第129話、特殊部隊構想
「特別部隊……!」
山本五十六大将は息を呑む。永野軍令部総長は『異世界人の情報を集めるための特別部隊』の創設、その構想を語った。
「我々は敵を知らねばならん。どこまで戦えば戦争が終わるのか、その着地点を見定める必要があるのだ」
侵略してくる敵を撃退するだけではいけない。何が原因なのか、敵に侵略をやめさせる手はないか、それを考える必要がある。
「本当はもっと早くから、それを考えねばならなかった」
「そうですな……」
永野の発言に、山本は目を伏せた。多くの海軍軍人が戦死した。世界を見れば、軍人のみならず、民間人にも多くの犠牲がでていると聞く。その死を無駄にしないためにも、我々は侵略者に勝たねばならないのだ。
「しかし、我々も瀬戸際でしたから。国家存亡のために、目の前の敵を優先するしかなかった」
先のことを考える余裕がなかったとも言える。もちろん、今でも余裕があるかと言われれば、そうとは言い切れないが、攻勢に出るとあって、終着点に思いを馳せるくらいはできる状況にはなった。
「それで、その特別部隊というのは?」
「うむ、陸海軍の垣根を超えた特殊部隊――ということになっているが、簡単に言えば、異世界帝国の調査をするスパイ、工作員部隊ということだ」
恐ろしく簡単にまとめる永野である。前置きが大層だったが、よくよく聞けば、新しい専属諜報機関という話である。
重要な話ではあるが、山本は一気に肩の荷が下りた。諜報関係ならば、連合艦隊にはさほど関係はない。それなら自分が関わることもなさそうだ、と思ったのだ。
そこで神明大佐が言った。
「単なる諜報部隊ではありません。敵地上陸、潜入し、後続の主力部隊のための攻撃目標指示や強行偵察など、より攻撃的な任務をこなす特殊部隊となります」
異世界人の情報を集めるのだから、結局敵地に乗り込むわけで、その任務が攻撃的なのは必然だった。
そういった任務を果たすため、能力者を含めた特殊なスキル持ちを集めた、強力なチームが編成されるという。
「彼らは戦闘車両や航空機、必要ならば艦艇をも使います。そして、必要ならば陸軍や海軍も、その特殊部隊の活動のための支援や陽動、あるいは回収などを行うのです」
「……何だか想像していた諜報部隊と、印象が違うな」
山本は違和感に気づいた。敵地に潜り込み、敵国人になりすまして情報収集をする――そういうものを想像していた。
山本や、あるいは永野も実のところ神明が言った特別な部隊について真に理解しているとは言えなかった。
世界に目を向けても、イギリスの特殊空挺部隊=SASや、アメリカの戦略情報局=OSSといった特殊部隊や特務機関というのも、異世界帝国との戦争に突入した1940年代に誕生しており、まだそうした組織について、世間的に認知されていなかったのである。
神明は例をあげた。
「たとえば今回のアスンシオン島での一戦を思い出していただきたい。我々は、ゲートを破壊するために出撃しましたが、そのゲートを発生する装置が、どこにあるのかわからなかった。結果、艦砲射撃と、ゲートを抜けての航空攻撃の二つの方法を実戦で試すことになりました」
山本、そして実際に第二挺身部隊指揮官として現地にいた伊藤は首肯した。
「ですが、これが事前に、発生機がどこにあるのか予めわかっていたら、果たして投入戦力はどうなっていたか。あるいは、その特殊部隊が現地で発生機を破壊できたとしたら……どうでしょうか?」
なるほど――山本が腕を組んで考える。永野が口を開いた。
「燃料と砲弾を節約できたね」
「情報がわかっていれば、必要な戦力を投入するだけで済みました」
伊藤は言った。
「おそらく作戦もまた変わったでしょう」
三者が理解したところで、神明は続けた。
「敵の情報を掴むため、ニューギニア方面やオーストラリアなどに潜入調査部隊を上陸させる必要があるでしょう」
異世界人がどこからきて、本拠地はどこなのか。今後の戦争の行方にかかわる情報を集めるのだ。
「また、サイパンやグアムに、潜入偵察チームを潜伏させられれば、敵飛行場の状況が掴めますし、連合艦隊による攻勢の際の支援もできるでしょう」
「うむ、進攻前に敵戦力や配置などの情報があれば、作戦の進行もスムーズになるだろう」
山本は乗り気になる。
「後は、東南アジアの、以前、異世界帝国に占領された土地での追跡調査もするべきでしょうな」
神明が出した、敵の占領地という言葉に、永野が眉を下げた。
「聞けば、現地の多くの住民が、異世界人に連れ去られたという話だったな」
軍令部第三部の情報によれば、南方作戦で制圧、異世界帝国を駆逐した土地では、住民の組織的誘拐の事実が明らかになっている。
異世界人たちは、地球人をいずこか集団移送させているらしい。現地に残されていた住民たちも、どこへ連れ去られたのか、何故連れ去るのかわからないという。
「彼らの理由がわかれば、終戦に向けての材料になるかもしれませんね」
伊藤の言葉を受けて、神明は事務的に言う。
「その辺りを探り、異世界人とは何なのか、検討する必要があるでしょう」
「そういえば、魔技研の前身は、異世界漂流物の研究をやっていたんだったな」
伊藤が思い出す。魔技研が異世界人の侵略に対抗するための組織として作られたのを、永野から聞かされて、なるほどと思った。
「今回の特別部隊の発案も、魔技研から?」
「研究部門はありましたが、戦闘部門としては、陸軍の魔研から、誘いの声があったというところですね。能力者を隊員に加えたいというので、詳細の説明を受けました」
神明が白状する。それを聞いて山本は、神明がやけに特別部隊の話に詳しかった理由に納得した。
「陸軍か……」
「なんでも、陸軍では昨年、関東軍が機動第二連隊というものを編成したそうです。502部隊とかいう。ソ連領内に侵入して後方攪乱を行うのが目的とか」
「連隊?」
「実際はもっと規模が小さいようですが……。そういう特殊部隊の構想があったから、対異世界人用にも編成しようという話になったのだと思います」
陸海軍の垣根を超えて、云々と聞いて、何となく、陸海軍の統合を図りたい陸軍側が言いそうだと、一同は思った。
「陸軍かぁ……」
山本は渋い顔になった。海軍と陸軍の仲はよろしくない。山本の盟友たちの中にも、露骨に陸軍を嫌っている者も少なくなく、正直、不安もある。山本自身は佐官時代に陸軍将校と賭け事を通じて交流もあり、そこまで印象は悪くない。
「その編成される特別部隊。陸軍の作戦ばかりに駆り出されて、こちらの支援や活動ができないなんてことは……」
身内で、こんな心配が出るくらい、陸海軍の仲はお察しである。
「もし心配なら、海軍だけで特殊部隊を編成すればよいのでは?」
陸軍特殊部隊、海軍特殊部隊。それぞれいてもいいだろう――などと、珍しく適当なことを言う神明は、久しぶりに普段以上の酒を入れていた。
かくて、料亭での会合は、特別部隊の構想や運用、異世界人の謎などの、軍令部と連合艦隊トップの間での情報共有がなされて終了となった。
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