田中の世界

柏堂一(かやんどうはじめ)

「あの頃の俺を呼んでくれ」


 駅のホームで高校時代の同級生の田中にバッタリ出会った俺は、そのまま居酒屋に行って思い出話に花を咲かせていた。20年振りに会う彼とは3年間同じクラス同じ部活で、毎日のように馬鹿なことばかりやっていた。


 高校生の俺、それは人生の中で一番多感だったときだ。世の中の仕組みや出来事に興味を持ち、そこから感じ取ったものを吸収し、新しいことに挑戦する行動力を持っていた。


 なのに今の俺はどうだろう。


 世の中への興味を失い、当然の事ながらそこから何かを感じ取ることも無くなり、毎日だらだらと同じ事を繰り返している。

 

 同級生と思い出話をしたことで俺は、あの頃自分の中に熱い感情が有ったことを思い出した。


「酒が無くなったな、まだまだ飲むだろ?店員を呼ぶよ」


 あの頃の熱い感情を取り戻したい。


「田中、店員じゃなくて、あの頃の俺を呼んでくれ」

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