①エネミーハウス・カリキュラム ~人類の敵が、住み込み教官としてやってきた~
和成ソウイチ@書籍発売中
プロット(約10,700字)
※2022/10/09 修正
(タイトル)
エネミーハウス・カリキュラム ~人類の敵が住み込み教官としてやってきた~
(ログライン)
人類の敵――『エネミー』のひとりである主人公が、自分を殺せる少女を育成するため、討伐機関の教官となり、日本一危険な拠点、通称『エネミーハウス』で教え子の少女たちと共同生活する話。
(一行コンセプト)
育てるのは、俺を殺せる少女たち
(参考図書)
主人公イメージ
『雪人 YUKITO』(ビックコミック、小学館)より 宮本(ヤクザ)
(世界観)
【この世界の日常】
・『エネミー』と呼ばれる人外の力を持った存在が、日本の交通インフラ(道路、鉄道、海運)を至る所で寸断している。
・その結果、「北海道」「東北」「関東」「東海・中部」「関西」「中四国」「九州・沖縄」の7地域がそれぞれ自治組織を作り強い影響力を行使するようになっている。
・この7地域がそれぞれ特殊機関を作り、日夜、悪鬼を排除するために戦っている。
・主人公たちがいるのは「東海・中部」エリアの山間部。
・主人公とヒロインたちが暮らすのは、複数のエネミーのテリトリーが重なり合った『日本一危険な前線拠点』。通称、エネミーハウス。日夜襲ってくるエネミーたちの対処に教え子たちを駆り出す。
・最近、エネミーが勢力を拡大している。沖縄を除く九州が完全に音信不通となった。
・エネミーに対抗するための人材を育てる機関がある。
・エネミーに対抗しうる特殊能力者が一定割合で誕生している。
【エネミー】
・日本各地に出現した異形の化け物。
・エネミーの見た目も能力も様々。一般に、人の姿に近いほど力が強いと言われている。外見や能力などで、色々なタイプに分類される。(オーガ等)
・エネミーは『ガーデン』と呼ばれる縄張りを形成する。ガーデン内に潜んだエネミーに対しては、軽火器、重火器の効果が低くなるため、基本的に討伐は白兵戦主体。
・ガーデンのため、日本のあちこちで交通網の寸断が起きている。
・エネミーに敗北すると、人間はエネミーの家畜・奴隷・供物にされると言われている。
・エネミーには『輝核(コア)』と呼ばれる弱点があり、ここを破壊されると絶命する。ただし、輝核がひとつとは限らない。
・一般人にとってエネミーはおぞましい存在であり、絶対に近寄ってはいけないとされる。(食われる、殺される等、とにかく危険な相手と認識)
・エネミーの中には高い知性と社会性を持つ集団もいる。
【異形種討伐機関】
・組織的にエネミーを討伐するために設立された国立機関。関東地方に総本部、6地方に支部が設けられているが、現在はそれぞれがほぼ独自の方針で動いている。
・主人公たちが属する「東海・中部エリア」はエネミーとの戦闘が激しい地域なので、新しい戦力を継続的に投入するため、兵器の開発および人材の育成に力を入れている。
・主人公たちの元に成人(18歳)したばかりの少女たちを送り込んだのは支部の判断。理由は2つ。①主人公が教官の役目を本気で全うするつもりがあるのか探るため、敢えて若年者たちを送った。②主人公に、いわゆるハニートラップが有効なのか確認するため。少女たちは見た目重視で選ばれた。
【エネミーハウス】
・中部地方の山間にある古い建物。二階建て。計5部屋。トイレ、台所共用。ガレージあり。周囲に塀あり。
・異形種討伐隊の拠点のひとつだったが、複数のガーデンと重なり合うようになったため、一度は廃棄された。
・防衛のため、必要最低限の強化措置は施されている。
・前の管理人の趣味で、台所と風呂(離れの温泉)はやたらと設備が整っている。
・エネミーを解体処理する部屋が設けられている。
・周囲は山と森。車で15分ほどのところに政府の防衛拠点があり、さらにそこから30分ほどのところに街がある。
(主要キャラクター)
【主人公 アスラ】→地柱 アスラ(ちばしら あすら)
(容姿)
見た目は二十代前半。
長身痩躯だが筋肉質。
目つきが鋭く、彫りの深いイケメン。
額に包帯orバンダナを巻いている。(折れた角を隠すため)
