第271話、U部隊とY部隊
ジョンストン島とハワイ真珠湾への奇襲作戦が並行立案された。
計画では、二つの特別挺進部隊を編成。
第一部隊は、ジョンストン島に向かい、特殊部隊を上陸させて敵重爆撃機を強奪し脱出。飛行場と残る施設は、洋上からの艦砲射撃を見舞い、小島を更地にして離脱する。
第二部隊は、ハワイ南方より隠密を以て接近。潜水型空母群による奇襲航空隊を出して、真珠湾の敵主力艦隊に打撃を与え、退却する。
その後、二つの挺進部隊は合流して、マーシャル諸島に帰還することで作戦終了となる。
行動に注意は必要だが、やること自体はシンプルだ。
戦力は、内地から転移してきた艦と、丁部隊構成艦から編成された。戦艦2、空母3、大型巡洋艦1、重巡洋艦2、軽巡2、駆逐艦15、潜水艦6である。
○第一挺進部隊:U部隊
・第二戦隊:「大和」「武蔵」
・第三十二戦隊:「早池峰」「古鷹」「加古」
・第八水雷戦隊:「神通」
第七十九駆逐隊:「初春」「子日」「春雨」「涼風」
・第七十一潜水隊:伊607、伊608、伊613
○第二挺進部隊:Y部隊
・第八航空戦隊:「応龍」「蛟竜」「神龍」
・第八水雷戦隊:「川内」
第七十六駆逐隊:「吹雪」「白雪」「初雪」「磯波」
第七十七駆逐隊:「浦波」「敷波」「綾波」
第七十八駆逐隊:「天霧」「朝霧」「夕霧」「狭霧」
・第七十潜水隊 :伊600(特マ潜水艦)、伊611、伊612
この旧マ号潜水艦隊は、内地より、
なお、この転移してきた増援部隊は、第二機動艦隊に臨時編成される空母『翔竜』『龍驤』『神鷹』も含まれていた。
八航戦の『応龍』ら3隻が抜けた穴を、これら内地から転移してきた軽空母3隻が埋めることになっている。その搭載機体は、青電迎撃機ほか零戦五三型と、戦闘機が多く積まれてきた。
第一挺進部隊は、第二戦隊司令官の宇垣纏中将。第二挺進部隊は、第八航空戦隊司令官の山口多聞中将が指揮する。二人の名字の頭文字を取って、第一はU部隊、第二はY部隊と呼ばれた。
「幻だった真珠湾作戦をやることになるとはなぁ」
山口が皮肉げに言えば、宇垣は僅かに首を傾けた。海兵40期の同期の二人である。ハンモックナンバーでは山口が2位で、宇垣が9位である。なお海大では宇垣が22期、山口は24期で、優等で卒業している。
「まあ、山口なら上手くやるだろうよ。その幻の計画にも関わっていたんだから」
「それを言ったら、お前もその時、連合艦隊参謀長として山本さんのそばで見ていただろう?」
「あの頃は、今ほど信用されていなかったから、それほど関わってはいない。が、あの人のやろうとしていることが実現できるよう、参謀長として尽くしたつもりだ」
「律儀なのよな、お前は。……何でかな。見た目が頑固そうなのがいけないのか」
「何の話だ?」
首を捻る宇垣に、山口は構わず続けた。
「頭はいいんだがな。砲術一辺倒だと思われているが、航空にも潜水艦にも理解がある」
「砲術屋なのは本当だ。餅は餅屋だ。俺は今の役職に満足している」
大和型戦艦の戦隊司令官――大砲屋として、宇垣にとっては本望である。
「餅と聞いたら、腹が減ってきたな」
「おい、山口。大食いもいい加減にしておけよ。歳を考えろ」
山口多聞は
「お前の食いっぷりを見ていると、力士じゃないかと思うことはある」
「相撲は好きだよ。……冗談はさておき、戻ったら『大和』に食いに行くから、その時は頼むぞ」
そう言い残して、山口は『応龍』へ戻っていった。同期を見送り、宇垣は艦橋に戻る。
「貴様も因果なものだな、神明」
「ただ氷もどきを、拾ってくるだけのつもりだったのですが」
第一機動艦隊参謀長である神明は、わずかに皮肉げな顔になった。
今回のジョンストン島作戦のため、第二戦隊の臨時参謀としてU部隊に同行するよう、山本五十六大将から命じられたのだ。
潜水型水上部隊は、まだ不慣れだろう宇垣の補佐として、潜水型戦艦となった以降の『大和』艦長を勤め、大巡『早池峰』や、現部隊の作戦についても詳しい神明をつけたのである。
「特殊部隊の扱いについては、貴様に任せるのでよろしく頼む、神明」
「承知しました」
かくて、作戦は開始される。連合艦隊司令部は、旗艦を『播磨』に移し、マーシャル諸島攻略を監督する一方、第一、第二挺進部隊は、第二機動艦隊から離れた。
まずは、北寄りのルートを取り、敵の警戒線から離れるように遠回りの航路を選んだ。敵重爆や哨戒機に発見されるのは論外だが、おそらくハワイ方面を直接目指せば敵潜水艦の警戒網に引っかかるだろう。異世界軍に見つからないように、潜水行動を織り交ぜながら、部隊は進んだ。
道中のU部隊では、神明と現部隊の遠木中佐と、ジョンストン島への上陸方法から、行動、鹵獲、そして脱出などの打ち合わせを重ねた。この話し合いには、宇垣も参加して、特殊部隊や潜水水上艦の運用法についても頭に入れていった。
第二戦隊の先任参謀である野田六郎中佐は、宇垣と神明が、まるで昔から司令官と参謀をしていて、妙に馬が合っているような雰囲気を感じた。言わなくてもわかるだろう的な壁を、感じるというか。
この話を、『大和』を預かっている正木初子大尉に言ったら、彼女は微笑んだ。
「宇垣さんも神明さんも、不器用なところはあると思います」
「不器用……か?」
「お二方ともお優しい方ですから」
「優しい……?」
いつも仏頂面をしている宇垣からは、叱責されることが多い野田である。初子は苦笑した。
「似ていると思います。あまり人の目を見て話すのが得意ではないようですし、表情が硬いですから、怖く見えると思います」
そう言われて、普段の宇垣を思い出し、それとなく辻褄が合うのを野田は感じた。宇垣は部下とすれ違いの挨拶や敬礼を、すっと視線をそらしたり、ぶっきらぼうな返事をすることが多い。
そういえば、宇垣と神明が互いに正面から向き合っているところは見たことがなかった。いつも横や斜めで、相手の顔を見ずに話しているような……。
つまり、あまり人付き合いが得意ではないのか――野田にとっての宇垣に対する見方が少し変わったが、怒られることは別段減るわけではなかった。
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