第13話 康夢くんのことが好きになっていくわたし (りなのサイド)

 三組のイケメンの彼とその恋人は去っていった。


 その後、わたしはしばらくの間、呆然としていた。


 やがて、わたしは何とか家に帰ってきた。


 もう何もしたくない。


 その日は食欲が全くなく、ベッドで涙を流し続けた。


 友達がルインを送ってきても、


「今日は気分がよくない」


 と返信して、それ以上のやり取りはしなかった。


 わたしは、それだけ心に大きな傷を負ってしまった。


 とはいうものの、それは、わたしが彼のことを好きになってしまったからだ。


 好きにさえならなければ、こんなにつらい思いをすることはなかったと思う。


 なんで好きになってしまったんだろう。


 イケメンだったら、優しくて、わたしのすべてを包んでくれると思っていた。


 それが、あんなに冷たい人だったとは。


 わたしの場合は例外なのかもしれない。一般的なイケメンは優しい人が多い気がする。


 しかし、いずれにしても、わたしは冷たい仕打ちを受けた、


 わたしだって、彼の為に一生懸命努力した。恋人として恥ずかしくないようにしてきたつもりだ。


 それをなんで理解してくれないんだろう。


 わたし、彼のことが好きで好きでたまらなかったのに……。


 わたしだって、何人もの男の人に告白されてきた女の子だ。魅力だって十分あったはず。


 そういう魅力も理解してくれなかった。


 残念でしょうがない。


 でももう彼との恋は終わったんだ。


 わたしは、もう彼のことを忘れたい。


 また涙が溢れ出してくる。


 もう、嫌だ。何もかも嫌になってきた。このまま倒れたいくらい。


 こんなわたしを癒してくれる男性はいないのかなあ……。


 そう思っていると、夏島くんのことを思い出した。


 小学校六年生の時に出会った人。


 あまり人付き合いは得意とはいえない方だと思う。でもわたしに対しては、いつも温かい笑顔を向けてくれた。


 席が隣になったこともあり、それなりに話すようにはなっていた。


 その頃から、わたしに好意を持っていたのかもしれない。


 しかし、わたしは夏島くんを特に意識することはなかった。


 いや、好きな人自体、小学生の間はいなかった。


 中学生になると夏島くんと話すことも増えた。


 夏島くんの方は多分、わたしへの好意は増していったのだろう。


 わたしだって、恋人がほしいと思い始めていた。


 しかし、わたしの方は、特に好みの人というわけでもなかったので、友達の中の一人としてしか意識していなかった。


 これは、夏島くんに限った話ではない。


 中学生の時、わたしは告白された。それも十人近く。


 しかし、わたしの好みではなく、全員振った。


 小学生に続いて、中学生の間も好きな人はいなかった。


 わたしは、なんで好みの人が現れないないんだろう、とつらい気持ちになったこともある。


 友達の中でも、恋人を作った人が現れ、その人たちのおのろけ話を聞くと、うらやましくてしょうがなかった。


 高校生こそは恋人を作るぞ、意気込んだものだ。


 そして、高校一年生の時。


 わたしは運命の出会いだと思った。


 三組のイケメン。


 優しく声をかけられたのだ。


 わたしはこの人に夢中になった。

 夏島くんは、同じクラス。話をすることはあったけど、小学生や中学生の時と同じで、ただのクラスメイト以上の意識はなかった。


 しかし……。


 振られた今になって思う。


 なぜ夏島くんの告白を断ってしまったのだろう。


 夏島くんは、熱い気持ちを持って、わたしに告白をしていた。


 わたしのことがそれだけ好きだったのだと思う。


 その時は、その気持ちがわからなかった。イケメンの彼のことしか心の中になかったからだ。


 しかし、思い出してみると、その気持ちが伝わってくる。


 その後の彼の告白とは大違いだ。


 わたしは、彼に告白されて、とても喜んだ。でも夏島くんほどの心がこもっていたのかどうか。


 そこまでの熱い気持ちはなかったんだと思う。熱い気持ちがあれば、わたしのことを振ることもなかっただろうし、心ない冷たい言葉もわたしに言うことはなかっただろう。


 そういうところをわたしはわかっていなかった。


 そして、夏島くんは優しい。


 夏島くんは、わたしにいろいろ気を使ってくれた。


 これほど人のことを第一に思ってくれる人は、少ないと思う。


 今思い出すと、夏島くんとは結構楽しく話をしていたと思う。


 それは、夏島くんがわたしのことを意識して、わたしと楽しく話すことを心がけていたのだろう。


 そして、夏島くんと話をしていると、心が癒されていた。


 イケメンの彼にはなかったところだ。


 でも今までのわたしは、夏島くんに心が傾くことはなかった。


 イケメンの彼の容姿に夢中だった。


 今頃になって、夏島くんの良さを理解してくるなんて……。


 いったい何をやっているのだろう。


 わたしの心の中では、夏島くんへの想いが次第に大きくなりつつあった。


 今なら、夏島くんの想いは受け入れられる。相思相愛になれると思う。


 これからは、康夢くんと呼ばなければならない。


 でも間に合うのだろうか。


 康夢くんの告白を断ってからは、もうだいぶ経っている。


 康夢くんは、もうわたしのことを好きではないのでは……。


 わたしはまた涙が出てきた。


 あの時、イケメンの彼じゃなくて、康夢くんを恋人にしていれば……。


 まだ間に合うのなら、間に合ってほしい!


 わたしはそう思うのだった。

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