黒シャツ愛用
身長 182センチ
体重 71キロ
(他の登場キャラにはない能力)
・万能の家事能力
・ほぼ不死(正確には弱点がその都度移動する)
・エネミー解体技術
(他の登場キャラにはない言動)
・毎朝、政府から支給される様々な試作品で自殺を図る(結局ほぼ無傷でがっかりするまでがセット)
・冷静沈着
・度を超して律儀(人間にもエネミーにも)
(その他特徴)
・エネミーの中でも特に強い力を持つ『オーガ』タイプ。
・かつて仕え、父親代わりだったエネミーを、自らの不注意で再起不能にしてしまったことを悔い、ガーデンを出奔。自暴自棄になって彷徨っていたところを異形種討伐機関の幹部に拾われる。その後、利害の一致を見て特別に教官になった。言葉にはしないが、アスラは教官の役目をまっとうすることが幹部に対する義理であると感じている。
・義理に生きる孤高の男。人間でいう極道の幹部のような生き様。
・普段はエネミーハウスの管理人としてそつなく仕事をこなす。ヤクザっぽい見た目と雰囲気にもかかわらずきれい好きで、料理もバッチリ。女子力高い。
・エネミーが襲撃してきたときは、基本的にヒロインたちに戦わせ、その戦い振りを評価する。怪我の治療、エネミーの死体処理も彼が担う。
・ヒロインたちのため、タバコは外で吸う。(幹部との約束)
・政府雇いの教官ではあるが、政府からの給金は受け取らない。株取引とエネミーから採れる素材売却益で生計を立てる。税金はきちんと払う(インフラを使う対価だと思っている)。
・人間に対する憎悪はない(愛着もない)ので、普通に人と接する。周囲にエネミーとバレても何とも思わないが、幹部への義理立てのために極力隠すようにしている。
・ヒロインたちのことは「余所から借りてきた兵隊」→「命を預かる舎弟」→「出会うべくして出会った守るべき存在」と認識が変わっていく。
・基本的に呼び捨て。敬語も滅多に使わない。
(価値観がわかる3つの質問)
1)あなたのモチベーションの源泉は?
「約束は守る。何と言われようと構わん。好きに言えばいい」
→価値観:『義理を果たすこと』に最も重い価値を置く。
2)どんなことで感動したり、幸福を感じたりしますか?
「俺の目を真っ直ぐ見られる人間は嫌いじゃない。不思議と、そういうヤツの目は綺麗なんだ」
→価値観:胸襟を開くこと、相手と心から繋がることを心地良く感じる。
3)これまでの人生で許せなかったことは? その理由も含めて。
「俺は親父を守れなかった。そして逃げた。最低のクズだ」
→価値観:義理を果たせない自分に存在価値などないとすら考える。
【ヒロイン1 片君 愛火(かたきみ あいか)】
(容姿)
年齢 18
やや茶色がかった長い髪をハーフアップに。
自信に満ちた、気の強そうな目。
とても姿勢が良い。
日本人離れしたプロポーションを持つ。
身長 167センチ
(他の登場キャラにはない能力)
・外部の熱源(火など)を自身の身体能力向上に繋げる特殊能力
(他の登場キャラにはない言動)
・高排気量のバイク好き(エンジンの熱を直に感じられるから)
・温泉を布団代わりにすることがある
・チャレンジ精神旺盛(よく失敗もする)
(その他特徴)
・エリートの道を進めると思っていたのに、初仕事がアスラとの同居であったことに強いショックと不満を抱いている。いつか政府の花形職場に戻るまでの我慢と思っている。
・高校を卒業したばかり。エネミーハウスにいたくないので普段は街に出て配達員として働いている。しかしエネミー襲撃があるたびに問答無用でアスラに呼び出されるので、不承不承、いろいろ融通が利く配達員(バイクに乗るのは好き)になった。ちなみに、働いていることは上層部から見て見ぬ振りをされている。
・チャレンジ精神旺盛で、かつ努力の人。そのため、基本的に自堕落で諦めばかりの居吹とは時々衝突する。一方、何かと一生懸命な雫に対しては応援したいと思っている。
・三人のヒロインの中で、最終的に最も強くアスラへの恋愛感情を抱く。
・基本的に呼び捨て。アスラのことは「あんた」もしくは「アスラ」。
(価値観がわかる3つの質問)
1)あなたのモチベーションの源泉は?
