第21話 恋乃ちゃんともっと仲良くなりたい
俺は恋乃ちゃんのいる教室に向かっている。
一昨日はやいなさん、昨日はりなのさんに、付き合ってほしい、と言われた。
二人の申し出を聞いていると、俺が付き合いたいのは、この二人ではなく恋乃ちゃんなんだ、という気持ちが、さらに強くなってきた。
特に昨日りなのさんと会った後は、恋乃ちゃんともっと仲良くなりたい、という想いで心が沸騰しそうになった。
この勢いなら、連絡先を教えてもらうことができそうだ。
そう思いながら歩いていく。
教室の前に来たところまでは勢いがあったんだけど……。
恋乃ちゃんが、
「おはよう」
と微笑みながらあいさつすると、それだけで胸のドキドキが大きくなり、何も言うことができなくなってしまった。
俺は、
「おはよう」
と言うのがやっと。
それから一日中、苦しむことになってしまった。
どうして俺は連絡先さえも聞くことができないんだろう。
まだ告白をするわけではない。
今この状態なら、告白する時はどうなってしまうのだろうか。
いや、今のままだったら、告白どころかあいさつだけの状態が続き、月日だけが経ってしまう。
ただ月日が経つだけだったらまだいい。
その内、素敵な人が現れて、その人に取られてしまうかもしれない。
そういうことだけは避けたいと思っているんだけど……。
俺と恋乃ちゃん、全く知らない間柄ではなく、むしろ幼馴染。
本来だったら連絡先を知っているのが当然ではないだろうか。
それくらいの勇気がなくてどうするのだろう。
しかし、今の俺にはその勇気がない。
食欲もなくなってきた。
昼になり、いつもの昼ご飯であるパンと牛乳を前にしても、食べる気になれない。
昨日は、恋乃ちゃんに連絡先を聞くことができなくて悩んではいたが、なんとか食べることができた。
でも今日は無理だ。
いつも一緒に教室で昼ご飯を食べている祐七郎が、
「元気なさそうだけど、大丈夫?」
と心配そうに言う
「食べないと元気がでないぜ」
「お前の言う通りだな。でもちょっと今日は食欲がない」
「どうした? 何か悩みがあるのか?」
「まあ、そんなところだ」
「悩みがあるなら相談にのるぜ」
「いつもありがとう」
「いいって。俺だってお前に相談しているじゃあないか。お前って頼りになるものな」
「俺って、お前ほど勇気がある人間じゃないからな。悩みはそういうところだ」
「まあ、あんまり自分を低く評価しない方がいい」
「どうしても自分が情けない人間だと思っちゃって」
「で、悩みは恋乃ちゃんのこと?」
「そうだ。連絡先さえ聞けない自分が嫌になっちゃって」
「連絡先を聞くのは、仲良くなる第一歩ということは言えるからな」
「でもこれは、絶対成し遂げなきゃいけないと思っている。これくらいのことができないで、告白なんてできるわけないもんな」
「そういう気持ちがあれば、きっと恋人になれるよ」
「そこまで行けるといいんだけど」
「お前なら大丈夫だよ。何度も言っているけど、恋乃ちゃん、お前のことが幼い頃から好きだと思う。俺も彼女の幼馴染だから、彼女のお前に対する気持ちを幼い頃から感じていたんだ。ただ今までは、二人とも幼馴染という意識が強すぎたのと、三年近くも離れ離れになっていたのが影響して、恋人への道が開けなかったんだと思う。少なくともあいさつは毎日できるようになったんだ。後一歩のところまで来ているじゃないか。もう少しだ。もう少しで恋人になれるんだ。お前がここで積極的になれば、恋乃ちゃんもきっと喜んでお前と付き合ってくれると思う」
「俺にはまだ遠い道のりのように思えるんだ」
「そんな弱気でどうするんだ」
「お前も新月さんには強気でいったの?」
「俺? まあ俺のことはどうでもいいじゃないか」
「どうでもよくはない。やっぱりお前はすごいと思っているんだ。小学校六年生の頃からのカップルだもんな」
「毎日ケンカばかりだよ。今日の朝もいつものようにケンカしていたし。まあいいことではないよ」
「でも彼女がいないと寂しいでしょう」
「それはもちろん。小学校五年生の頃からずっと一緒だもの。でももうちょっと優しくてもいいじゃないのかなあ、と思う」
祐七郎は顔を少し赤くしながら笑った。
「俺からすると仲が良くてうらやましい限り」
「まあ仲良くはしているな」
「俺もそういう風になりたい」
「だとしたら、まずは連絡先だ。連絡先を聞いて、毎日アプローチして仲良くなっていく。最初はルインだけになると思うけど、やがては電話でやり取りをする。それが大切なところ」
「連絡先がまず大切だな……」
「そして、お互いの仲が進んだところで告白する。前から行っているように、俺も応援しているから、絶対恋人どうしになってくれ!」
祐七郎は力強く言った。
「なんとか期待に沿えるようにしたい」
「うーん、まだちょっと弱いなあ。もう少し気合を入れた方がいい。恋乃ちゃんのこと好きなんだろう? 恋をしているんだろう?」
「そうだ」
「まあ俺の言えるのはここまでだ」
「ありがとう。まだ恥ずかしいところはあるけど、連絡先を教えてもらうようにお願いする。そして、恋乃ちゃんと恋人になれるように一生懸命努力する」
「恋人どうしになれるように願っているよ」
祐七郎は優しい表情で微笑んだ。
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