第240話、迫る脅威
連合艦隊旗艦『播磨』から、神明大佐は秋田大尉と共に、転移魔法で九頭島へ転移した。
山本大将と小沢中将は、第一機動艦隊はどれくらいセイロン島に留まるかについて話を進める。
東洋艦隊を撃滅した現状、脅威は潜水艦が中心であり、敵の有力艦隊はいないが――
「大変です長官! 緊急電ですっ!」
宇垣参謀長と通信参謀が慌てて長官公室に駆け込んだ。
「九頭島より、敵艦隊見ゆとの緊急電! 艦中央に飛行甲板らしきものを持つ大型戦艦1隻を含む……これは――」
「第八艦隊を撃破したヤツか!?」
山本は思わず立ち上がった。何故敵が――しかもよりにもよって、九頭島か。小沢も血相を変える。
「九頭島は、神明が向かったばかりではないかっ!」
敵のコア装置の解析に、転移魔法で移動したのはついさっきである。敵が戦艦3隻を血祭りにあげた大戦艦ならば、九頭島は徹底的な攻撃を受ける可能性が高い。
魔技研と、その再生工廠が失われることになれば、日本が、異世界帝国との戦いに勝てる望みが薄くなる。
今、九頭島の設備と、神明を失うのは海軍にとって致命傷になりかねないのだ!
・ ・ ・
神明は久しぶりに九頭島の司令部に訪れた。留守の間の成果を話したがる魔技研職員たちに一端待てと告げた後、研究室で早速、コアの解析作業を始めさせた。
異世界人の自動コア――ゴーレムの類いは、サイパンやウェーク島での戦いで、海軍もいくつか回収していたものの、航空機用は初めてだった。
すでに解析済みのゴーレム系コアの結果を確認していた時、研究室に、いや島全体にサイレンが鳴り響いた。
「敵襲……!?」
神明は急いで司令部に戻ると、敵情を知らされた。
「対潜ソナーに反応。複数の潜水艦ないし、潜水型駆逐艦。さらに大型戦艦と巡洋艦の反応が水上電探に現れました。距離およそ32キロ」
「意外に踏み込まれたな。哨戒線を潜り抜けられたか」
「大佐!」
九頭島司令部を預かっている守谷中佐が報告した。
「魔力ブイによる走査で、敵水上艦隊の数が分かりました。戦艦1、重巡洋艦3、駆逐艦7。空母はありませんが、戦艦が例のクロス字の飛行甲板を持つ奴です」
「第八艦隊を返り討ちにしたフネか」
戦艦『磐城』『近江』『駿河』を撃沈、『常陸』を大破させた敵の大型戦艦。敵旗艦級戦艦に匹敵か、それ以上の巨体を誇り、主砲は43センチ砲ないし45センチ砲を推測される敵だ。……この九頭島に、それとタメを張れる戦艦はない。
「今、使える戦力は?」
「近海で試験中の大型巡洋艦『早池峰』、重巡洋艦『古鷹』『加古』。別方向になりますが、空母『翔竜』と『龍驤』、さらに第八水雷戦隊が演習中です」
島近海の地図台の上に、敵味方の駒が置かれる。
「戦闘は可能なのか?」
「できなくはない、というところでしょうか。八水戦に限れば、中部太平洋での戦いが近いということで、仕上げにかかっている段階ですから、練度面では問題はないと思われます」
新人が初陣でどうなるか、という不安要素はあるが、と守谷の顔には書いてあった。
「島の防衛設備、飛行場に迎撃命令。演習に出ている部隊が戻るまでに艦砲射撃、来るぞ」
敵大型戦艦の主砲ならば、すでに島の一部施設は射程に入っているだろう。
「狙われるとすれば――」
「島の飛行場と、表ドックですね。再生中の空母や巡洋艦が剥き出しですから」
ここまで近づいた敵が、これら工廠施設や浮きドックを見て何もしないわけがない。特に大鶴型――リトス級大型空母が改装されているのを知れば、動けないうちに破壊しようとするだろう。
何とか、砲撃させないために敵戦艦に損害を与えられないものか。島の防衛施設では、大型戦艦を相手には不充分だ。
「秘密ドックのほうで、動かせるフネはないか?」
軍港に隣接する、山の中をくり抜いて作られたドック施設がある。実際は秘密ではないのだが、上空からドックが見えないため、そう呼ばれている。
「細かな確認作業がまだですが、改装がほぼ終了している『扶桑』と『山城』があります」
第二次トラック沖海戦で撃沈、日本海軍が回収、大改装を加えて再生させた扶桑型戦艦が2隻ある。
守谷はしかし眉を潜めた。
「ですが、乗組員が揃っておりません」
「再生した扶桑型は魔核搭載艦だ」
神明は言った。
「能力者が使えば、動かせる」
「それはそうですが、大佐。『扶桑』は砲弾三斉射分、『山城』にいたっては砲弾が積まれておりません。とても戦闘は不可能かと」
「充分だ」
神明は、改修扶桑型のスペックを頭に思い描き、頷いた。
「『扶桑』を動かす」
「しかし、戦艦を動かせる能力者は――」
「心配ない。ここにいる」
神明は不敵な笑みを浮かべると、司令部を後にした。
・ ・ ・
「こんなところに、日本軍の拠点があったとは……」
プロトボロス級試験航空戦艦『プロトボロス』。ムンドゥス帝国太平洋艦隊所属の遊撃部隊を率いるグラストン・エアル中将は、獰猛な視線を正面に見える島々に向けた。
「情報にはない島だ。ここがテシス大将の言っていた敵の再生工場か……」
どうか、とエアルは、索敵担当士官に確認した。
「はっ、アヴラータ金属の反応を複数検知しました。波形照合、我が軍の撃沈艦のものです!」
「これで日本海軍の戦力急増の秘密が証明されたな! 奴らも魔核を使った再生技術を持っているのだ!」
どこから、その方法を獲得したかはわからない。帝国に内通者がいるのか? しかし地球人に肩入れする者がいるとも思えない。
独自に開発したのか、この世界にも魔核が昔から存在していたのか。いや、それならば日本だけというのも疑問がなくはない。この国だけが、魔核利用に成功したというのなら、やはり裏に何かあると思えてくる。
「しかし――」
エアルは、日本軍が魔核を使用しているのでないか、と推理したテシス大将の読みの深さに感心した。おかげで敵の秘密施設を発見できたのだ。
「まあいい。我々の役目は、敵の再生工場を破壊することで完了される!」
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