「相手は強大であればあるほど、壁は高ければ高いほど、燃えるってね」
→価値観:自分を熱くさせるものを常に求めている
2)どんなことで感動したり、幸福を感じたりしますか?
「やっぱり何かに熱中できているときが一番幸せね。そこで新しい発見があると、凄く心が動かされるわ」
→価値観:何かを達成することよりも、チャレンジし続けることに価値を置く
3)これまでの人生で許せなかったことは? その理由も含めて。
「高校に行ってたとき思ってたけど、やろうともしないで諦める連中を見るのは不愉快だったわ。まあ、それだけならいいの。本当に許せないのは、そういう連中が、たとえ力が及ばなくてもやる気がある人たちの足を引っ張ることよ」
→価値観:チャレンジすることに力の有無は関係ない。そういう者を悪く言うのは許せない
【ヒロイン2 小乃中 居吹(このなか いぶき)】
(容姿)
年齢 18
母が外国人のため、金髪。ミディアムボブの長さ。
大きな目をいつも眠そうに細めている。
年齢の割に小柄で線の細い少女
身長148センチ
(他の登場キャラにはない能力)
・空気の層を生み出す特殊能力(武器にまとって切れ味を増したり、足下で弾けさせて立体的な軌道をしたりできる)
・いつでもどこでも眠れる
(他の登場キャラにはない言動)
・甘えたがり。特に自分が気を許した相手にはウザ絡みする。逆に、合わないと思った相手は徹底的に塩対応。
・物に執着がない。
・死への恐怖が若干麻痺している。
(その他特徴)
・アスラとの同居を受け入れている。むしろアスラの観察が楽しい。「どうせ自分は社会からの外れ者だから」と諦めているせいもある。
・最初から最後までアスラを家族(父親的な存在)と見ている。
・普段はエネミーハウスに引きこもり、遊んでいるかアスラの観察をしている。たびたびエネミー討伐に駆り出されているが、本人は面倒くさそう。
・基本的に「ちゃん」付け。フランクな物言い。アスラのことは「センセー」と呼ぶ。
(価値観がわかる3つの質問)
1)あなたのモチベーションの源泉は?
「とにかく居心地が良いかどうか、かなあ。いいなって思ったら、やっぱそこに居たいよねー」
→価値観:流されることが心地良い
2)どんなことで感動したり、幸福を感じたりしますか?
「あたしってこんなだからさ。こんなあたしでもいいって言ってくれたら、そりゃあ嬉しいよねえ」
→価値観:他者に受け入れられたい
3)これまでの人生で許せなかったことは? その理由も含めて。
「うーん……思いつかないや。そんな面倒くさい感情、ずっと昔に忘れちゃった」
→価値観:怒りとか強い感情を持つのが面倒
【ヒロイン3 東園寺 雫(とうえんじ しずく)】
(容姿)
年齢 18
射干玉(ぬばたま)のような漆黒の髪をおさげにしている。
ヒロインの中で最も胸が大きく、そのためいつも猫背気味。本人的には苦労している。
身長 156センチ
(他の登場キャラにはない能力)
・液体を浄化し飲用可能にする特殊能力
・精密射撃
(他の登場キャラにはない言動)
・何もしないでいることが不安で、常に何かしら勉強か作業している。
・メモ魔。
・テンパりやすいが、ツボに入った時の集中力は群を抜く。
(その他特徴)
・アスラとの同居を受け入れつつ、常に警戒している。人一倍エネミーを憎んでいる一方、エネミーを簡単に打ち倒すことのできるアスラにどうしようもなく惹かれている。
・普段は自室で勉強か鍛錬。アスラを殺すのが今の自分たちには無理だと悟ったあとは、討伐機関の研修に積極的に参加するなど、なにかと熱心。
・最終的に、アスラの意に従うことを喜びに感じるほど心酔する。
・基本的に「さん」付け。敬語で話すことも多い。アスラのことは「教官」と呼ぶ。
(価値観がわかる3つの質問)
1)あなたのモチベーションの源泉は?
