第33話 幼馴染を乗り越えて恋人になっていく二人

 俺達は、映画館の近くのレストランに移動した。


 ビルの高層階にある。


 レストランに着くと、すぐに予約していた席に案内された。


 おしゃれで、料理もおいしいと評判のレストランだ。


 高層階にあるので、景色もいい。夜景も楽しめそうだ。


 恋乃ちゃんも、気に入ってくれるといいんだけど。


 彼女なら、多少気に入らないところに行ったとしても、それで俺のことを嫌いになることはないだろう。


 でも気に入ってくれた方が、もちろんうれしい。


 俺がそう思っていると、


「夜景がきれい。こういうところ来たの初めて。康夢ちゃん、ありがとう」


 と言って微笑む恋乃ちゃん。


 俺はホッとした。


「喜んでくれてうれしい。来たかいがあったよ」


「康夢ちゃん、いろいろ調べてくれたんだね」


「レストランはたくさんあるんだけど、ここが一番いいと思ったんだ」


「こういうところも素敵だと思う」


「素敵だなんて。でもまだまだこれから。料理もおいしいと思うから」


「楽しみにしてる」


 そう言うと恋乃ちゃんは微笑んだ。


 料理が運ばれてくる。


 この店のおすすめコース料理だ。


「おいしい。こんなおいしい料理を食べたの初めて」


 思えば、恋乃ちゃんと一緒に食べたの自体、小学校四年生の正月までさかのぼってしまう。


 でもその時は、幼馴染としてだったので、それほどの印象はない。


 まして、レストランで食事をしたことは、二人きりではあるわけがなく、家族一緒でもあったかどうか。


 家族一緒の場合は、どちらかの家ですることになっていたので、多分一回もレストランではなかったと思う。


 小学校五年生以降は、お互いの家で食事をすることもなくなった。両親どうしも、次第に疎遠になっていたんだろうと思う。


 今は、俺の両親は遠くにいるし、恋乃ちゃんのお父さんも今年の四月から単身赴任をしているので、お互いの母親どうしが、電話でたまに連絡し合うぐらいになっていると思う。


 恋乃ちゃんが喜びながら食べているのを見ていると、俺もうれしい気持ちになる。


「康夢ちゃんも食べて。おいしいから」


「うん」


 俺も食べ始める。


「評判だとは聞いていたけど、これほどおいしいとは」


「おいしい料理が食べられて幸せ。ありがとう。康夢ちゃん。好き」


「おいしいと言ってもらって、ここを選んでよかったと思うよ。俺も恋乃ちゃんが好き」


 微笑みあう俺達。


 幸せだ。


 料理を食べ終わり、コーヒーを飲みながらくつろぐ。


 恋乃ちゃんとの話は楽しい。


 今日の映画の話、アニメの話など、話題は尽きない。


「康夢ちゃん、わたし、デートできるようになるとは思わなかった」


「俺もだよ。疎遠になっていたから、幼馴染としての関係も薄くなるんじゃないか、と思っていた」


「わたしもそう思っていた。でも今は幼馴染としての関係も戻ったし、それを乗り越えようとしている」


「乗り越えられるように、もっともっと仲良くなっていきたい」


「わたしもそう思っている。わたし、どんどん康夢ちゃんが好きになっていく」


「俺も恋乃ちゃんのことがどんどん好きになっていっているよ」


「わたしのこと嫌いにならない?」


「いや、それは俺の方こそ思うんだ。恋乃ちゃん、小学校の時から人気があるから。今は俺のこと好きでいてくれているけど、俺のこと嫌いになったらどうしょう、と思って」


「そんな心配はしなくていいよ。わたし、康夢ちゃんのことしか好きになったことないし、これからも康夢ちゃんのことしか好きにならないから」


「ありがとう。そう言ってくれると、とてもうれしい」


「康夢ちゃんの方こそ、最近、女の子の間で人気が上がってきているのよ。他の女の子がアプローチしてくるかもしれない」


「俺、女の子に人気があるって思ったことないんだけど」


 祐七郎にも女の子の人気が高くなってきていると言われたことがある。


 しかし、今まで告白されたことは一度もない。それどころか、告白しても振られている。


「康夢ちゃん、話しかけづらいところがあるから。それで敬遠していた女の子が多かったんだと思う。でも優しくて頼りがいのあるところを魅力に思う人が増えて、それが次第に恋に変わってきているようなの。そうした人達に告白されたら、康夢ちゃん、心が動いちゃうんじゃないかと思って」


「でも俺、既に二人に振られているし、恋乃ちゃんとこうして恋人になったからには、もう他の女の子に心を動かされることはない」


「康夢ちゃん……」


「俺は恋乃ちゃんのことしか想わなくなってきている。この想い、届いてくれるといいなあ、と思っている」


「わたしも康夢ちゃんのことしか想わなくなってきている。康夢ちゃん、好き」


「俺も恋乃ちゃんが好き」


「こういう夜景のきれいなところで、康夢ちゃんに『好き』って言ってもらえて、幸せ」


「俺も幸せだよ」


 そのまましばらくの間、俺と恋乃ちゃんは微笑みながら見つめ合う。


 キスをしたくなってきた。


 そのかわいい唇に、俺の唇を重ね合わせたい。


 そういう気持ちがどんどん強くなっていく。心が沸騰していく。


 しかし、それはこの後。


 もう少しだけ我慢しなくてはいけない。


 デートの最後。一番盛り上がってきたところでキスをする。


 素敵なキスをしたい。


 俺はそう思うのだった。

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