第10話 もう見たくない
私を睨みつける黒い魔物たち、もう総数など数えられないほど寄ってきた。
「マオウノテキ! ミツケタ! マオウノテキ! ミツケタ! マオウノテキ! ミツケタ!!!」
「うるさいわ! でも、敵って私を識別できるのね」
「姫様に吸い寄せられてる」
「マオウノテキ! ミツケタ!!!」
「あーっ! お家に帰りたい」
黒い絨毯が私に向かって来る。スキリアが私に向かって微笑み天に向かって手を開く、何か囁くと風が吹きだし、氷の小魚が無数に空を舞う。
氷の魚群はキラキラと輝きながら海中を泳ぐように滑らかに意思を持って動き出す。
「これも守りの盾なのエリシャ!?」
「さすが姫様! 正解です!!」
「話しているうちに黒いの全滅だよ……私の出番がないじゃない」
私は仕方なく剣の素振りをしている。それしかできないのだから仕方ない。
モザイカに敵のことを聞くと魔王の召喚した魔法生物がこの地に残留したものらしい。
はっきり言って我々にとって迷惑いがいの何者でもない。
魔王よ、海洋汚染だぞ! ちゃんと持って帰れ。
あぁ、散歩という名の環境保全を目的とした組合活動、それは私にとっては戦いなのよ。
海に続く荒れ地と魔王の忘れ物。
黒いのがいなくなって海岸から荒れ地に向かって歩いている。
また魔王の配下が潜んでいるという。
進みたくない。でも、魔物は倒さないと私が殺されるのだから。
それにしても依頼の害獣は一切見かけない。
用心しながら前進していると茶色い芋虫。目玉が一つ、私をじっと見ている。
のろまそうだから先手必勝かな。
剣を慎重に抜いて構える。腰が引けて剣先が上がらない。
「姫様。あの虫、動きは早いです。用心するです」
「えっ?」
「マオウノテキ! ミツケタ!!!」
喋ったことに驚く私めがけて幼虫は緑の謎液体を発射した。避けられないし動けない。
私は剣を捨て、両手で顔を隠す姿勢をとり、おまけに目まで瞑ってしまう。
「大丈夫です! スキリアが傘を開きました」
「か、傘?」
液体が来ないので恐る恐る目を開けると氷の傘を持つ少女。スキリアが器用に液体を防御している。
いや液体が凍って反射されている。こちらの物理反射で芋虫は自傷していた。
私は取り落とした剣を拾い用心する。
「姫様っ、弱ってきたので二人で押さえつけます。とどめをお願いしますね!」
二人は交差しながら液体を交わして芋虫に接近。素手で芋虫を圧している。
弾けそうよ。
これ、私が刺すのよね。ね? あぁぁぁ嫌よ――!
「嫌だけど迷ってられないわ! このわたくしカーラが芋虫を刺しに行きまーす!」
「マ……オウ……ノテキ! ミ……ツ……ケタ……」
幼虫は圧されて上手く喋れない。私は覚悟を決めて乙女走りで走り出す。
そして、パンパンに膨らんでいる茶色いブドウにメスを入れた。
気持ちいい感触とともに何かがはじけて飛んできた。
「あー――っ! 目が!! 目が見えない!!」
「姫様! 退治しましたよ。 目に入ったの虫の体液です。問題ないです」
「いやーっ!! 海! そうだわ! 海に戻って洗うわ」
「スキリアが水洗いと乾燥してくれるよ」
素直に従うことにした。
私はスキリアの魔法で全身洗浄してもらい、風の魔法で綺麗さっぱりした。
「もう……虫なんて二度とごめんだわ」
そういった途端に私を黒い影が覆いつくす。頭上を見上げると巨大な羽虫。
八枚翼を持ったトンボに似た超巨大昆虫が浮遊している。
手足はとても細く二対、羽根の長さよりも長く、ぶらりと垂れ下がっている。
よく見ると虫の手に握られているのは!? なんと!
私の盗伐対象の害獣だよ!
「わたくしの獲物よ。返しなさい! 泥棒猫!!」
「姫様、あの猫落としていい?」
「いいわよ! 討伐しなさい!!」
「にゃー!」
猫のしぐさと鳴き声をまねたエリシャは魔法を唱え始める。
「私の可愛いい麦わら帽子。お空に飛んでいけー!!」
地響きとともに三角錐の石槍が地面から出てくる。槍はらせん状に複数のドリルが連なる形状になり空に飛び立つ。ロケット発射の初速よりも早い。質量や空気抵抗はどうなってるの。推進力は何!!!
槍はターゲットに命中すると分散して、蚊トンボが麦わら帽子のように広がった。
原型はこれっぽっちも残ってない。
「あれーっ! 私の害獣も巻き込んだよ……」
「ごめんなさい。やり過ぎました」
「はるか先に今は亡き細切れ蚊トンボが落下中。害獣の盗伐部位って探せるかな」
「無理です」
「そうよね。また探しましょう……」
私は半泣きである。
海から離れて完全に荒れ地に立ち入った。時々、私が芋虫の止めを刺し、少女二人が交互で蚊トンボを駆除している。残念ながら害獣はあれから見ない。
しばらくダラダラと進んでいると静岡の茶畑のような模様が地面に刻まれている。
何故だかわからない。
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