「私は凡人なので、何かしていないといつも不安で……。その不安こそが、モチベーションと言えるかも知れません」
→価値観:自分の能力は他より劣っているので、常に努力しなければならない
2)どんなことで感動したり、幸福を感じたりしますか?
「小さなことでも、何かをやり遂げたときは凄く嬉しく感じます。私って、いろんなことが中途半端になりがちなので……」
→価値観:成果を問わず、やり遂げることが大事
3)これまでの人生で許せなかったことは? その理由も含めて。
「自分には常に怒っています。なんでアレができないんだろう、コレができないんだろうって。さすがにもう、そんな自分にも慣れましたが」
→価値観:完璧な自分であらねばならない
【監視役 佐々 了丙(さっさ りょうへい)】
(特徴)
・政府の役人。40歳。アスラたちの監視役兼世話役。
・うだつの上がらない中年男性といった風貌。小太り。アスラと比べ、だらしのない印象を与える。ただ、仕事ぶりは堅実。頭も切れる。
・普段はエネミーハウスに一番近い討伐機関の施設に滞在。雑務をこなしている。
・うら若い少女たちの世話役にもかかわらず彼のような男性が選ばれたのは、もしアスラが少女たちを食い物にした場合、被害を彼女らだけに抑えるため。
・立場が正反対で反目し合うものの、アスラとは根本のところで通じ合うものがある仲。
【主人公の元配下 ヴァス】
(特徴)
・アスラの配下だったエネミー。タイプ:オーガ。アスラ出奔後も、彼のことを深く敬愛し、次代の主はアスラしかいないと考えている。
・額に立派な角を持つ。
・周囲の『気』を取り込み仲間のエネミーを強化できる能力を持っていたが、日に日に弱っていく現当主の気に当てられ続けたことで思考が先鋭化。『アスラを主に』の考えに取り憑かれるようになってしまう。
(物語構成)
全8章
序章
管理人アスラが拳銃自殺を試みる音が目覚ましがわりのエネミーハウス。住人であり教え子でもある愛火、居吹、雫のヒロイン三人は「心臓に悪いからやめてくれ」と訴えるも、無傷のアスラはどこ吹く風。
「今回の試作品はやはりハズレだな。お前ら、さっさと着替えてこい。味噌汁が冷める」
愛火)「信じらんない……。いつか絶対、ここから出て行ってやる……」
居吹)「わーい、センセーのお味噌汁好きー」
雫)「これ、最新型の……すごい。いったいどれほど頑強なの」
アスラは家事能力が高く、料理がうまい。完璧な管理人ぶり。
愛火はアスラに突っかかり、居吹は甘え、雫は食事をしながら本を読んでアスラに怒られる。一見すると長閑な食卓。
そこへ、けたたましいアラートが響く。エネミーハウスに敵が襲来した報せだった。
三者三様の反応をするヒロインたち。アスラは言う。
「今日も実習開始だ。死ぬ気で技を磨け。俺を殺せるようになるためにな」
第1章
序章の数日前――。
討伐隊員として駆け出しの片君愛火、小乃中居吹、東園寺雫の三人は、討伐機関の会議室に呼ばれ、『エネミーハウスでエネミーと寝食を共にし、彼の教えを受けること』と指示される。討伐隊として従事するものと思っていた彼女らは激しく戸惑う。
「人類の敵と、同居?」
