湯涌温泉の赤とんぼ
おじぃ
湯涌温泉の赤とんぼ
石川県の県庁所在地、
けれどそこから少し離れれば、もう山の中。
その静かな山中にこじんまりと佇む金沢の奥座敷、
古くは画家で詩人の故、
やや急な舗装された斜面を上ると、森の中にパッと開けた
湖というよりは、沼といったところのやや大きな水たまり。
そのほとりに張られたロープで向かい合う2頭のトンボ。そこそこ赤い小型のトンボ、アキアカネと、真っ赤な中型のトンボ、ショウジョウトンボ。両者とも
「やぁ、真っ赤だね。大きいからって、僕を食べないでね」
首を傾かせ、ショウジョウトンボトンボと意思疎通を図るアキアカネ。トンボは肉食、共食いもする。普段は蚊やハエなど、いわゆる害虫をよく食べる。
つまりトンボが減ると害虫が増えて、デング熱や脳炎などの疫病が蔓延しやすくなる。
「もうそんな元気はないよ。蚊や小バエを食べるので精一杯さ。少し寒くなってきたね」
アキアカネ同様に、首を振って意思疎通。
「そうだね、やることやったし、僕にもう悔いはない」
「そうか、良かった。僕もだよ、1500分の1になれたよ」
水中で卵から幼虫、ヤゴとして
「奇跡だね、恐怖だらけの生涯だったけど、いまは幸せだ。やりきった達成感に満ちあふれているよ」
「あぁ、まったくだ。じゃあ、最期は僕に喰われるかい?」
「それは勘弁してくれ。じゃあ、お達者で」
「あぁ、お達者で。次会うときは空のずっと上だ」
こうして2頭は別れを告げ、それぞれ別方向へ飛び立った。
また会うときを少しだけ、楽しみにしつつ。
湯涌温泉の赤とんぼ おじぃ @oji113
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます