第10話 恋乃ちゃんへのあいさつ

 翌日。


 俺は緊張していた。


 今日の朝、俺は恋乃ちゃんにあいさつをする。


 あいさつだけだったら、別に緊張する必要はないのかもしれない。


 幼い頃にもしてきたことだ。


 しかし、今までと違ってあいさつをするのは、恋の対象と想い始めた人。


 恥ずかしい気持ちがある。


 とはいうものの、これくらいのことで恥ずかしいと思っていたら、その先にある恋人どうしというところには、到底たどりつくことはできない。


 恋乃ちゃんの教室の前までやってきた。


 胸のドキドキが大きくなってくる。


「おはよう」


 かわいい声が聞こえてきた。

 

 恋乃ちゃんだ。

 

 なんとかわいらしい姿なのだろう。いい匂いもする。


「おはよう」


 俺は、恥ずかしさを抑えつつ、なんとかあいさつをする。


 そして、自分の教室に戻っていく。


 これで、恋人どうしへの道を歩み出したというところだと言えるだろう。


 俺はホッとした。




 昼休み。


 俺は教室で祐七郎と昼ご飯を食べていた、


 とは言っても、俺はいつもパンと牛乳だ。


 その後、俺達は話をする為に、グラウンドの校舎側のベンチに座った。


 祐七郎は、


「振られたのか」


 と言う。


「うん。後輩に。一組のイケメンと付き合っているっていう話だ」


「一組のイケメンね……。いずれにしても付き合っている人がいるんじゃ、しょうがないと思う」


「でも失恋っていうのは、傷つくもんだ。振られた直後は、涙が止まらなかった」


「大丈夫なのか? お前、今年の一月の時も振られてすごく苦しんでいただろう?」


「うん。あの時は慰めてくれてありがとう」


「いいってことよ。それより、つらくないか?」


「心配してくれてありがとう。まだしばらくの間は、失恋の苦しみが少し続くと思う。でも癒してくれた人がいたんだ」


「癒してくれた人?」


「恋乃ちゃんだよ」


「恋乃ちゃんって、お前とずっと疎遠だっただろう?」


「そうだったんだけど、昨日、失恋で苦しんでいる俺のところに来て、癒してくれたんだ」


「よかったじゃないか」


「よかったって?」


「それはもちろん、振られたことはつらかっただろうと思う。でも恋乃ちゃんと久しぶりに話すことができたんだろう?」


「そうだけど」


「これを喜ばずして、何を喜ぶっていうんだ。お前、小学校四年生の一月以来、恋乃ちゃんとほとんど話をしていなかったっていうじゃないか。それが、こうして話すことができたんだ。喜んでいいじゃないか」


「話すことができたのはよかったと思う」


「俺もうれしいよ。俺だって二人の幼馴染だ。二人は幼い頃、仲良く話をしていたから、やっとそれが少し復活したことにるんだからな」


「ありがとう」


「とにかくいい話だ」


「そして、恋乃ちゃんは素敵な女の子になっていた」


「恋乃ちゃんに恋をしたのか?」


 俺は少し恥ずかしい気持ちになる。


「恋かどうかはまだわからないところがある。でも今までの幼馴染の立場を乗り越えた、好きという気持ちになり始めているんだ」


「俺、幼い頃から、お前と恋乃ちゃんの仲を応援していたんだぞ。それなのに、疎遠になっていったから、結構悲しかったんだ。いつかまた、仲良くなれればいいな、って」


「応援してくれて、ありがとう」


 今までもいいやつだと思っていたが、俺と恋乃ちゃんの仲を応援してくれたなんて、なんといいやつなんだろう。


「これは、大チャンスだ。恋乃ちゃん、お前に恋まではしていないと思うけど、普通より強い好意は持っている、後はお前がその想いを伝えていけば、相思相愛になり恋人どうしになれる。お前、恋乃ちゃんのこと恋人どうしにしたいと思っているんだろう」


「うん」


 俺は小さい声でうなずいた。


「だったら、もっと恋乃ちゃんのことを好きになるんだ。まだまだその想いが少ない気がする。まあ疎遠になっていた時間が長すぎたからしょうがないとは思う。その分、恋乃ちゃんへの想いを熱くしていけ」


「ありがとう。そういう気持ちを持っていきたいと思う。そして、恋乃ちゃんと恋人どうしになっていきたい」


「その気持ちが大切だ。そうしていけば、お前と恋乃ちゃんは恋人どうしになれる。俺はお前達の幼馴染だ。応援させてもらうぜ」


 そう言うと、祐七郎は笑った。




 その翌日。


 俺は恋乃ちゃんにあいさつをする為、彼女の教室の前まで来ていた。


「おはよう」


 今日もかわいい恋乃ちゃんの声。いい匂いがして、それだけでも心が沸き立ってくる。


「おはよう」


 俺もあいさつをし、自分の教室に戻っていく。

 

 まだまだ恥ずかしさは強い。それ以上は何も言えない。


 それでもあいさつについては、少し慣れた気がする。

 

 しかし、近いうちにあいさつ以上のことができるようになりたい。


 もっと親しくなっていきたい、


 いろいろなことを話せるようになりたい。


 幼い頃のように楽しく話せるようになったら、恋人まで後少しだと思っている。


 とにかく、あいさつができるようになった。


 次は話ができるようになっていこう。


 そして大切なのは、祐七郎も言っていたように、恋乃ちゃんへの想いだ。


 ともすれば、あきらめの気持ちになっていたことが多かった。


 そういう気持ちも、恋乃ちゃんへの熱い気持ちで乗り越えていこう。


 そう思いながら、俺は自分の教室の席に戻っていった。

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