……施設内が騒がしい。現場に駆け付けた愛火たちは、そこで数人の討伐隊員を叩き伏せ悠然と立っている青年を目撃。人類の敵――『エネミー』。それも、突出して強いと言われる人型のオーガタイプだった。
エネミー討伐に自信があった愛火がエネミーの青年(アスラ)に襲いかかる。彼女が鍛錬を重ねてきた必殺の一撃を、青年は片手一本で無力化する。まるで全身から力が吸い取られたように崩れ落ちる愛火。
「力が、相殺された……!?」
愕然とする愛火を、青年は冷たく見下ろしている。
緊迫した状況の中、討伐機関の幹部が現れる。彼は青年と顔見知り。幹部の取りなしで、その場は収まる。
幹部の説明から、青年こそが同居の相手、アスラであり、自分たちの教官であることを知らされ、驚愕する愛火たち。
その後、監視役兼世話役に任命された小太りの男――佐々(さっさ)の車で、アスラと愛火たちはエネミーハウスへ。車内はピリピリした空気。ただ、佐々とアスラはどうやら以前から面識があるらしい。佐々が図々しく話しかけ、アスラが面倒くさそうに応じる構図。
エネミーハウスへの道中、お互いの名前を改めて名乗り合う。その中で佐々が、アスラが隊員を半殺しにしたきっかけを話す。アスラが討伐機関東海・中部エリア本部に詳しくないことをいいことに、嘘を言ってだまし討ちをしようとしたから。正面から挑んできた愛火のときは無力化に留めたのだとわかる。
第2章
エネミーハウスへ到着。エネミーハウスの外観、内装。昭和の木造アパート。ただ、離れには天然温泉の風呂がある。
「荷物は自分で運べ。部屋は二階。扉に札を付けたから間違えるな。夕食は午後六時からだ」
「へ……?」
エプロン姿でクソ真面目にそう告げてくるアスラに、愛火たちは目を丸くする。
こうして、エネミーと討伐隊少女たちの奇妙な同居がスタート。
翌日。
エネミーハウスで立派な管理人ぶりを見せるアスラ(料理、洗濯、掃除バッチリ)。エネミーなのに普通に買い物(セール狙い)にSUVの車で颯爽と出て行く。
アスラが帰ってくるまで手持ち無沙汰になった三人。居吹の発案で、温泉に浸かりながら雑談。戦況のこと、エネミーハウスのこと、アスラのこと。
実は彼女たち、寄せ集めのためお互いのことをよく知らない。生い立ちや自らの特殊能力についても話す。
ふと、雫が不安を口にする。
「私たち、こんなことをしていていいのでしょうか。ここは、ガーデンが重なり合う最前線なのに……」
直後、計ったようにエネミー襲来のアラートが鳴る。
急いで着替えて外に出ると、すでに帰宅していたアスラが待ち構えていた。
最初のエネミー撃退戦。ヒロインたちのぎこちない戦いぶりとアスラの指揮指導ぶり。そんな中、人間に味方するアスラを、エネミーら全員が「裏切り者」と罵る。
そして戦闘終了。アスラは容赦なく駄目出しをする。
「お前たちには強くなってもらわなければならない。俺を殺せるようにな」
それから、アスラによる教育と討伐を繰り返すエネミーハウスでの暮らしが始まった。
基本的に、アスラの教育は実戦の中で行われる。襲ってくるエネミーを撃退し、アスラがそれにアドバイスする形。
