第5話 透析始めちゃいました

 透析を始めたら何を食べてもいいけど、水分制限だけは厳しい。

 何しろ尿がしだいに出なくなり、その分だけ躰に溜まるわけで、増えた体重の分だけ透析で抜いてもらう。躰に溜まった老廃物と水を機械を通して血液をダイアライザーで濾過してもらい、またその血液を躰に戻すのだ。手術で作ってもらったシャント近くに、血液を抜く方と戻す方の少し太めの針を刺す。あらかじめ麻酔テープを貼っていくのだが、看護師さんによっては恐ろしく痛いときがある。

 最初のうちは週3回、3時間透析だったのが、透析を始めて7年目で週3回、4時間透析になった。

 3時間のうちは何とか我満出来たのだが、このあとの1時間が長い事、長い事。

 でも、文句を言うと娘に叱られる。

「お母さんは高い血税で生かされているんやよ。文句を言うたら罰が当たる!」

 確かにそう。透析をすることによって生かされているんや。

 

 日本で透析治療が行われるようになったのは1965年頃。

 保険適用されるのが、その2年後。それでも自己負担額は月に10万から30万円。

 田畑を売って治療費を捻出するも、経済的負担から治療を断念し、その苦しみから自殺する患者があとを経たなかった。

 患者や家族たちが患者会を立ち上げ国会の周りをデモなどをして、現在の医療費助成制度を勝ち得たのだ。

 その恩恵に与って、僅かの医療費で透析を受けていることも知らず、新たに入って来る患者は患者会に入会することを平気で拒む。

 患者会は年会費6千円。年に2回、署名活動をして国会に嘆願書を送る。たったそれだけのことなのに、それらがじゃまくさいと言う。これからの患者会の存続が危ぶまれている。患者会がなくなったら医療費もどうなるかわからないというのに。

 最初の頃の透析は、どれだけ水が抜けているか、透析が終わってみなければわからないというお粗末なものだった。透析が終わってみたら、もとの体重と変わらなかったということがよくあった。いまでは計算通り引けている。

 これらも先人たちの恩恵を受けていることにほかならない。

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