第22話 恋乃ちゃんに連絡先を教えてもらう時

 翌日の朝。


 俺は今日こそ恋乃ちゃんに連絡先を教えてもらおうと思っていた。


 恋乃ちゃんとあいさつしかできない関係に、耐えられなくなっている。


 昨日祐七郎と話をした後、その想いは強くなった。


 もっと仲良くなりたい。


 付き合いたい。


 恋人になりたい。


 そう思いながら、学校に向かっていった。


 そして、教室に入りかばんを机に置くと、恋乃ちゃんの教室に向かっていく。


 今日こそ、今日こそ!


 そう強く思いながら歩いて行く。


 胸のドキドキは大きくなり、少し苦しさもある。


 そして教室の前にやってきた。


 恋乃ちゃんがいつものように、


「おはよう」


 と微笑みながらこちらにやってきた。


 俺はその笑顔に、何も言うことができなくなりかける。


 それだけ恋乃ちゃんの笑顔は素敵で、心がとろけていくものなのだ。


 しかし、ここで何も言えなかったら、関係は進んでいかない。


 俺は、


「おはよう」


 とあいさつをした後、恥ずかしさを我慢して、


「き、今日の昼休み、食べ終わったらグラウンドの端の方まで来てくれるかなあ」


 と一挙に言った。


 な、なんとか言うことができた。これだけでも大きな一歩だ。


 少しホッとする俺。


「どうしたの? 相談ごと?」


 恋乃ちゃんは、心配そうに言う。


「いや、そういうわけじゃないんだけど。話をしたいことがあって」


 一度話をし始めたら、もう進むしかない。


「昼休み、用事とかある? あるなら仕方がないと思っている」


「別にいいけど」


「じゃあ申し訳ないけど、お願いする」


 と言って俺は頭を下げた。


「うん。わかった。それでグラウンドの端って、あそこでいいの?」


 位置のズレがあるといけないので、待ち合わせ場所の確認をする。


 そして、待ち合わせ時間の確認もした。


 これで、恋乃ちゃんに連絡先を教えてもらう為の準備は整った。


「じゃあ、また昼休み」


「うん。よろしくね」


 俺は自分の教室に戻って行った。




 昼休み。


 いよいよ恋乃ちゃんに連絡先を教えてもらう時がきた。


 相変わらず食欲は進まない。


 再び胸のドキドキが大きくなっていく。


「恋乃ちゃんだって、お前とやり取りしたいと思っているはずだ。絶対うまくいく」


 祐七郎に励まされた後、俺はグラウンドの端へと向かった。


 恋乃ちゃんと二人きり。しかも、彼女の連絡先を聞くと言う大切なことをこれから行わなくてはならない。


 緊張する。胸のドキドキが大きく、苦しくなってきている、このまま教室に戻りたいという気持ちすらある。


 しかし、これを乗り越えなければならない。


 俺は恋乃ちゃんと恋人どうしになりたいんだ!


 恋乃ちゃんは既に来ていた。


「ごめん、遅くなったかな」


「いや、時間通りに来てくれた」


 晩秋の温かい陽射しが降り注いでいる。


「恋乃ちゃん、それで、話があるんだ。聞いてもらえるとうれしいんだけど」


「うん。話をして。わたしたち幼馴染なんだもの。遠慮しなくていいわよ」


「ありがとう。それで、話って言うのは……」


 その後を続けようとしたが、言葉が出てこない。


 中学生以降の恋乃ちゃんとこうして二人きりでいるのは、これで二度目。


 あいさつはしているが、二人きりというわけではないし、時間も短い。


 いい匂いがするし、かわいすぎて、心がふわふわと浮き立ってしまう……。


「康夢ちゃん、大丈夫?」


「ご、ごめん」


 俺は気合を入れる。


 よし、今なら言うことができそうだ。


「恋乃ちゃん、お願いするのは難しいことなのかもしれないけど」


「難しいこと? わたしに出来ない可能性があること?」


「そうかもしれない」


「まず話をしてもらわないと」


「そうだね」


 俺は深呼吸をすると、


「ルインやメールアドレスを教えてほしいんだ。電話番号も。それで、恋乃ちゃんとやり取りがしたい」


 と一挙に言った。


 これで言うべきことは言えた、後は返事待ちだ。


 ホッとする俺。


 もし断られたとしても、それはしょうがない。


 いや、心の打撃は大きいかもしれないなあ……。


 恋乃ちゃんは驚いていたが、


「連絡先……」


 と言った。


「もちろん俺の連絡先も教えるよ。連絡先の交換ということになる」


「康夢ちゃん、わたし……」


 恋乃ちゃんは、言おうとして黙ってしまう。


 これはやっぱり断られてしまうのだろうか。


 せっかくここまで話をすることができたのに……。


 あきらめの気持ちが湧いてきた時。


「康夢ちゃん、わたしも連絡先の交換をしようと思っていたの。だってわたしたち幼馴染だし」

 

 と顔を少し赤くしながら言った。


「じゃあ、いいの?」


「うん。わたしのでよければ」


 俺はその場で恋乃ちゃんと踊り出したい気分になった。


「それじゃあ、お願いします」


 俺達は、ルインやメールアドレス、電話番号の交換をした。


「ありがとう。康夢ちゃんと連絡先の交換ができた。うれしい」


「恋乃ちゃんに喜んでもらえてうれしい」


 連絡先は交換した。


 しかし。交換しただけではまだ足りない。連絡し合うことが大切だ。


「今日からルインで連絡したいんだけど、いい?」


 俺は恋乃ちゃんにお願いをした。


 ここまできたんだ。断られることはないだろう。


「もちろんいいわよ」


 恋乃ちゃんはOKしてくれた。うれしい。


 恋乃ちゃんと恋人どうしになる道がこれで開かれた。


 しかし、俺達はまだまだ幼馴染の状態。俺は恋乃ちゃんと恋人どうしになりたい。


「ありがとう。これからよろしく」


「こちらこそよろしく」


 恋乃ちゃんの微笑み。


 恋乃ちゃん、好きだ。今はまだ言うことができないけど、言えるようになっていきたい!


 まず今日からやり取りをして、仲良くなっていこう!


 心がとろけそうになりながら、俺はそう思うのだった。


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