毎日必ず、ヒロイン三人対アスラの組み手を行う。愛火たちはフル装備だが、アスラにまったく歯が立たない。だいたい決着は相殺技――出会ったときにアスラが愛火に放ったあの技で無力化されへなへなになる三人。
「あんた、死にたいんじゃないの!? なんでこんな無意味なことするのよ。死にたいならさっさと自分で死ねばいいのに!」と叫ぶ愛火に、アスラは静かに答える。
「俺の輝核(弱点)はふたつ。ひとつは額のコレ。もうひとつの在処は俺にもわからん。毎日試しているが、いっこうに死ねん」
「なんですって……!?」
「それに、今はお前らの教官だ。途中で投げ出す半端な野郎と人間に思われるのは、死ぬより屈辱だ」
第3章
エネミーとの戦いの合間、ヒロインそれぞれとアスラとの日常エピソード。
愛火)
討伐機関の本部で働きたかったのに、それが叶わなかったこと。事情があって彼女とともに母校の高校に赴いたとき、本部採用が決まった才色兼備の有名人として周りから持ち上げられる一方、現実は違うことに思い悩む愛火を目の当たりにするエピソード。
居吹)
他の少女たちと違い、エネミーハウスでぐーたらする居吹。その分、最も多くエネミー襲撃を経験するが、諦めが早くすぐ死にかけてはアスラに助けられる。両親を他人としか思えないほど冷めた家庭環境だったことがわかるエピソード。
雫)
討伐機関の研修などに積極的に参加する雫。がむしゃらに努力する姿を討伐機関の同僚からは嘲笑われる。凡人が身の丈に合わない能力を手に入れようとあれもこれもチャレンジして、結局すべて中途半端に終わってしまっていることを知るエピソード。
アスラのおかげで少しずつ自分の悩み、トラウマと向き合うことができるようになってきたヒロインたち。アスラへの認識が変わっていく。
温泉で寛ぐ愛火たち。ふと、アスラに名字を付けるとしたらどんなのが似合うかの話になる。
「属性で選ぼうよ。愛火ちゃんが火、あたしが風、雫ちゃんが水。だったらセンセーは地だよ!
「良い感じに物騒でお似合いかもね」
第4章
一方そのころ、懇意にしている小さな日本料理店で、討伐機関の幹部と酒を交わすアスラ。
「相変わらずその銘柄のタバコが好きなのだね」
「教え子たちの前では吸っていない。あんたとの約束は守っている」
「なぜ、人間に協力してまで死に急ごうとするんだい」
アスラは頑なに答えない。ただひとこと、「エネミーハウスとあいつら(ヒロインたち)は、あんたへの義理だ」と言うのみ。
アスラ、帰宅までの道中で過去を回想。親父と慕ったエネミーとの暮らし、一家では責任ある立場だったにもかかわらず、自分の力が及ばず親父を危険にさらしたこと、それによって一家のガーデンも荒らされてしまったこと――。
「俺は親父を、一家を守れなかった。そして逃げた。最低のクズだ」
第5章
ある日、エネミーハウスにアスラの元配下のオーガがやってくる。ヴァスとその妹。アスラは彼らからいまだに深く慕われている。
アスラとヴァスが話し合っている間、妹とヒロインたちは一緒に温泉に入る。そのとき妹からアスラの過去を聞く。妹はヴァスと違い、アスラの心情を理解していた。そしてヒロインたちに可能性を見出し、その場で自分の力を分け与える。(雫の特殊能力を使い、ヴァス妹の血を飲む?)
