紫陽花

IORI

狡い人

 貴方は紫陽花みたいな人

 

 君の冷たい目は、本当の俺を写していた。長い睫毛は、君の瞳を守るように、大きな黒目は、夜闇のような漆黒で俺という存在の干渉を拒む。君の全てが、滑稽なほど俺を拒否してる。

 紫陽花は、咲く場所によって色が変化する。その所為だろうか

「移り気」

「冷酷」

 酷いなぁ。咲き誇る場所によって、一番魅力的な自分になるだけなのにね。俺はただ、この場所じゃないと思ったから、違う場所で咲き方を探しただけなのに。何がいけないの?

 目を腫らした君は、牡丹のように色づいている。ガラス細工みたいに触れると、君の瞳孔が開く。次いで、耳に指を滑らせて、華奢な体を抱き寄せる。抵抗する拳をそっと包んで、指を絡ませると、こう呟くのだ。

 

 気の所為だよ

 

 嗚呼、ほら、もう俺しか映らないよね。




 貴方は紫陽花みたいな人

 

 信じてた、信じたかった。貴方の体温に触れたその日から、今日この日まで。それなのに、貴方の本性を暴いてしまったのは、紛れもない私。

 知らない方が幸せなこともある

 いつか誰かに言われた、その意味を知りたくなかったんだ。

 滲んだ世界に、貴方が、にこやかな貴方がいる。不意に距離を詰められて、しなやかな指が頬を伝う。あの頃と何一つ変わらない触れ方で、恐怖と何かで息が詰まる。次いで、耳を弄りながら、慣れた手つきで抱き寄せられる。

 急上昇する心音が、愚かな感情の存在を知らせてくる。嗚呼、飲み込まれてしまう。認めたらお終い。ぐちゃぐちゃな頭のまま、拳を貴方に振りかざす。

 

 どうしてそんな優しい目をするの

 

 嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘

 浅くなる呼吸を宥めるように、そっと指先で解かれる。仕上げに甘く囁くと、プツンと切れた。

 

 嗚呼、もう、溺れてしまえ。 



 

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紫陽花 IORI @IORI1203

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