第242話、駆けつける味方


 異世界帝国遊撃部隊は、旗艦である大戦艦『プロトボロス』が、主砲で九頭島トック群を砲撃する中、本島の南――南水道を通って重巡洋艦、駆逐艦が島へと接近する。距離を詰めて、島にあるものを砲撃しようというのだ。


 だが九頭島本島と、各小島も黙ってはいない。

 かつてスカパフローで自沈したドイツ艦や、日露戦争時のロシア艦などから下ろした15センチ砲や10.5センチ速射砲、15.2センチ砲や戦艦から下ろした30センチ砲などが砲台として設置されていたのだ。


 これらは港内に近づく敵艦へと放たれるが、異世界帝国側も高速で運動しながら、砲台を潰すべく反撃する。

 異世界帝国の重巡洋艦は、攻撃力が強化された新型であり、20センチ三連装砲を六基十八門も備えていた。それらが一度、陸の砲台を狙えば、圧倒的火力差に個々に撃破されていく。


 分散している分、個々では弱いが、一度にやられない分、異世界帝国艦側も少なからず被弾するものが相次いだ。


 南から侵入した異世界帝国艦艇は、東と西へと分かれて本島を回り込みながら移動する針路をとった。これで本島の目につく施設を砲撃していこうという腹だ。


 しかし、そう簡単にはいかない。何故なら、九頭島周辺に演習や試験で出払っていた艦が、次々に戻ってきたからだ。


 演習中だった第八水雷戦隊の潜水軽巡洋艦『神通』と第七十八駆逐隊『天霧』『朝霧』『夕霧』『狭霧』、第七十級駆逐隊『初春』『子日』『春雨』『涼風』が東側から回り込もうとする敵の重巡洋艦2、駆逐艦3を捕捉した。


 だがこの時、異世界帝国側は、海中を進ませて同行させていた潜水巡洋艦と駆逐艦を浮上させて、島の砲撃と、第八水雷戦隊迎撃に当たった。


 九頭島司令部では、守谷中佐が、戦況報告を受けていた。


「――敵の数が倍になりました。総数で戦艦1、巡洋艦7、駆逐艦16です」

「八水戦第二部隊、敵と間もなく交戦。その後方5000を八水戦第一部隊が追尾中」


 こちらは潜水軽巡『川内』に率いられた部隊だ。この二つの隊で、巡洋艦2、駆逐艦15である。


「……巡洋艦が足りない」


 守谷は思わず呟いた。潜水機能を活用する潜水突撃の八水戦であるが、果たして、砲火力に優る敵にどこまで通用するか。


「裏ドックから、戦艦『扶桑』、出航します!」

「おう!」


 通称、秘密ドックから、戦艦が出た。しかし、その先で交戦するのは、おそらく敵の大戦艦――


「司令、大型巡洋艦『早池峰』以下『古鷹』『加古』、間もなく戦場に到達します!」

「おお、間に合ったか!」

「九航戦『翔竜』『龍驤』航空隊、九頭島上空に到達!」


 マ式エンジン搭載艦上戦闘機『青電』他、九九式艦上戦闘爆撃機、二式艦上攻撃機の航空隊が駆けつける!

 さらに――


「魔力探知器に反応! 航空機複数と大型艦が南水道付近に転移!」



  ・  ・  ・



 その瞬間、セイロン島から一式水上戦闘攻撃機が、九頭島上空へ転移した。


 須賀義二郎中尉は、二度目となる転移離脱装置を使った長距離移動を成功させ、素早く後方を一瞥した。次々に現れる一式水戦に、二式水上攻撃機。


 転移魔法が発動するように作られた装置に魔力を投入することで、魔法が発動。はるばるインド洋から内地へと飛んできたのだ。以前使った時と同じ転移先――九頭島のままでよかった。


 海上に目をやれば、第一機動艦隊所属の戦艦『大和』が水飛沫を上げて九頭島南水道に現れた。


「『大和』を視認! 妙子、各飛行隊はいるか?」

「大和隊、武蔵隊を確認!」


 後座の正木妙子少尉が、魔力捜索の魔法を使って、セイロン島から転移してきた味方航空隊を確認した。

 大和航空隊の一式水戦4機、二式水上攻撃機4機。武蔵航空隊の一式水戦、二式水攻各4機ずつの二隊合計16機だ。


 そして眼下の『大和』は、連合艦隊司令部に転移で戻った秋田大尉が、小沢中将と共に第一機動艦隊まで転移。そこから戦艦『大和』を九頭島救援に向かわせるべく、秋田大尉の転移魔法で、ここまで飛ばしたのである。

 ……おそらく戦艦を直接転移させたから、秋田大尉は今日はもう転移できないほどへばってしまっているだろう。


「義二郎さん!」


 妙子の鋭い声が耳朶を打つ。敵か――須賀は反射的に周囲への注意レベルを上げる。最近では、ゾワッとした感覚――殺意の塊のようなものを肌で感じ取れるようになってきた気がする。


「敵戦闘機、こっちに向かってくる!」

「了解! ――大和一番より各機、戦闘機は敵戦闘機を撃墜。攻撃機隊は、敵艦を攻撃せよ。目標は攻撃機隊指揮官に一任する!」

『了解!』


 無線での指示を出し、敵に備える。見慣れたトンボ――ヴォンヴィクスではなく、敵戦闘機はハチ型。


 エントマ戦闘機――その速度で、零戦を寄せ付けず圧倒した敵の上位戦闘機。だが――


「スピードならこっちも負けていないぜ!」


 武本『夏風』空冷1800馬力エンジンが甲高い唸りを上げる。軽装時の最高速度は671キロ。エントマ戦闘機とほぼ互角!

 正面、敵2機!


「妙子!」

「誘導弾、投下!」


 主翼に懸架してきた航空誘導弾が二発、切り離される。能力者である妙子が、念話誘導した誘導弾は、ロケット煙を引きながら飛び、殺人蜂に激突、四散した。


「2機、撃墜!」

「お見事! そしてこっちも――」


 横腹を見せている敵機の斜め後方から追尾。下降している分、こちらの速度が上回る。


 くらえっ!――12.7ミリ機銃4丁が火を噴く。エントマの翼を叩き折り、胴体にいくつもの穴を開けて、バキバキに砕いてやった。敵戦闘機は錐揉みとなり墜落、海上に叩きつけられて飛沫となった。


 ダイブして溜めた力を活かして上昇。戦場の空を確認。基地守備隊のものと思われる一式水戦や試製瑞雲が飛び、高高度戦闘機であるはずの青電の姿も見えた。見たところ、空中戦は互角だろうか。少なくとも一方的にやられているという様子ではない。


「……くそっ」


 思わず声に出た。前回飛んだ時は、戦時にあっても敵とは無縁だった九頭島。本島の九頭島工廠とドックからは無数の火の手が上がっており、それ以外の小島にも煙がたなびいているのが視認できた。


「あの野郎か……!」


 南水道より外にいる巨大な超戦艦。聞いた話では、第八艦隊の戦艦を3隻撃沈した強敵らしい。


 そしてその化け物と対峙するのは、日本が誇る超弩級戦艦『大和』。大型戦艦同士の一騎討ちが始まる。

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