一方その頃のアスラ。ヴァスから、アスラの親父(仕えていた主)を自分たちが討ったと聞かされる。ヴァスは「自分たちの新しい主になるか、主殺しとして自分たちを討つか」の選択をアスラに迫る。彼は、アスラが立たないのならこの場で殺されることも覚悟していたのだ。
肯定も否定もせず、代わりに「親父の遺体を確認したい」と言うアスラを、ヴァスはガーデンまで連れて行く。
その道中、あちこちにアスラの顔見知りだったエネミーたちの屍があった。
「あなたの道を確保するため、皆、喜んで命を差し出しました。この辺りの雑魚どもは一掃。あなたの新しいガーデンです」
「ヴァス……お前」
アスラにとって、それは
たどり着いた先にあったのは、見るも無惨な姿になった親父の姿。忠義の相手をこんな形で喪ってしまうことに、アスラは抑えていた感情を爆発させる。それでも、アスラは新しい主になることを拒否。
直後、ヴァスに後ろから刺される。アスラに流れ込んでくる膨大な力。
「あなたなら、そう言うと思っていました。ですから、無理矢理にでも主になってもらいます。たとえ、我ら一家があなたひとりになったとしても」
ヴァスの命をかけた特殊能力により、アスラの肉体は暴走状態寸前になる。ヴァスは、アスラが感情的に不安定になる瞬間を狙っていたのだ。最強のオーガとして覚醒してもらうために。
行き過ぎた忠義の暴走――ヴァスに自分と同じ闇を見たアスラは、理性をかき集め、ヴァスにトドメを刺す。
「俺は、お前を許す」
アスラの一言に、ヴァスは涙を流しながら崩れ落ちる。
第6章
幸か不幸か、暴走寸前になったことで輝核が剥き出しになり、自殺のチャンスを得るアスラ。意識を失う前に自らの手でトドメを刺そうとしたとき、佐々の運転する車に乗った愛火たちが突入してくる。
「勝手に死ぬな!」と叫ぶ愛火。アスラは笑って、彼女たちに言う。
「卒業試験だ。俺を殺せ」
愛火たちのために無防備に輝核をさらすアスラ。彼の急所は二箇所。同時に破壊すればアスラは死ぬ。ヴァスの妹から力を分け与えられた愛火たちは、アスラによって鍛えられた最高の一撃を叩き込む。
力が抜けていくアスラ。「これでようやく死ねる」――そう思っていた。だが、彼は目を覚ました。生きていたのだ。周囲には気を失った愛火たち。
「ったく、肝を冷やしたぞこの野郎」
憎まれ口を叩きながらやってきた佐々。どういうことかと尋ねるアスラに、佐々は答える。
愛火たちと出会ったときにアスラが放った技――それを彼女らは応用し、輝核への衝撃を相殺したのだと。
「お前の教えた技が、お前を救ったんだ」
呆然とするアスラ。やがて愛火たちが目を覚ます。彼女らはアスラをさんざん罵ったのち、こう宣言する。
「そんなに主が欲しいのなら、私たちが雇ってやる! あんたはこれから、
愛火たちが初めて見るような、ぽかんとした顔をするアスラ。
その後、佐々の車に戻る。車の近くには、樹に寄りかかるように息絶え、砂となって消えていくヴァスの妹がいた。運転席の佐々は言う。
「俺は片君たちをエネミーハウスまで送る。この車に乗るかどうかは――お前が決めろ」
愛火たちが固唾を呑んで見つめてくる中、主人公は車に背を向ける。
「……一家の連中を弔ってくる。少し待っててくれ」
終章
今日も銃声で目覚める愛火たち。だが、アスラが自殺を試みた音じゃない。悪さをしようとしたエネミーを撃った音だ。
「朝ご飯は自分たちで作るから」と台所を追い出されるアスラ。タバコを吸うために外に出ると、佐々がやってくる。今回の事件、愛火たちの成長について話すふたり。
「片君たちをエネミーハウスから本部付きに異動させる話が出ている」と内部情報を話す佐々。しばらく考え、「いいんじゃないか」と応じる主人公。予想外の返事に慌てる佐々に、「俺が忠義を尽くすには、もっと強くなってもらわなきゃ困る」と答える。
それからアスラは愛用していたタバコを佐々に押しつける。
「お前にやる。味が軽すぎて飽きた」
アスラを呼ぶ愛火たち。彼女らの元へ行くアスラ。その背中に、失っていた忠義の矛先を見つけたのだと感じた佐々は、「佐々さんもどう? 朝ご飯」の誘いを断り、ひとり車へ。
車内でアスラからもらったタバコを吸う佐々。とたんに咳き込む。
「あの野郎。なにが『味が軽い』だ。俺を殺す気か」
エネミーハウスから聞こえてくる賑やかな声。佐々、タバコを吸いきって気合いを入れる。
「仕方ない。本部への報告は色をつけてやる。せいぜい気張れや、鬼教官殿」
車を発進させる佐々。
エネミーハウスのアスラの自室。誰もいない室内で、携帯端末が新たな指令の着信を伝えていた。
(1巻了)
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