第307話、日本の助っ人航空隊
日本海軍第二機動艦隊が、熾烈な防空戦闘を繰り広げる頃、近くを併走する形の米海軍第三艦隊もまた、迫り来る異世界帝国軍攻撃隊との対空戦闘を続けていた。
『敵F群が識別ゾーンに侵入。その数、およそ500機!』
「シット! さすがにこの数は――」
空母『レキシントンⅡ』に坐乗するマーク・ミッチャー中将は舌打ちした。
敵第二波――D群を撃退しつつあるものの、敵機が数機、艦隊に攻撃を掛けた。その結果、第四群の戦艦『サウスダコタ』、重巡洋艦『クインシー』が爆撃を受けて被弾。第二群の軽空母『カウペンス』も被弾、損傷した。
全体としては、それだけの損害だ。軽微といってよい。しかし、間髪を入れず、敵の第三波が、迫っていた。
敵航空機の大群に、F6F戦闘機群は奮戦し、多くを撃墜したが、被弾損傷による離脱も少なくなく、またそろそろ残弾が怪しい機も多いはず。
戦闘機が足りない。ミッチャーは唸る。これでも米海軍は戦闘機を多く積んで戦いに臨んだが、敵の攻撃隊の数は想定以上だった。
――しかも、日本海軍が半分を引き受けてくれて、これだからな……。
実際は半分以上なのだが、おおよそ敵戦力は二分されている、と米海軍側は思っていた。
「提督、『オーガスタ』より入電です」
「スプルーアンスが何か言ってきたか?」
第三艦隊司令長官のレイモンド・スプルーアンス大将は、航空戦に関してはミッチャーに一任している。そんな上司からの通信となれば、何事かと思うのも自然だった。
レーダーマンが声を発した。
「3時方向より、新たな航空機編隊を捕捉!」
「日本海軍の戦闘機部隊です」
通信参謀が報告した。
「スプルーアンス大将から、日本海軍の援軍が到着する――今したようなので、可能なら航空誘導をしてやれ、とのことです。コールサインはアイス1、アイス2、アイス3。これらに指示を出せば、所属編隊を日本側が誘導するとのことです」
「……それで、こちらのCIC並みの誘導ができるとは思えんが」
いきなり過ぎて、CICの航空士官らに任せても困るだろう。そもそも自分たちの受け持ちを勝手に増やされても、はいそうですか、と言ってできるものでない。
「OK。最低限の指示しか出せんし、それは向こうも同じだろう」
事前に航空管制と誘導について、共同訓練でもしていれば話は別だが、ぶっつけ本番過ぎる。
「しかし、何はともあれ、戦闘機が不足していたのは間違いない。ありがたく使わせてもらう」
ミッチャーは顔のしわをさらに深めた。
「だが、あちらの戦闘機は、こちらのF6Fと違うだろう。速度も違うだろうから誘導は――」
「それなら心配は無用とのことです。日本海軍は、彼らが『ゴーフー』と名付けたF6Fを送ったそうです」
レンドリースで日本海軍に、米海軍の戦闘機が大量に送られた。日本人は米国製品の優秀さを理解し、早速それを使っているわけだ。彼らはゼロ・ファイターという戦闘機を主力にしているが、米海軍の援護には日本海軍版F6Fを送ってくるとは、にくいことをするものだ。
「グッド。それならば誘導も、こちらのF6Fと同じ感覚で動かせばいいな。聞いたな、ボーイズ。異世界野郎どもをぶちのめしてやれ!」
「アイ・サー!」
誘導士官たちは頷いた。
米第三艦隊は、異世界帝国軍の最終ウェーブに対する迎撃を航空隊に指示する。
まだ戦闘力に余裕のあるF6F部隊が迎撃位置につく中、日本海軍第一機動艦隊の乙型海氷空母から、送り出された業風戦闘機隊もまた、空中管制役の彩雲――アイス1、アイス2、アイス3によって誘導される。
航行能力を持たない乙型海氷空母の業風戦闘機は、漏れなくコア制御の無人機である。そのため、人間である指揮官が乗る別の機体が必要だった。
そして、空中戦が始まる。
・ ・ ・
日米航空隊が、異世界帝国航空隊の猛攻を耐え忍ぶ間に、敵中へ飛び込んだ第一機動艦隊の放った攻撃隊が、異世界人の巨大海氷空母へと向かっていた。
