルータル=チューガは安心した表情で煙のように消えていく。
何があったか事情を聞けなかったけれど仕方なし。
しかし、後先考えずに私は何やってるのか。お人よしが過ぎるよ。
「二人とも水龍はもういいわ。逃げるわよ……え」
水龍って手足なかったのかな。これ蛇よね?
「すでに蛇に種族を変えて横たわってるじゃない」
「もうペットだよ」
「……」
驚愕しながら水面を目指そうとすると足元に亀裂が、私たちは水龍もろとも口を開けた亀裂に吸い込まれていく。
吐き出された先は沢のなか、すごい勢いで流されて、崖や石などの景色が飛ぶように移り変わっていく。
私達はというと水龍を筏にして丸太下りを楽しんでいる。
小魚はポケットに収まり、双子は櫂を握る船頭になっている。
ああ、なんてこと!
目の前には滝。勢いがついてるからジャンプした!!
「滝から落ちるぅぅぅぅぅ!!」
スキリアの傘が10個以上展開していて、どうにか大減速できたはず。
ふんわり着水は無理だけどコンクリートと化した滝つぼに落ちることは免れそう。
「姫様着水するから目を瞑って鼻つまんでね」
「ひぃぃぃ!!」
私は湖畔でくつろぎ優雅に半裸で日光浴をしている。
ずぶ濡れで気持ち悪いので下着になって日向ぼっこなのよ。
女子しかいないから問題なし。
横には歌を熱唱するマーメイド。
今までもことが噓のようである。
湖の依頼はというと、敵はおろか何も出てこないので、双子の自発性にお任せしている。
無理やり正当化するけど、言い訳などできないただの身勝手、丸投げなのである。
私はすでにホームシックに取りつかれ、お家に帰りたいが口癖になってしまった。
依頼を終えて組合経由で家に戻った私は食事を終えて寝床でゴロゴロ。
モザイカと軽く話したところ、貢献度と討伐数が規定を越えステージアップしていた。まだステータスは見えず。守護者は現れないらしい。
なんでも妖精の守護は、加護などとは次元が異なり貢献度は高かったようだ。
いつものことながら他人事である。
ステージアップボーナスと制限解除はボッチ街道をひた走る私には意味がなかった。
ステージが上がったと聞いても、私は何もしてないから恥ずかしくて仕方ない。
そういえば組合ランクも上がっていたけどこれっぽっちも興味なし。
実際、死にたくないので努力しているだけだから。
「あれ? 雫が頬に……雨漏り?」
いつの間にかうたた寝したようで、跳ね起きて天井を見上げると部屋に水が流れ込み水没してしまう。
あ、これ夢だ。寝てしまったのね。息できるし……。
でも、おかしくない?
水浸しの部屋に何か居るように感じて窓のあたりを見る。
そこには壁から水草が生えていて、窓の前に水色の少女が佇んでいる。
「あ、水の精……ブルータル=チューガさん?」
『夢を邪魔して申し訳ありません。時間がなく用件だけ。我が子を無事に現世に連れ帰っていただいたこと感謝いたします。私にできることは限られ、残念ながら貴方様に一度限りの護符を授けることしかできません。これを受け取りください』
いつのまにか私の首にアミュレットが揺れる。
緑のマダラ模様の金属に透き通った青い宝玉。それは瞬きながら私の胸に消えていく。
「いまのは?」
『貴方が危機に瀕したときに効能が現れるでしょう。時間が尽きたようです。我が子のことお頼み申します』
返事をするよりも早く部屋の水が引き出して、妖精は足元に残された水たまりに消えていった。
夢ではなく睡眠中に干渉されたのだろう。
私は安心感から今度こそ深い眠りに落ちていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます