竜王は争うより小説が書きたい

夜桜くらは

第1話 竜王ラヴァン

 あるところに、ペディオン国という小さな国があった。

 そして、国の外れには大きな城がひっそりと建っていた。

 その城は、竜王が住まう場所だと言われていて、国に住む人間たちは誰も近づかない場所だった。


 もし城に立ち入る者がいれば、竜王の怒りを買い、命はないと言われていたからだ。

 これほどの恐怖を民に植えつけるほど、竜王は恐ろしい存在なのだと誰もが信じていたのだ。


 ……だが、実際はそれほどでもなかった。



「お帰りなさいませ、竜王様」


「ただいま……。あぁ~……疲れた……」


「お疲れ様でございます」


 出迎えてくれた竜人のメイドたちに挨拶をしながら、竜王は大きな欠伸あくびをした。


 城の主である竜王の名は、ラヴァンといった。

 漆黒の髪を持ち、角と長い尾を持つ彼女は、美しい女性の姿形をしていたが、その正体は黒竜であり、人ではない。


「ふぅー……」


 城の一番奥にある部屋に入ると、ラヴァンは大きく息を吐いた。

 そこは彼女の寝室になっており、ベッドやタンスなどの家具が置かれている。


「それでは、私はこれで失礼します」


「うん、ありがとう……」


 部屋の扉の前で頭を下げて出て行くメイドたちを見送ると、ラヴァンはうつむいて不敵な笑みを浮かべた。


「フフフ……。よーし、書きますよ!」


 気合いを入れて羽ペンを握った彼女は、机の上に広げている紙に向かってスラスラと文字を書いていく。


「今日は、どこまで書きましょうか……?そうだ!不思議な生物と出会うところまで書くとしましょうかね!」


 そうつぶやくと、彼女は夢中になって物語を書き始めた。


 そう。ラヴァンは小説を書くことを趣味としていたのだ。

 書いている内容は現実に起こったものではなく、架空の世界を舞台にしたファンタジーものばかりだ。


 彼女は人間たちの書いた小説をたまたま拾って読んでみたところ、その面白さに感激した。他の小説も読んでみたいと思ったが、人間の町へ下りる訳にもいかない。

 そこで、自分で書けばいいと思ったらしい。


 ちなみに、ラヴァンが小説を書いていることは秘密にしている。

 何故なら、恥ずかしいからだ。


(うーん……ちょっと、長くなりすぎましたね)


 何枚にも渡って書いた文章を読み返してみて、彼女は苦笑いした。

 どうやら、かなり熱が入っていたようだ。


「よしっ!続きは明日にしましょうか!」


 満足げに微笑んだ後、彼女は机の上に置いてあったランプの火を吹き消した。

 すると、真っ暗になった部屋にカーテン越しに差し込む月明かりだけが残った。

 その淡い光を見ながら、彼女はそっと目を閉じた。

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