攻撃の標的は、第二機動艦隊、米第三艦隊にもっとも近い位置にある仮称、異海氷空母A、と同Bである。
「あれま。海氷空母……?」
一航戦『大鶴』艦攻隊隊長の下村太一郎少佐は、異海氷空母Aを視認し、思わず声に出た。
「空母っちゃー、空母っぽいが、まるで島だな」
巨大な箱のような海氷だった。聞いた話では、戦いが始まるまでは、そこらを漂う大きめの海氷だったが、それらが寄り集まって、巨大海氷空母になったのだそうだ。
平らな巨大海氷をいくつかバラして配置し、さらに一部に靄がかかっていて、偵察の時もまさか合体してそうなるとは思っていなかったと聞く。
「異世界人は無茶苦茶だな」
下村少佐は呆れるのである。相方の田辺中尉が言った。
「しかし、あれをやらんといけません」
「そういうことだ。……うーん、とりあえず空母として発着艦機能を奪うのを優先。あわよくば撃沈という感じになるか」
「あれ、沈むんですかねぇ……。島みたいにでかい」
「流氷だと、見えている部分より海の下のほうがでかいって聞くな」
その考えで行くと、艦載機での撃沈など難しいのではないか。相手は島ではなく、異世界氷であるから、耐久性は全然違うのだろうが。
「ここまで来たんだ。さっさと爆弾を叩き込んで終わらせよう。まごまごしていると、母艦が転移離脱してしまうかもしれないからな」
第一機動艦隊の空母群は、敵の勢力圏にいる。空襲されるようなら転移で離脱することになっている。そうなると、攻撃隊も先日、装備された転移装置を使わざるを得なくなる。転移場所は、第一機動艦隊が置いてきた乙型海氷空母の周辺だが、おそらく着艦作業が、かなり面倒なことになる。やはり、出撃した時と同じ空母に下りたいというのが心情だ。
一航戦攻撃隊は、異海氷空母へと突き進む。
「敵機!」
「制空隊! やっつけろ!」
直掩の零戦、そして新鋭の暴風戦闘機――レンドリースのF4Uコルセア戦闘機が、海氷上空を守る敵戦闘機へ突っかかる。
傍目にも、暴風がでかい図体で、零戦五三型を追い抜いていくのが見えた。銃弾と光弾が交錯し、戦闘機同士が飛び交う。12.7ミリと20ミリの混載である零戦に対して、暴風は12.7ミリ機銃6丁で猛撃をかける。しかもその速度が、この戦場にいるどの機体より速く、まさに暴風の如く吹き荒れた。荒々しき海賊の名を継ぐ戦闘機は、太平洋で荒ぶる風となった。
その間に、流星艦上攻撃隊隊は、目標への射線を確保する。敵の対空砲が働くより離れた遠方から、巨大海氷めがけて1000キロ誘導弾を発射した。
魔力誘導された誘導弾は、対空機銃によって狙われるがそれで撃墜されるものは少なかった。
着弾、爆発。異世界氷が欠片となって飛び散る。合体したことにより巨大な滑走路を形成する異海氷空母は、至る所を削られ、吹き飛ばされて、その形を元の氷の塊へと戻していく。
「表面は削れているようなんだがな」
下村は、艦攻隊の攻撃で切り出されていく海氷空母を睨む。氷の外に反して、中は機械も持ち込んでいたようで、吹き飛ぶものや露わになった内部には金属も見えた。
「滑走路を使えなくするのは難しくないが、沈めるのは難しそうだな」
一航戦攻撃隊による攻撃で、異海氷空母Aは、戦闘能力――飛行場乃至空母機能を喪失した。
ほどよく形を整えたものを合体させて早期に空母にしてしまう異世界軍だから、本気で復旧にかかったら、どれくらいで元通りにできるかはわからない。
「いや、無理だな。元に戻すより、適当に整っている形のやつを集めて新しく作ったほうが早そうだ」
下村は独りごちた。海氷空母を構成していた氷も、いまや三つに断裂、流れ出している。
「攻撃隊へ、任務完了。帰投する!」
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